第23話「傷と作戦会議」
戦闘を終え、控室のドアが閉まった瞬間、緊張の糸が切れたように誰もがその場に座り込んだ。
応急処置を受けながら、レントは腕を押さえて深く息を吐く。
「……すまない、足を引っ張った。」
その言葉に、ナナミが首を横に振る。
「違うわよ、あれは誰だって……! だって、普通は人間を狙わないはずでしょ!」
ミミミが不安そうにナナミの袖を握りしめる。
「……でも、撃たれました……。」
ナナミはミミミの頭を撫で、震える指を止めるように強く抱き寄せた。
ナイアは壁に寄りかかり、腕を組んだまま深く考え込んでいる。
「……やっぱりな。サイトが裏で動いてやがる。」
「……あいつが?」
ハイネが顔を上げる。
「人間を狙うよう指示されたチーム……最初からそう組まれてたんだろう。ルールなんて形だけさ。」
タイチが額を拭いながら、苦く笑った。
「つまりこれからも、俺たちはそういう連中と戦わされるってわけだな。」
ユウロが小さくうなずく。
「……安全圏はありません。ですが、私たちが戦わなければ……。」
「分かってる、ユウロ。」
タイチが優しく応えた。
レントは片腕を吊ったまま、低く呟く。
「……俺はもう最前線には立てない。次の試合までは無理だ。」
「じゃあどうする? 俺たちだけでやるしか……。」
ハイネの言葉に、ナイアが指を鳴らして割って入る。
「作戦を変える。次は防御型のガルドを後方の護衛に回し、ナナミとミミミを前線の盾にする。タイチとユウロは後方から援護。……そして、ハイネ。」
ナイアはじっとハイネを見つめる。
「お前がまた、囮になる覚悟はあるか?」
ハイネは一瞬だけ視線を落としたが、すぐに顔を上げた。
「……ああ。俺は、やる。」
「ハイネ様……!」
リラリが瞳を見開く。
「大丈夫だ、リラリ。今度もお前がいるから……俺は戦える。」
「……はい、必ずお守りします。」
リラリの目が強く光り、胸の機械の心臓がかすかに脈を打った。
ナナミがハンマーを握り直し、笑う。
「よーし、じゃああたしたちも覚悟決めるしかないわね!」
ミミミも拳を小さく握って頷く。
「はい……ナナミさんと一緒に。」
タイチが肩のユウロを撫で、レントは黙ってナイアを見つめる。
「……無茶するなよ、ナイア。」
「お互い様だろ?」
ナイアは笑って、しかしその瞳は真剣だった。
遠くで、次の試合の準備を告げるアナウンスが響き始める。
「行こうぜ。俺たちはまだ、負けちゃいねぇ。」
ナイアが拳を突き上げた。
「おう!」
「はい!」
「了解!」
そして、控室のドアが開く。
まだ見ぬ敵を前に、彼らは再び歩き出すのだった――。
―――
開始の合図とともに、戦場に風が吹き抜ける。
ハイネは深く息を吸い、ナイアの号令に合わせて一歩踏み出した。
「作戦どおりだ! ハイネ、目立て!」
「了解!」
ハイネはわざと瓦礫を飛び越え、視界に入る位置に躍り出る。銃を乱射し、敵の注意を引きつける。
「こっちだ! 来てみろよ!」
弾丸が唸りを上げ、すぐに数機のバイオロイドが彼を追って動く。
リラリはすぐ後ろに付き従い、ハイネの死角をカバーする。
「ハイネ様、右後方から接近!」
「頼む!」
リラリが軽やかに跳び上がり、迫る敵を一刀で両断。光る機械片が舞い散った。
後方ではナナミとミミミが盾となり、敵の進軍を食い止める。
「ミミミ、こっち!」
「はい、ナナミさん!」
シールドを交互に展開し、敵の射線を塞ぐ。
ナナミのハンマーが軌跡を描き、敵の脚部を叩き折った。
「ハイネ! まだ持つ! 早く決めなさいよ!」
「分かってる!」
さらに後方では、タイチとユウロが狙撃を重ねる。
「左のやつ、あと一発!」
「狙います……撃ちます!」
ユウロの小さな砲口から放たれた光弾が敵機のセンサーを焼き、前線を混乱させた。
レントは腕を吊ったまま、瓦礫の陰から全体を見渡す。
「……ガルド、状況は?」
「問題ありません。敵はハイネ殿に集中しています。」
「……なら、次だ。タイチ、敵のゲームコアは見えたか?」
「見えてる、あと少しだ!」
ハイネは銃を撃ち続けながら、体を張って敵の視線を集めていた。
「リラリ、いけるか?」
「はい、ハイネ様……!」
リラリが短く返事をし、敵陣の隙間を突くように走り出す。その刃がコアを目指す。
「……狙われてる! 戻れ、リラリ!」
「いいえ、私が守るべきは……ハイネ様と、皆さまの勝利!」
リラリは前へ、前へ。敵の弾丸をかいくぐり、機械の身体を傷つけながらも突進する。
そして、跳躍。
「これで……終わりです!」
高く跳び上がったリラリのブレードが、敵のゲームコアを真っ二つに裂いた。
――轟音とともに、フィールド全体が光に包まれる。
「試合終了! 勝者、ナイアチーム!」
ハイネはその場に膝をつき、肩で息をする。
「……やったな……!」
リラリが駆け寄り、膝をついて支えた。
「……ハイネ様、ご無事ですか?」
「お前こそ……大丈夫か?」
「ええ……問題ありません。」
ナナミはハンマーを肩に担ぎ、息を吐きながら笑う。
「ふぅ……心臓に悪いわ、もう。」
ミミミが小さく笑顔を見せて頷く。
「でも……勝てました。」
タイチがユウロに肩を叩かれながら戻ってきた。
「ハイネ、無茶しやがって……でも、ありがとうな。」
「お前もな。」
レントは瓦礫の陰からゆっくりと歩み出てきて、悔しさを押し殺した声で言った。
「……お前たち、よくやった。」
「次は前線で頼むぜ。」
ハイネが笑うと、レントは目を細めて頷いた。
控室へ戻る途中、ハイネはふと観客席の奥を見上げる。
そこには、いつものように笑みを浮かべるサイトの姿があった。
「……まだまだ楽しませてくれるねぇ。」
サイトはそう呟き、バイトが静かに頷いた。
「……次は、もっと面白い相手を用意します。」
「頼むよ、バイト。もっと壊してあげたいからね。」
その言葉を耳にしたわけではないのに、ハイネの胸に不吉な予感が広がった。
リラリがそっと彼の袖を握る。
「……ハイネ様、大丈夫です。私が、そばにいますから。」
「ああ……俺も、お前を守る。」
彼らは再び歩き出す。
決して折れぬ誓いを胸に、次の戦いへ――。