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第6話 【さなだ】食堂大掃除

早朝の【さなだ】食堂。朝日がのれんに優しく差し込み、店内は黄金色の光に包まれている。


「おい、みんな集まれ!」と健二が厳しい声を張り上げる。店の父親である彼は、いつも通り全体をきびしく仕切り、掃除の段取りを説明し始めた。


「今日は店の隅々までしっかり掃除だ。気を抜くなよ。窓は二度拭き、テーブルも角まで丁寧にな。床も隅々まで磨け!」と、凛とした声が店内に響き渡る。


その言葉に、家族たちは身を引き締める。悠斗はまだ眠そうに目をこすりながら、ぶつぶつと文句をこぼす。


「またかよ……たるいなあ。親父の睨み、マジでやべぇって」


そんな悠斗に、リュシエルは悪魔語からの自動翻訳が不安定なまま、各地方の方言を混ぜて元気に答える。


「ほいほい、掃除は面白そうじゃけん、やってみるべ!」


元気いっぱいの彩乃は、掃除用具を手に跳ね回りながら店内を駆け回る。


美佐は台所の担当だ。細かく指示を飛ばしながら全体の調整に務めている。


そんな中、ドアがバタンと開く音とともに、ヴァルドがいつもの調子で登場した。


「おっしゃ! 兄ちゃんの出番じゃけん!」と大声で叫び、モップを振り回しながら大騒ぎ。


「うるさい! 静かにせんか!」健二が厳しく叱責し、ヴァルドはへらへらと笑いながら、


「おいおい、掃除の舞台じゃけん、盛り上げんといけんじゃろ!」とチャラチャラしたモデルポーズを決めている。


リュシエルは冷たく言い放つ。


「ヴァルド邪魔やけん、あっちに行ってろ!」


だが、掃除機のコードに足を取られて転び、柱におでこを強打する。


「痛てぇ! なんでもないっちゃ」と涙目で踏ん張るリュシエル。


すかさずヴァルドが近づき、


「お~、マイ、リュシエル~」と甘ったるく呼びかけると、彼女は高く飛び上がってドロップキックを食らわせる。


ヴァルドは庭の泥水に顔から突っ込み、しばらく動かない。


妹の彩乃は大喜びで笑う。


「リュシエルねえちゃん、すごいかっこいい! ヴァルド兄ちゃんは、だっさい!」


リュシエルは彩乃の頭を撫でて、にこっと笑った。


「男は中身が大事っぺ。ヴァルドは最悪、もう起きんでいい」


悠斗はその光景を見て震え上がった。


「リュシエル強えな……俺もあんな目に遭うのか? ヴァルド、起きろ!」


するとヴァルドは一瞬で立ち上がる。体には泥一つついていない。


「悠斗、心配ないさ~」と言いながら、バレエダンサーのようにクルクルと回り始めた。


健二は大声を張り上げる。


「お前ら! 家の手伝いせんかったら追い出すぞ!」


ヴァルドは直立不動で敬礼し、


「サー、親父様は神、私はしもべです!」と真顔で答え、慌てて庭掃除に取りかかるのだった。リュシエルは廊下を猛スピードで雑巾がけしながら、汗をぬぐう。


リュシエルも廊下を高速で雑巾がけしている。


優斗はその異様な速度に驚いているのだが、両親も妹も誰も注意しない。


「この家、悪魔に乗っ取られた。くそ、俺はどうすれば!」と叫んだら、父親の健二に頭を殴られた。


「口は動かすな、体を動かせ、バカ息子!」


一方、彩乃は元気よく窓や床を磨きながら、「お兄ちゃん、怒られた!」と大声を上げて笑顔を振りまいている。


美佐は優しく声をかけつつ、台所の細かな掃除を進めている。「そこ、もう少し丁寧にね」と家族に指示を出しながら、みんなの動きを見守っている。


健二は厳しい表情で各自の作業をチェックし、「仕事は丁寧に、店は家族の誇りだ」と声を張り上げ、気を引き締めさせる。


掃除の合間、リュシエルが方言混じりでいたずらっぽく悠斗にちょっかいを出すと、


ヴァルドが「僕をいじめて、マイ、ハニー」と抱きつこうとするが、今度はリュシエルの高速回し蹴りで遥か彼方へ飛ばされ、まるで星になってしまった。


しかしヴァルドは瞬間移動で戻り、母の美佐が水洗いしている手を静かに取る。


「お母上、綺麗な手が台無しになる。僕に任せて」


と言うと、高速で全ての食器をピカピカに磨き上げてしまった。


母の美佐は頬を染めて言う。


「ヴァルドちゃん、やさしいのね。いつまでもこの家にいていいのよ」


そんな家族の賑やかでぎこちない非日常の団欒の中、店は徐々にピカピカに輝きを取り戻していく。


掃除の終盤、疲労と笑いが渦巻く中、


みんな汗だくになりながら、店内の細かな部分まで掃除を進めている。


ヴァルドは何度もリュシエルに「帰れ」「近寄るな」「キモイ」「バカは嫌い」と罵られ、半泣きになりながらも懸命に掃除を続けていた。


悠斗はヴァルドの悲哀に同情し、「ヴァルドも可哀そうだな」と呟いてしまう。


ヴァルドが優斗に抱きつき、


「優斗は僕の愛しいブラザー、結婚しよう」と耳元でささやく。


優斗は思わず蹴り飛ばした。


「悪魔、違う意味で怖すぎる。俺のケツは俺が守る」と強く拳を握り締めた。


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