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第2話 ああ、今日も邪魔をするこの林とこの運命

「さっきから何なの!」


 乙里姫おりひめはグルグルと同じ林道を行き来していた。


 ここは別名

 近所に住む者さえ、避けて通ると呼ばれる恐怖のスポット。


 いつもはお祖父ちゃんの車で、この林を移動している乙里姫は気づきもしなかった。


 林を切り開き、建物建築防止にと生み出され、林の中で咲き乱れる繁殖力と背が高い雑草のセイタカアワダチソウと、触れただけで猛毒のバイケイソウとの交配種、セイタカバイケイソウ


 その草の花粉により、嗅覚から脳への幻覚物質を出す仕組みとなっていて、エアコンの効いた閉めきった車内では、ほぼ効果が無いということに……。


「これじゃあ、比子星ひこぼしに会えないじゃないの。連絡用のスマホも家に忘れてきちゃったし、ここで見えないサヨナラして、また来年ってことかしら……」


 乙里姫は黄色い花を咲かせた、セイタカバイケイ草の近くにある大きな石に座り込み、石に負けじと大きなため息を吐く。


 天からの木漏れ日の高さといい、今は昼頃だろうか。


 迷子になっても林の中だけあり、体感温度が低めなのが唯一の救いだ。


「比子星は元気にしてるかな……」


 寂しさを紛らわす、お祖父ちゃんは隣にいなく、自分にとって、いかに家族が大切かを思い知らされる。


 本当、家族って、いつもは鬱陶うっとうしいものなんだけど、こんな状況下にいてくれないと、これまた不安になる。


 人間とは一人が好きでも、一人では生きられないワガママな生き物だ……。


(これで地球最強の生物って言うから、笑わせてくれるわ)


 あっ、ここは地球じゃないか。


 あの星は人口爆発による食料危機に環境問題、異常な二酸化炭素排出による気温の上昇、より良い場所を開拓するための紛争など、数々の事件に遭い、醜い星へと姿を変えた……。


 母なる星に人間が住み着いて、二千年足らずで、あっという間に未曾有みぞうの危機を迎えたのだ……。


 それから移住計画として、このザブーン星が選ばれたんだけど……。


 まさか、小さい頃に家族で観たSF映画のシナリオ通りになるとは。

 人間が人間を滅ぼすという異色のテーマ。 


 人間とは罪深い生き物だとも追加しておく……。


 ──地球にも七夕という行事はあったけど、ここ近年では大気汚染と光害で星すらも見れなくなったよね。 


(お父さん、お母さんも元気かな?)


 地球に残していった親のことが頭に浮かび、想いを馳せる乙里姫。


『きゅるるるーん!』


 だけどそのシリアスなムードは、自らの腹の虫で一気に冷めていった。


「やだな、えっと今のわね、私じゃなくて、腹ペコ狼さんのお腹の音であってね、私じゃないって言うか……」


「だからね、この星にも狼さんがいて、毎日、大量のご飯を食べるから、その分、反動で大きなの音が鳴って……つまり、私が言いたいのは……」


「この音は消化音であり、人として避けられない生理現象だってことなの……!!」


 結局、狼への言い訳が人に戻り、乙里姫が正気に戻ったのは、数分後のことだった……。


「何を取り乱してるんだろう。この林の中、私しかいなかったわ。てへぺろw」


 誰もいないと言っておいて、可愛く舌を出して誤魔化す乙里姫。


「さて、何か食べ物を探さないと……」


 彼女は己の欲を満たすため、再び林を歩き出した……。


****


「あー、またハズレかよー!」


 穏やかな乙里姫の救出プランを立てていたはずの比子星は、行く宛のない手探りな状況に苛ついていた。


「何度、彼女を探しても見当たらないんだよな」


 彼は、もう一度同じ位置で、彼女の在りかを探しだそうと必死だった。


「はい、残念賞のエパンゲリオンの絵柄のポケットティッシュ!」

「ぐはー!?」


 どうなってるんだよ、この大人気作品の一番クジは? 

 何回クジの紙を引いても、残念賞ばかりだぞ?


 そう、比子星は乙里姫のことも忘れて、偶然にも屋台でやっていたクジ売り場に夢中だった。


「ちっ、おっちゃん。もう一回追加の金だ。もう一回だけ!」

「お兄さん、気持ちは分かるが、ちょいと熱くなりすぎでっせ」


 何枚目か分からない500円玉銀貨を受け取った、色黒な坊主頭の店主が、流石さすがに気まずそうな顔をする。


「こういう時は引き際が大事でっせ。それにほら、他のお客さんもひいちまう」


 ──店主が引き止める理由も至って単純。 

 このお店には当たりが全然入っていないという、固定概念を抱かれる恐れもあるからだ。


 確かに当たりは少ない方だが、このタイプのクジは専門の工場にて、ランダムに作られていて分からなく、店が意図的に選ぶことなど、不可能なのだ。


 それは宝くじとの関連性も含まれるが、宝くじは当たりがあっても、一等などの特賞が全くない店があるのに対し、この出店の一番クジには必ず大当たりが入っている。


 そういう大きな夢を方針として、脱サラして立ち上げた屋台だったが……。


「だから何だよ。当ててみればいいことだろ!!」

「はあ、そうっすか……」


 これまた、嫌な客に当たってしまったなと思いながらも、比子星に四角い紙ボックスを出してクジを引かせる店主。


(次こそ、当たってくれよ……)


 店主は祈りをこめて、人生初の神様とやらにお願いをしてみた。

 苦しい時の神頼みというヤツである。


(このことわざ考えたヤツ、マジで神だよな)


「だあー、またハズレかよ!」


 しかし、こうまでして、ハズレるお客さんも珍しいなと、店主は10個目になろうかと思うティッシュを手渡していた。


(いや、10個はとうに越えてるな……)


****


「毎度ありがとうございました」


 20個はありそうな残念賞を強引にリュックに詰め込み、比子星は迷いの林がある方向に向かい出す。


 さっきから、こちら側で逢わないということは、その林で迷っている確率が高いと思ったからだ。


(財布の中身は空でティッシュは山ほど。どんだけ花粉症なんだよ、俺は……。

ああ、そういえばあの林、例の花粉が問題だったな……)


 比子星は林に入る間際に、リュックから、ある物を引っ張り出す。


「何でもへっちゃらゴーグル~♪」


 少し高い声でアイテム(ゴーグル)を天に掲げた比子星に、『ひゅーう』と冷たい風が吹いた。


「……やめよう。何かむなしいし」


 類は恋人を呼ぶ?

 乙里姫と同じく、比子星にも似たような一面があったのだった。


 口元に使い捨てマスクを着けながら……。

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