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僕の好きになった女の子は、やけに自転車に詳しいマニアックな女の子
僕の好きになった女の子は、やけに自転車に詳しいマニアックな女の子
ぴこたんすたー
現実世界ラブコメ
2025年08月11日
公開日
9,995字
完結済
都会から離れ、農業が盛んな田舎の町、フクジマ。 そこに居を構える男性主人公のダイチは、大学を卒業したばかりの就活生でアルバイトで生計をやりくりしながら、休日は趣味のサイクリングを楽しんでいた。 そしてある休日に東京で生活を営んでいた幼馴染みの女性ミラと偶然にも再会し、久々に話題に華を咲かせるのだった。 しかし、物語はそこで彼女と結ばれてハッピーエンドではなかった……。 これは自転車と二人の女の子との出会いを取り巻く、青春の一ページである……。

第1話 自転車と警察官に恐るべき銃声と

『チャリンチャリーン!』


 人口数千人にも満たない、農業が盛んな田舎の町フクジマ。

 初夏の午前の日射しに照らされ、軽快にベルを鳴らしながら、白い自転車で坂を下っていく若い男がいた。


 僕の名前はダイチ。

 年齢は二十歳越えで、白い半袖Tシャツに青のデニムという簡素な格好。

 大学を卒業したばかりで就職活動をする身ながら、今日のようにいい天気の日は趣味でもあるサイクリングを楽しんでいる。

 ……とは言っても金がないので、ママチャリだけど……。


『カリカリカリ……』

「うん、何か自転車の不調か?」


 坂道から平坦な道になり、後輪から異音がするのを耳にして、自転車から降りて確認してみる。


「あれ、何かタイヤがホイールからずれてないか? あのおじいちゃん、どこを修理したんだよ?」


 就活生としては痛手の四千円を払ったのに、手抜き修理か。

 タイヤ交換したのに、自動的に交換されてどうするんだ。

 予備のタイヤは持ち合わせてないぞ。


「バイト先から近いからって、あの自転車屋さんに修理に寄ったのが間違いだったな」


 僕は後輪の外れかけたタイヤを片手で押さえて、空いた手でペダルを回し、タイヤを空回ししてみる。


 すると、黒いチューブの部分が餅のように膨らみだし……。


『パアーン!』


 そのまま破裂して、物凄い音を立てた!


「なっ、今の銃声? そこの貴方、大丈夫ですか‼」


 すぐさま、異変を感じ、駆け寄る女性警官。


「あれっ、君、ダイチちゃんじゃない。髮短かったから分からなかった。もしかしてイメチェン?」

「その枯れそうな、か細い声、まさかミラか?」

「そう、君の未来の花嫁様だよ」

「嘘つけ、婚約した覚えはないぞ?」

「うん、今からお役所に行って婚約届の書類を書くんだよw」


 冗談混じりに会話を交わし、幼馴染みで同世代もあるミラが警察官御用達のバイクの白いヘルメットを脱ぎ、長い金髪を揺らす。


 150くらいの身長でスレンダーな体形に目鼻が整った童顔の美少女。

 でも残念ながら、胸は平らに近い。


 その容姿のせいか、成人にも関わらず、私服姿で夜遊びをしていると、私服警官から、よく補導されていたな。


 ミラはそのうちのイケメンだった警察官に恋をして、警察官への道を志望し、県外の東京へと配属されて行ったけど……。


『うへぇー、警察官の仕事って、ハード過ぎてめっちゃムリィー……』


 ……と盆や正月休みで、ここの実家に帰郷ききょうする度に弱音を吐いていたな。


「でも驚いたな。本当に自立した警察官になっていたとはな」

「まあね。昨日から憧れの町交番の勤務に転属になったのよ」

「どうせ、こんなへんぴな田舎だから、迷子のペット探しばかりしてるんだろ」

「そうなの……。貴方のお家はココですか……?」


 冗談を言っているようで、目が笑っていないミラ。

 首と指の関節をコキコキと鳴らしながら、僕に近づいてくる。


 ココって何だ? 

 ミラによって滅び去った人骨が、地面に埋もれた地獄のそのか?


 このご時世、ハラスメントという用語が出ていなければ、間違いなく警棒でぶん殴られているだろう。

 昔から気が短くて、口より先に手が出る女だったからな……。


「それよりも、その自転車、平気なの?」

「ああ、あの体がプルプルと震える、おじいちゃんの腕前に騙されたからな」

「何とか修理できそう?」

「まあ、いつも世話になっている自転車屋さんに出張修理を頼むからさ」

「そう、ごめんね。勤務中じゃなかったら、何とかしてあげたいんだけど」

「あの白バイじゃ無理だろ」

「いや、折り畳めば何とかなるよ」

「これ普通の自転車なんだけど……」

「ええ? そうなんだ!?」


 ミラは日頃から折り畳みを愛用していたからな。

 自転車じゃなくて、携帯傘だったけどな。


「じゃあ、私は仕事があるから」

「ああ、ありがとう」

「また会おうね。未来の花婿ーw」


 ──僕はミラと別れを告げて、近くの駐車場に行き、持っていたスマホで電話をする。


『──はい、『花丸自転車屋』ですが?』


 耳に届く、いつものおじさんの声。

 良かった、今日は休業日じゃないようだ。


「もしもし、ダイチですが、自転車のタイヤの出張修理をお願いできますか?」

『分かりました。ダイチ君。今いる場所は分かりますか?』

「はい、『ヤーサン八百屋』という店の手前なんですが……」

『うーん、そこはどこですかね。詳しい住所は分かりますか?』

「はい、分かりました。調べたら、後ほどかけ直します」


 僕は通話を切り、目の前の八百屋の前に立つ。


「ヤーサンだけにヤバい店じゃないことを祈るぜ」


 ネットの地図アプリにうとい僕は、八百屋の店員に住所を聞くため、勇気を持って、中へ踏み込んだ。


****


「へい、いらっしゃい! お兄さん、何をお望みで?」

「すいません、真っ当な人生を送りたいので、ナスに紛れて、銃の横流しをするのだけはやめて下さい」

「はははっ、面白いお兄さんだな」


 青のビニールエプロンを着けた丸刈りの店員さんが、すぐに僕の心情を理解し、この店の住所をカレンダーのメモ紙にさらさらと書き、手渡してくれた。


 顔は強面だったけど、親切で優しいクマさんみたいな人で良かったな。

 今度、美味しい塩鮭を買って、この店に持って来よう。


****


『はい、分かりました。今から車で行きますので、少々待っていて下さい』


 ああ、こんな時、車があったら便利だな。

 何でも、ちょちょいと運べるからな。


 可愛い女の子を車でお持ち帰りしたい気持ちも納得だな。

 まあ、実際にやったら犯罪だけど……。


「ねえ、お母さん。あのお兄ちゃん、誘拐に興味があるんだって」

「まあ、どこで言葉を覚えてきたの?」


 しまった、思わず心の声が漏れだしていたか。

 小学生低学年の少女に聞こえたのもハズいが、その隣にヤンママのような大人がいるから、さらに危険な香りがする。


「えっ、あのお兄ちゃん、垢舐めじゃないの?」

「こらっ、それはでしょ!」


 僕は、その場でスッ転びそうになった。

 何だ、気のせいか。


「ふう、やれやれ。ミラに現行犯逮捕されなくて良かったぜ」


 僕はホッと一息をついて、駐車場の近くにあった自販機へ向かう。

 何か、色々ありすぎて喉が渇いたな。


「お母さん、あのお兄ちゃん、リカちゃん人形に興味があるんだって」

「嫌だわ、ロリコンなら、お人形が好きなの? キモいわ……」


 おい、幼女よ。

 どんな耳をしてるんだ?

 リカじゃなくてミラだぞ……。


 僕は缶コーラを飲みながら、いけすかない二人の親子を見やる。


 それにしても、ここの自販機の温度設定はどうなっている。

 生ぬるいジュースだな……。

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