シェルが侍童となり、皇帝に仕えるようになったのは、十の年だった。
北海帝国で特別な地位にある四大公国の嗣子は、十になれば皇宮に上がり、年の近い皇族とともに教育を受けるしきたりとなっている。次代の『五柱』の育成と人脈形成という側面はあるが、有り体に言えば人質である。皇宮で教育を受けた者のみが大公位の継承を認められるため、嗣子以外の子供を適当に帝都へ送ることは、家の断絶を意味する。
たった十の子供にとって、皇宮での暮らしは少々酷なものになる。両親も乳母も、慣れ親しんだ屋敷の者たちも、誰一人として知る者のいない初めての環境で、数年を過ごさなければならないからだ。
皇宮では家格の高い公子として遇され、世話をする者が付けられるが、専属ではない。その時その時に別の顔が現れ、事務的に身の回りを整えるだけのため、好みや癖を細かに把握し先んじて気を回すような配慮は、当然ない。
そのことに腹を立て、家でするように癇癪を起こせば、大公家の不始末として逐一皇帝に報告されてしまう。皇宮で働く者は皇帝に属する者であり、私的な感情で酷く扱ったり罰したりするのは、皇帝の持ち物に手を出すことになる。跡取りとして傅かれて育った子供は、皇帝という絶対至高の存在を目の当たりにし、序列と服従を学ぶのだ。
「……あれを」
「畏まりました」