シェルが皇宮に上がった時、ちょうど一人欠員が出て、最年少で侍童を務めることになった。
皇帝の裾持ちや些事の使いを承る少年侍従は、外国使節を迎えての謁見や宴席にも侍るため、貴族の子弟から見目良い者が選ばれる。貴族出身であれば家格は問われないが、シェルはたまたま皇帝の目に留まり、唯一大公家から抜擢された。
以来六年、学業と並行しながら出仕を続けている。先輩たちは皆ある程度の年齢になると勤めから退き、気づけばシェルは最古参だ。
皇帝が口にする「あれ」を、体調、機嫌、抑揚、状況から正しく判別し、望みのものを直ちに用意する手腕は、侍従長からも高く評価されている。六年の間に磨かれた観察眼と、ほんの幼い頃から大人の顔色を伺い身を守ってきた生い立ち、そして皇帝への畏敬が、こうして主人の意を汲むのに役立っている。
今日の「あれ」も
主人が機嫌良く午睡に落ちたのを確認して、シェルはそっとその場を辞した。本来昼の宮殿では、こうした身の回りの世話は、成人した専従の侍従たちの仕事である。しかし、珍しく季節の変わり目に風邪を引き込んだ皇帝は、わざわざシェルを側に呼んでいた。