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 体調がすぐれない時はいつも、最年長の侍童を侍らせる皇帝の姿に、低劣な噂が囁かれていることはシェルも知っている。勿論その矛先は偉大な皇帝陛下ではなく、いつまでもその座に執着する侍童であることも。

 昼夜なく側に控える侍従たちは、機嫌や体調の悪い皇帝が、よく気がつく者を呼んでいるにすぎないと理解している。労わる言葉を掛けてくれる人もいる。シェルには、それで十分だった。

 廊下の先で何かが動いたように感じ、ふと目線を上げると、視界の真ん中に人影が映った。まだ随分距離はあるが、シェルは直ちに端に寄り、正面に視線を据えて直立する。

 本来であれば、複数の侍従を従わせて然るべきその人物は、単身軽快な足取りで廊下を進み、頭を垂れたシェルの前でその歩を止めた。


「久しぶりだな、ユングリング公子」

「皇太子殿下におかれましては、ご機嫌麗しく」

「お前も元気そうで何よりだ。……侍童姿を、まだ見られるとはな」


 国内の巡察に出ていた皇太子と顔を合わせるのは、半年ぶりだった。

 侍童として随従する儀式で場を同じくするくらいで、七歳年長の皇太子と個人的な面識はない。それでも六年も出仕していれば、顔を覚えてもらえるようだ。――単に、派手なお仕着せの子供は目立つというだけかもしれないが。

 年とともに気恥ずかしく思うようになった衣装を指摘され、肩を縮めていると、冷ややかな声で皇太子が追い討ちをかけてくる。


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