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第22話 魔法の適性検査

 魔水晶という魔道具(マジックアイテム)により、俺達、魔法学園の新入生たちはそれぞれの魔法適正を把握。そして学園側も把握しようという意図の下に、適正検査は行われる事になった。


 まず、一人の男子生徒がエスティアに名前を呼ばれる。そして、魔水晶が置いてある教壇へと歩いていき、手を翳すのだ。


 すると、その魔水晶には燃え盛るような炎が移し出されたのだ。その男子生徒が炎系統の魔法に適性があるのは明白な事であった。


 滞りなく、魔法の適性検査は進んでいく。大抵の場合は四大属性——火・水・風風・地のうちのどれか単一属性の適性しかなかったり、あったとしてもせいぜい二属性(ダブル)の適性だったり、相当優秀だったとしても三属性(トリプル)の適性止まりである。


 性格はあれだったとしても、我が姉であるアリシアは相当に優秀なのだ。彼女程優秀な魔法師はそうはいない。


 周囲がどよめいたのはフィオナの番になった時の事であった。その様子を見ていた周囲の生徒達は明らかに異様な反応を見せたのだ。


「「「おおおっーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」」」


 突如として、教室には歓声が響き渡るのであった。


 フィオナが魔水晶に手をかけると、それは輝かしい光を放ったのだ。眩いばかりの輝かしい光である。


「な、なんだ! この眩しい光は!」


「俺達の時とは明らかに反応が違うぜっ!」


 周囲の生徒達は驚いていた。


「フィオナさんはどうやら、他の人にはない。特別な才能を持っているようです」


 その様子を見て、エスティアは語る。


「彼女は『光属性』の魔法を扱えるようです。光の精霊達が彼女を祝福しています」


「「「『光属性』」」」


 周囲の生徒達は驚いていた。だが、別に俺は驚いていない。なぜならフィオナが光属性の魔法を扱えるという事を前々から知っていたからだ。


「『光属性』」の魔法を扱える人は私の長い人生でも一度たりとも見た事がありません。『光属性』の魔法が扱えるという事はそれだけ稀有な才能なのです」


 こんな幼いような顔と背丈をした少女が――まあ、エルフだからなのだから当然だが『長い人生』とか言われると違和感があった。胸だけは違和感がないが……。まあ、それはともかくとして。


「エスティア先生、魔法の属性というのは火・水・風・地の四つしかないのではないのですか?」


 一人の女子生徒がそう質問する。


「基本的な理解としては間違ってはいません。ですが、それはあくまでも基本的な事です。何事にも例外は存在するのです。太古には火・水・風・地に加え、光と闇の属性の魔法を扱える者も存在したそうです。ですが、現代では光と闇の属性を扱える者は基本的にはいなくなってしまったのです」


「そ、そうなんですか。では、四大属性以外にも二つの属性が存在するのですか」


「極めて稀ではありますが、一応は存在をします。私もかつて闇属性の魔法を扱える者に出会った事があります」


 ちらりとエスティアは俺を見やる。当然の事に俺の事だろう。何、どうせすぐにわかる事だ。その時、クラスメイトの奴等は驚き、恐れ、そしてこの俺様にひれ伏す事であろう。


 そう考えると笑いが止まらない。ぐあっはっはっはっはっは! ぐあっはっはっはっはっはっは! い、いかん。口から涎が。俺は手の甲で涎を拭う。


「ど、どうして平民がこの魔法学園に入学してきたのか不思議だったんだが、そういう理由があったんだな」


 アリシア程攻撃的な態度はとらずとも、学園には貴族と平民の間での差別意識というものは存在している。口にこそ出さずとも。だからクラスメイトである生徒達であれ、大小はあれど差別意識というものは確実に存在していた。


 フィオナが『平民』の出自であるという噂は既に学園中に広まっていたし。そういった意識で彼女の事を見ていたのは確かであった。


「す、すごいわ。フィオナさん」


 女子生徒がフィオナの手を握る。


「え? そんな……別に私はたまたまそういう風に生まれたというだけで、特に何も」


「それを言われてしまうと『平民』とか『貴族』っていうのもただの生まれ付いたものでしかないけどなー」


 フィオナの番が終わったようだ。フィオナは平民出身ではあるが、『光属性』の魔法を扱える。その才能を生徒達が認める事で彼女に対する世間の風当たりが優しくなればいいと願うばかりである。


「ふん。待たせたな。愚民ども。真打の登場だ」


 俺はそれらしいポーズをつける。


「この俺様のスペシャルな魔法な才能に恐れ、慄くがいい! ぐあっはっはっはっはっは! ぐあっはっはっはっは!」


 しかし、他の生徒達はフィオナを取り囲んで質問攻めするのに夢中だ。まるで転校生が入学してきた時みたいに。


「って、この俺を無視してるんじゃねぇ!」


「アーサー君、僕は見てるよ」


 一人、リオンが囁いて自身の存在を主張する。


「ちっ……少しばかり珍しい魔法適正を見せられて浮足立つとは、これだからガキは嫌いなんだ」


「僕達は同じ年じゃないのかい?」


 リオンは疑問を呈する。俺が言いたいのは実年齢ではなく、精神年齢の方だ。まあいい。ギャラリーが一人しかいないのは不服だが、これ以上授業の尺を取るわけにもいかない。


 何事にもスケジュールというものがあるのだ。


 俺は魔水晶に手を翳す。すると魔水晶はドス黒い、闇の輝きを見せたのであった。魔水晶は深い闇の光を宿したのである。


「ふっ。どうだ? この俺様のスペシャルな属性は?」


 俺は勝ち誇ったような顔になる。所謂ドヤ顔だ。


「へー。凄い。アーサー君。君は闇属性の魔法を扱えるんだね。すごいや」


 リオンはパチパチと軽い拍手を鳴らす。


「み、見ているのが貴様一人では実に物寂しいものだ」


「ん? あれは?」


 一人の男子生徒が闇の輝きを放っている魔水晶に気づいたようだ。一人が気づくと、他の生徒達も連鎖的に気づき始め、俺の周囲に群がり始める。


 ふん。やっと俺様の魔法の才能に気づき始めたか。愚鈍な奴らめ。


「エ、エスティア先生。魔水晶に映し出されているこの黒い輝きは何なのですか?」


 一人の男子生徒がそう質問してくる。


「魔水晶に映し出されているこの属性は『闇属性』の魔法を表わすものです」


「「「『闇属性』」」」


 生徒達は驚いたように声をハモらせるのであった。


「エスティア先生。さ、さっきのフィオナって平民の女の子は『光属性』の魔法を扱えるのに、今度はこいつが『闇魔法』を扱えるというのですか? どちらも滅多に使える者がいない、珍しい魔法属性なんですよね?」


『こいつ』とはなんだ。随分な言い草だな。こいつ。偉大なるこの俺様に対して。こいつめ、機会さえあれば締め上げてやるぞ。

 俺は炎属性にしか扱えない、凡庸な少年を睨みつける。


「そ、そうなりますね。ちなみに彼は元々は私の教え子でしたので、この事は前々から知っていました」


「へ、へぇー。け、けど。そんな事、普通はないですよね?」


「そ、そうですね。普通はありえない事です。目の前に起きている現象はとても珍しい事であると言えましょう」


 俺とフィオナが『闇属性』と『光属性』という、非常に稀(レア)な魔法属性を扱えるという事で、教室中大騒ぎであった。


 とても授業中であるとは思えない程だ。しばらくすると、教室は落ち着き始めてきた。やはり、どんな衝撃的な事が起きたとしても時間が経過すれば段々と落ち着いていくものである。


「それじゃあ、今度は僕の番だね」


 頃合いを見て、リオンが魔水晶の前に立つ。やはり、この国の第二王子であり、イケメンチート主人公であるこの男の番とあって、注目度が高かったようだ。


 リオンが魔水晶に手を翳す。すると、魔水晶は俺の時ともフィオナの時とも違う、今までに見た事もない虹色の輝きを放つのであった。


 その輝かしい虹色の光により、教室は七色に照らし出されるのであった。



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