「俺を止めるな!!」
ある孤島の海で、青年ジファーはボロボロの小舟に乗って荒々しい波に近づいていた。
浜辺にいる子供たちはそれを心配そうに眺めている。
「ジファー、危ないよ!戻ってきて!」
「ジファー、バカなことはやめて!命を大事にして!」
荒れ狂う波はジファーを船ごと飲み込んだ。
「うわ……っ!!」
「「「ジファー!!」」」
──ジファーは夢を見た。
泣いている自分がぼんやり見えた。
(なんで俺…泣いてるんだろ)
「うーん…」
「ジファー、気が付いた?」
ジファーは目を覚まして辺りを見回すと、孤児院のいつものベッドにいることに気づいた。
「あれっ!?俺たしか海を渡ろうとして……。あっ!マザーが運んでくれたの?」
「あなたが自力で戻ってきたんでしょう?孤児院の前で倒れてましたよ」
「あれ?そうだっけ?記憶にないけど……」
「そんなことよりジファー!あなた何回無茶をすれば気が済むの!」
「あーいや、へへっ。惜しかったなー」
「いつも言っているでしょう、この島の周りは波が荒いのよ。大船ならともかく小舟では越えられないわ」
「いやー今回は越えれると思ったんだけどな!」
「まったく、十六になるっていうのに。あなたはこの孤児院のなかで一番年長者なんですからね。そろそろ子供たちのお手本になってもらわなきゃ困りますよ」
「はいはいーっと!」
「ジファー!」
ジファーはベッドから起き上がるとマザーの頭が噴火する前に一目散に部屋を出ていった。
孤児院の外では子供たちが木登りをして遊んでいた。
「ジファー、起きたんだね!」
「ノエル!」
「マザー、怒ってた?」
「ああ!怒ってたから逃げてきた!」
はにかむジファーはそのまま木登りに合流する。
「ジファーはなんでいつも海を越えようとするの?」
「俺、世界を見てみたいんだ。マザーに習っただろ?世界は俺たちのこの島より何百倍、何千倍も広いんだ!」
「それだけ広いってことはここより人もいっぱいいるのかな?」
「ああ、俺の両親や…おまえの家族もいるかもしれないな!」
「でも……僕、ジファーとかみんなが家族を見つけて、ここからいなくなったら悲しいな」
「外にいる家族を見つけても、俺にとってはここにいるみんなはこれからもずっと家族さ!」
「ジファー…!」
ジファーに嬉しそうな顔を向けたノエル。ジファーもノエルにキラキラとした青い瞳を向けてほほ笑んだ。
「でもジファー、やっぱり大船がないとあの波は越えられないよ」
「それなんだよな…大船さえあれば…」
「あれ?ジファーあるよ!」
「いやだからないんだって」
「あるって!見て!」
ノエルが指さした先にはこちらへ向かう大船が見えた。
ジファーとノエル、子供たちは大船が見えた砂浜へ向かった。
子供たちはそろって船を見上げた。停泊していた船には大きな旗が付いており、宝石のような紋章が刻まれていた。
「すごいね!大船だあ!」
「あれ?ノエルは?」
「あれおかしいな、一緒にまっすぐ向かってたのに途中ではぐれちゃった」
「あれ?ジファーは?」
「あ、あそこ!」
ジファーはすでにマストに乗って地平線を見渡していた。
「すげー!この船なら荒波も越えられるぞ!」
「おい!!そこのガキ!!」
下を見ると船の中から大男が現れた。片手には短剣を携えている。
「あの人だれ?」
「なんかあのおじちゃん…怖い」
「あの人、剣、剣持ってるよ!」
震えあがり身を寄せ合う子供たち。
「あ、おっさんこの船の人?頼みがあるんだけど、この船俺にくれ
ない!?」
「ああ?何寝ぼけたこと言ってやがる!とっとと降りてこい!」
「オッケー!そっちで話し合おう!ちょっと待ってて!」
ジファーは立ち上がった瞬間船の揺れで足をすべらせ、「うわっ!!」と声をあげた。そのままマストから大男めがけて落ちてしまった。
「うがっ…!!」
大男はジファーの落下が直撃し声をあげた。
「いってー…!!…あれ?うわ、ごめん!おっさん大丈夫!?!」
「う…」
「あ、おっさん寝てるだけか。なんだ良かった!」
ジファーは船へ招くため子供たちのもとへ駆け寄った。
「ほら、みんなも来いよ!船からの見晴らしは最高だぞ!」
子供たちは青ざめた顔でジファーの方を指差した。
「ジファー、そんなことより後ろを見て!」
「ジファー…とんでもないことしちゃったよ…」
ジファーが振り返ると大男が血走った目をして立っていた。
「……おいガキ、よくもやってくれたな」
「え、ちょっと落ち着いておっさん!わざとじゃないよ、謝ったじゃん!」
「殺してやる!!!」
ジファーは即座に砂浜に落ちていた流木を拾い、身構える。
大男は勢いよく向かってくる。ジファーも大男に向かって走る。大男は剣を横にふりかざし、ジファーは即座にしゃがんで回避。その勢いを利用し地面を踏み込み高くジャンプをすると流木で大男の顔面に一撃をいれた。
「ぐああっ!!」
顔を押さえてもだえ苦しむ大男。
「くそ、この俺がこんなガキに…!」
「へへっ。だてに島で遊んでないんでね」
大男はよろけはしたが、倒れてはいない。
「さすがジファーだ!」
「ジファーやっちゃえー!」
子供たちの声援を後ろに、ジファーは再度身構えた。
大男は子供たちの声に反応する。
「ん?ジファーだと?」
「えっ、おっさん俺のこと知ってるの?」
「くくく……探す手間が省けたぜ」
「?なんのことかわかんないけど、いくぜおっさん!」
ジファーがとどめの一撃を入れようとしたそのとき、大男の後ろから子供が一人近づいてきた。
「みんなとはぐれちゃった…あれ?みんないるじゃん!おーい!」
逃げ遅れたノエルだ。
(まずい…!)
「ノエル!!逃げろ!!」
ジファーが声をかけるよりほんの少し早く、ノエルに向かって大男が動き出していた。
「うわあっ!なにっ!?」
大男はノエルを捕まえると不敵な笑みを浮かべた。
「ノエル!!」
ジファーが近づこうとすると大男は剣をノエルの首元に向けた。
「おっと!動くなよ!」
「っ…!」
「まずはその流木を捨てな」
ジファーは黙って流木から手を離した。
「もっと遠くにだ!」
「くそっ…!」
足元にあった流木を遠くに蹴り上げる。
「安心しろ。このガキは殺しやしねえ。おまえが大人しくすればな」
「…みんなには危害をくわえないと約束しろ」
「ああ、いいぜ。俺が用があるのはおまえだけだ」
大男が剣を振りかざした。
(みんな、ごめん…!)
そのとき、どこからともなくムチが飛んできた。大男の腕から剣が吹っ飛ぶ。
「ぐあっ!!!」
大男がよろけたタイミングで茂みから謎の男が現れる。
「この不届きものめがあああ!!!」
謎の男は鉄の杖で大男の頭を叩きつけ、大男は尻もちをついた。
「この野郎…!!」
「見たところあなたはお一人のようですね?こちらは多勢ですがまだ続けますか?」
大男は船から出てきた兵士たちを見ると、「クソっ!!」と言い放ち自分の帆船に飛び乗って去って行った。
あっけにとられているジファーと子供たちをよそに、謎の男は鉄の杖を布でキュッキュッとぬぐう。
そしてジファーの方へ振り返った。
「王子!!ご無事でしたか!!」
「お、王子…っ?」