「な、なんだ!?」
目を覚ましたジファーの目の前には、王冠をかぶった男が拳を握りしめて立っていた。
「ルシエル!!!おまえ、王である私が呼び出した直後に昼寝とは何事か!!」
「えっ!王様?……あ、お父様っ?いや父上??」
「まだ寝ぼけておるか!」
「えっ!?違うそうじゃなくてどんな呼び方なんだ!?」
「いい加減起きんか!!」
ジファーは更に頭にげんこつをくらった。
「いや起きてるよ!!」
「やっと起きたか!いいか!パレード中止については聞いたぞ!おまえの今日の失態は許されぬ、王族にはあるまじきこと!!反省として今日は部屋から出るでないぞ!!!」
「ああ、なんだそのことか。はーい」
ジファーは更にもう一発げんこつをくらった。
「なんと腑抜けた返事だ!まだ寝とるのか!」
***
その間、廊下で待つスリップのもとにマリラの父、ザイナーがやってくる。
「あ、あの王子はお戻りに?」
「おやザイナー伯爵。ええ、さきほど戻られましたが?」
「王子にぜひお会いしたいのですが……」
ザイナーは笑っているが目は笑っていないことにスリップも気づく。
「王子に何の御用でしょうか?ご婚約についての顔合わせは後日改めて執り行いますのでご安心を」
「いえその、少しばかり誤解がありまして……」
「はて、どんな誤解でしょうか?私には王に報告する義務がありますのでぜひお教えいただけますか?」
「お、王に!?い、いやそれなら結構!たいしたことではないゆえ……!」
「ちょうど今、王はこのお部屋にいらっしゃいますよ!さあどうぞお入りを!さあさあ!」
「またの機会に……!」
ザイナーは逃げるように廊下の奥へ消えていった。
***
王様が去ったあと、ジファーは部屋から出るのを禁止されていた。
「ったく、どいつもこいつもまともな親がいないな!」
ジファーは枕を壁に投げてつけて八つ当たりしていた。
「なんか王様にもいきなり殴られたし!そりゃ王子も家出するよ!」
「よし、今度こそ出ていってやる!」
ジファーは意気揚々とドアノブを回した。いや、回そうとした。
ガガッ。
「あれ!?鍵閉まってんじゃん!!」
「くそ!どっかに内鍵ないかな?」
ジファーは部屋の引き出しを片っ端から開け始めた。
「こんなに引き出しがあるのに何も入ってないな。さてはベッドの下か!?」
ベッドの下を覗くと──ジファーは日記のようなものを見つけた。
「なんだこれ。王子の日記か?なになに……」
”ソノーラ村で双子が生まれた。──私たちには育てられない、育てる資格などない。
──二人を孤児院に入れることにした”
”ルシエルとジファーを──”
「……えっ…!?!!」
(どういうことだ…!?俺とルシエル王子がここに書かれてる双子ってこと!?
(いやそもそもなんでこれを王子が持ってるんだ?これをいったいどこで手に入れた?
(なんで俺は孤児でルシエルは王子になってるんだ?
「ちょっと待って本当にもう頭がパンクしそうだ…!」
表には何も書かれていない。裏表紙を見ると紋章が刻まれていた。
「あれ!?この紋章って……あの大男が乗ってきた船の旗とそっくりじゃないか!?」
ジファーは日記をしばらく見つめることしかできなかった。
(そうか…あいつ、あの男は俺の名前を知っていた。俺を探しに来たんだ。でも何故今更……?なんのために……?どうしよう…今俺が帰っても島のみんなを危険にさらすことになるかもしれない)
(ソノーラ村……あの船はこの村から来たのか?
(ルシエル王子も、ソノーラ村へ行くために家出をしたのか──?
(……村に行けばすべてがわかるかもしれない──)
***
ジファーは月夜に照らされる中、部屋のバルコニーから下の階のバルコニーに移動していた。
更に隣の隣へとバルコニーを移動した瞬間、暗闇の窓ガラスに何か恐ろしい人影が映ったのが見えた。
「うわっ!!幽霊!!?」
キ―ッと音を立てながら窓ガラスはゆっくりと開く。ジファーは幽霊と会ったことはなく対処法もわからなかったがひとまず構えた。
「……王子?」
「マリラ!?」
ジファーが降り立った部屋はマリラの部屋だった。
「あなた、こんな時間にこんなところから侵入するなんて……!どういうおつもり!?」
「ちょっと待って、違うんだ!俺は……!」
マリラは月明かりの反射して、ジファーほ頬が腫れていることに気づいた。
「その頬の傷、誰にやられましたの?」
「王様…いや、親父に」
「よかった、私の父上かと思いましたわ」
「いやよくないだろ!」
「治せるかもしれませんわ。こちらに来てくださる?」
マリラは手のひらから白い光を出すと、ジファーの頬にそっとあてた。すると傷がみるみるうちに回復し、何事もなかったかのように元の状態に戻った。
「えっ!もう全然痛くないぞ!?すげえ…!ありがとう!」
「そ、そんなに褒めなくても、ただの回復魔法を当てただけですわ」
「回復魔法!?俺魔法ってやつ初めて見た!それ使えたらなんでも治せるじゃん!」
「……いいえ、回復魔法は魔法で受けた攻撃しか治せませんのよ」
「え、でも俺素手で殴られたぞ?」
「拳に魔法をまとっていたのでしょう。貴族や王族は怪我をしないように自分を守りつつ攻撃する人が多いのですわ」
「なんだそれ、最初から殴らなきゃいいのにな」
マリラは「あなた、やはりおかしいですわ」と言いながらフフッと笑った。しかしすぐに表情を戻しスッと立ち上がった。
「で、何しに来たんですの?」
「いや、君の部屋に来たわけじゃなくて、城から抜け出そうとしてたんだ」
「なぜ?私との婚約がそんなに耐え難いものでした?」
「いやそうじゃなくて……」
「言わせてもらいますけれども、そういうあなたも影武者のクオリティが低すぎますわよ」
「えっ!あっ!?なんで俺が影武者って……!?」
「だってあなた、すべてが田舎者ですもの。言葉使い、しぐさ、表情……。おかしいと思ってましたわ。極めつけは魔法の仕組みを全く知らなかったことですわね。王族や貴族のなかでは魔法の知識は常識ですから」
「ええっとその……!」
「で、本物の王子はどこにいますの?」
「俺も今探しに行くところなんだ」
「わたくしも行きますわ」
「えっっ!!?」
マリラは部屋の中へ戻ると身支度や荷作りを始めた。
「でもたぶん遠いぞ……!?この街の外へ出る必要があるんだ」
「かまいませんわ。わたくしは本物の王子と何が何でも結婚する必要があります。探しにいかなくては」
「それに本当にそこにいるかもわからな……」
「細かいことは道中に聞きましょう。さあ行きましょう!」
「ああ、それから……先ほどのお父様への進言、感謝していますわ」
ジファーはそれを聞いて笑顔返した。
「なんだ!やっぱおまえいい奴じゃん!」
「そ、そんな褒めても何も出ませんことよ!」
***
その頃、スリップは王子の様子を伺いに来ていた。
「王子、大丈夫ですか?」
「……王子?」
返事がないのを心配したスリップは部屋の鍵を開けて中に入った。
「王子……!?」
スリップは部屋の中にも関わらず風を感じた。その方向に目をやると窓が開いていることに気づいた。
「な、なんということだ……!」
窓から入ってきた風によって、ベッドの上に置かれた日記のページがペラペラとめくられる。
「ん……?なんでしょう……?」
日記を手に取ったスリップ。
「こ、これは……!!」