目を開け、周りを見渡し、そこが今までいた世界でないことを思い出す。
昨日はあまり眠れなかった。昨日の夜は部屋に2人取り残されたから、改めて自己紹介をしたが、22歳の男と17歳の女の子を一緒の小屋に寝かせるなんて何を考えているのだろうか。自分が狭い部屋でいいから、とにかく変えてもらおう。
そのようなことを考えながら朝食を食べ終わると、外へ出てこいと言われる。今日から稽古?をつけてもらう約束だ。
2人が揃ったのを確認して、明見が言う。
「今日から、私のことは師匠と言うように!わかったか弟子達!」
「「はい、師匠」」
それを聞き、満足そうに続ける。
「ステータス画面を見てくれ。等級の下に、『戦闘力』という項目があるだろう。おそらくそこは空白になっているはずだ。それは、職業のスキルを使った戦闘力が、等級と同じくB〜SSSで表される。
今お前たちはスキルの使い方がわかっていないから、空白というわけだ。
私は、職業が非戦闘系だから、戦闘力はZになっているがな。」
ステータス画面を確認してみると、確かにそこだけ不自然な空白になっていた。
「よって、今日は2人それぞれに別れて、スキル練習をしていこうと思う。先にコウタから行くぞ。」
急に名前を呼ばれてビクッとするが、すぐに返事をする。
「はい、よろしくお願いします!」
〜〜〜〜〜
「まずは、お前のスキルを確認する。
ステータス画面の職業の欄を押してくれ。
スキル内容が頭の中に流れて来るはずだ。」
言われた通りにしてみると、頭に直接情報が流れてきた。
『職業:マジシャン 等級:A
スキル:マジック(常時発動)、小道具召喚
スキル説明:「マジック」…自分が完璧にできるマジックは、実際に起こる現象となる。
「小道具召喚」…マジックに必要な道具のみ、召喚することができる。生物でも無生物でも可。』
一気に頭の中に情報が流れ込んだせいか、酔ったような状態で、吐き気がする。
「どうだ?大丈夫か?」
幸い酔いもすぐに治り、明見に流れてきた情報を説明する。
「スキルは2つ、いや実質1つか…Aだとこんなもか。じゃあ一回やってみろ。最初のうちはスキルを声に出していいが、慣れると念じるだけで使えるようになる。」
「はい!」
緊張はするが、少し楽しみでもある。
「小道具召喚!」
その瞬間、手元にトランプが出てきた。スキルは本物だ!!
『マジック』のほうは『常時発動』となっていたから、一旦なにかマジックをしてみるか。
先ほど召喚したトランプを慣れた手つきでシャッフルすると、数枚ずつ袖に入れていく。これはスリービングといって、袖の中に小道具を入れていく、消失系マジックの中の1つだ。
すると、どうだろうか!実際に袖の中に入れたものから本当に消えていっているではないか!
「これは面白い!!!」
1人で盛り上がっていると、明見が呼びかけてきた。
「おい!早くこっちに攻撃してこい!」
攻撃か…トランプ投げならできるけど、、
トランプ投げは実際かなり危険で、細いものは切断することは容易であり、その速さはギネス記録だと148km/hにもなる。
そんなものを人に向けてもいいのだろうか…
「すみません…俺にはできません…」
「…どうしてだ?」
「………」
俺が何も答えられず俯いていると、明見が近づいてくる。
「お前の職業はマジシャンだったな。
お前にとって、マジックとはなんだ?」
俺にとってマジックとは…?
小さい頃、親に連れて行ってもらったマジックショーが忘れられない。見ているだけで、その空間にいるだけで自然と笑顔になれた。
俺もそんなマジシャンになりたいと思い、中学を卒業してすぐにマジシャンに弟子入りした。
親には不安定な職業だといって少し嫌な顔をされたが、今でも応援してくれている。
俺はいつか、世界一のマジシャンになって、世界中の人を…!!
「俺にとって、マジックは…笑顔で人と人とを繋ぐ架け橋のようなものです。
マジックは、たとえ言葉が通じなくても、見るだけでその世界に魅了されていくんです。
俺は、、、いつか世界中でショーをするのが夢でした…言葉がわからなくても、どんなに辛くても、見るだけで笑顔になれるような…そんなマジシャンになりたいんです。
だから!!マジックで人を傷つけることは、笑顔を奪うなんてことはできない!!」
コウタは自分の服を掴みながら、気持ちを鎮める。
「わがままを言ってすみません…」
「いや、大丈夫だ。お前のマジックに対する気持ちがよく分かった。すまなかった。」
深く頭を下げる明見を見て、コウタは必死に止める。
「師匠が頭を下げる必要なんてありません。顔をあげてください。」
「わかった…。が、ともなると伸ばしていく方向性を変える必要があるな。幸い、こちらの世界の人々には、最初からスキルツリーが示されているが、私たちにはそれがない。つまり、自由に成長できるというわけだ。
この世界はイメージ次第で何でもできる…この世界でどんな自分になりたいかをよく考えろ。
よし、今日は終わりにしよう。」
そういうと、明見は背中を向け、うたが待つ方へと向かっていった。
「この世界でどんな自分になりたいか…か。」
コウタの掌は、強く握りしめられていた。
〜〜〜〜〜
☆【和神詩】☆
「さぁ!始めようか!」
私の目の前にいるのは、日隠明見さん。最初は少し怖かったけど、助けてくれたし、悪い人ではない…と思う。
「まずは自分の初期スキルを確認してくれ。」
言われる通りに操作をすると、頭の中に大量の情報が流れ込んできた。
『職業:陰陽師 等級:SSS
スキル:式神召喚、形代操作、結界生成、霊符操作、陰陽五行
スキル説明:「式神召喚」…古来存在した妖怪を式神として召喚できる。また、最強の式神である十二天将も召喚することもできる。しかし、十二天将の召喚には、十二天将それぞれに認めてもらう必要がある。
「形代(カタシロ)操作」…紙人形であるカタシロを、陰陽道の力で操る。
「結界生成」…陰陽道における防御結界で、悪霊や邪悪なものを中に入れない、あるいは中に封じ込めるためのもの。結界や結界術にも多くの種類がある。
「…操作」………の力によっ…………退ける効………
』
「うぅ…頭が……!!」
頭が真っ白になっていく。どうやらあまりにも多すぎる情報量が、脳の処理能力の限界を超えたらしい。そして意識も遠のいて行った。
目を覚ましたら、明見とコウタが心配そうに顔を覗かせていた。大丈夫だと伝えると、安心して一気に力が抜けたようだった。
「さすがSSSだな。普通なら頭がショートするくらいの情報はないぞ。
大丈夫、今わかっているだけでも十分だ。一緒に鍛えていこう!」
そう言ってくれる明見さんが、私は凄く好きになった。