「インターナショナル・デイリー・ニュース・ハワイ・トゥデイ」
「今日もハワイのニュースをお伝えする、
インターナショナル・デイリー・ニュース・ハワイ・トゥデイ、
地球人として生き始めたあなたにホットなニュースをお伝えする、
デイリー・ハワイ!
今日はその中でも、地球中の注目を集めているこの二人!
ハワイ滞在中のビッグカップル!
エイリアンから地球を救ったヒーロー達!
ローズ&ホンダに現地のレポーターが突撃取材!
あの噂の真相をお伝えする、貴重なインタビュー映像が入りました!ユーチューブアクセス率ぶっちぎりの第一位を更新中!
ニュースはインターナショナル・デイリー・ニュース・ハワイ・トゥデイで!」
「…だから、何がどうなってるんだ?ローズ?
なにが?」
ハワイの街角で呼びとめられて。
本多が眉を寄せて厳しい視線で見るローズも、レポーターに向けられたマイクに完全に思考が止まってしまっている。
「…ホンダ、と?」
完全に思考停止、普段の強引さも行動力も完全停止したローズに、
本多が肩を掴んで話しかける。
「おい!おまえネィティブだろう!おまえがちゃんと話せ!
なんでこんなことになってるんだ!」
レポーターの質問に、こちらも完全にパニックに陥って、
日本語でいう本多にアレックスが視線を向けて困惑したまま
見つめていう。
「プリーズ、ホンダ、…お願い、な?頼むから、英語で話してくれって!」
「…だから!おまえがおかしいからこうなってるんだろ!
どうして、…どうしておれが、…」
おまえと、といいかけて。
完全に額を抑えて落ち込んで驚愕したまま茫然と動きをとめる本多に、レポーターのことも忘れてアレックスがその両肩に手をおく。
「どうした?ホンダ?…大丈夫か?」
「…いや、…悪夢だ、…――――なんでそんな、…演習からやっと戻るんだぞ?なのにそんな、…」
小声で茫然と、日本語でいう本多にアレックスが必死に覗き込む。
「あのさ?ホンダ?大丈夫か?その、…ホンダ?」
おれ、日本語わかんないんだって、となさけなく眉を寄せて何とか
目をあわせようとするローズにも気づかず、本多が茫然とくちにする。
「…おしまいだ、…。誤解されたら、家にいれてもらえない」
「ホンダ?おい、ホンダ?」
「…そうでなくても今回は航海が長かった上に中々連絡がとれなくて、…」
急に顔をあげた本多に、ローズが思わずひく。
「おい?…ホンダ?」
「おまえのせいだぞ!ローズ!」
そして、急に英語で叫んだ本多に、アレックスが驚きながらもうれしそうな顔をする。
「おれのせい?ホンダ?」
「だろうが!まったく、…!いいか?おまえはまだ独身だからいい!俺は、…妻に誤解されたら、―――家にあげてもらえなくなるだろう…!」
「…そうなんだ?ホンダ?」
真剣な本多の切羽詰まった表情に、アレックスが瞬いて見つめ返す。
「ほら、誤解だっていえば、」
「誤解だっていう前に、ニュースとか、ゴシップとかをみるんだぞ?
どうしてくれるんだ?おまえ、責任とる気あるのか?ローズ!」
「…いやだから、…ごめん。責任はいくらでもとるけど、ホンダ。
奥さんって、ホンダ、奥さんに敵わないのか?」
思わず瞬いて蒼白な本多を見つめていうアレックス。
それに、極真剣に本多が当然だろう、と低い声でいう。
「当たり前だ。地球では太陽は東から昇るだろう。
そのくらい当然で当たり前な事実だぞ?アメリカ人は知らないが、
日本人の夫が妻に敵うわけがないだろう。そんなの江戸時代以前から紫式部の時代から延々と続いてる当然の事実だ。いいか?おまえたちアメリカ人は歴史が300年程度かもしれないが、日本人の伝統としては、約2千年、邪馬台国の卑弥呼の時代から、男が女に勝てた試しはないんだよ」
「…ホンダ、ホンダ、お願いだから、な?途中から日本語になってる。ヒミコ?はきいたことあるけど、ホンダ、落ち着いて!
…Please HONDA,…お願いだから、な、ホンダ?」
お願いだから、といって肩を押さえて見つめるアレックスを、
本多が正面から見つめ返す。
「…わかった、責任とれ」
英語で、といわれて頭が回らずに、短くいった本多にアレックスが強く頷く。
本多の両肩を押さえたままで。
「うん、おれ、ホンダの為なら命を賭けるから」
「命なんか賭けなくていい。おまえさえちゃんと責任をとって説明をしてくれればいいんだ」
「Please、HONDA!また日本語になってるって!英語で、な?頼むからホンダ!」
「パニックに陥らないでどうやって話せっていうんだよ?
いいか?嫁さんに誤解されてみろ。敷居をまたげないから。
いいか?日本語でおかみさん、つまり家の神、GODは妻のことなんだぞ?わかってるか?おまえ!」
興奮して日本語と英語が混ざる本多の言葉に、何とかついていこうとして真剣に見つめてその肩を掴んだままローズがくちにする。
「だから、その、…ホンダ!おれは、おまえの為ならなんでもするから!」
「だから、責任とれ」
何処かもう泣きそうになっていう本多に、目尻に浮かんでいる涙に動揺して、本多をアレックスが抱きよせる。
完全に動揺している本多の肩を叩いて、なだめようとして。
「…ホンダ、な?大丈夫だから!何かわかんないけど、俺が責任とるから!」
「…―――誤解される。…戻っても家にいれてもらえない…」
ちいさくつぶやいている本多の日本語に、困った聞き取れない、ていうか意味がわからない、と溜息を吐いて肩を何度も叩いて。
黙ってされるままになって固まっている本多に、目を閉じて肩に抱き寄せた本多にこづくように頭を寄せて、目を閉じたまま語りかける。
「…ホンダ、愛してるよ、…だからさ、ちゃんと責任とるから」
「…半年も家にもどれてないんだぞ、…なのに、…メールだって衛星電話だって絵葉書だって送ったのに…」
「…ホンダ、Please、愛してるから、な?」
頼むから、英語でしゃべってくれよ、と。
肩に動かない本多を抱きよせて、なだめるように肩を抱いて
その耳許に囁くローズ。
固まったまますっかり日本語でしかつぶやかず、動かなくなってしまった本多と。
「今週のアクセス第一位!インターナショナル・デイリー・ニュース・ハワイ・トゥデイの特報映像、動画サイトアクセスランキング一位であの動画サイトがアクセス集中して一時的にサーバダウン、復旧に一日かかったという話題の映像をお伝えしました!ちなみに、いまはミラーサイトを公式アカウントが作成したから、大丈夫よ!アクセスはIDN・HAWAII!シーユーネクスト!」
過去の記録を塗り替え、本年度の視聴率記録をトップで塗り替え続けているというニュース映像を、そしてそのいくつかあるニュースサイトのミラーサイトを表示させた画面を前に。
本多が、眸を伏せて額を抑える。
その隣で、おとなしく座ってローズが俯いて肩を落としたまま小さな声でいう。
「…わるかった、…ホンダ」
「いや、…俺も、パニックで英語が話せなくなってたからな、…」
「いいから、おまえ、日本に来い」
「え、…ホンダ?」
顔を上げるローズに、本多が低い声でいう。
「日本にきて、妻に説明しろ。…それから俺の両親にも会ってもらう」
「…ホンダ?」
「ちゃんと説明してもらうからな?」
振り向いて睨む本多に、アレックスが言葉をなくして見つめる。
「…――――ホンダ、の両親にあう?」
「当たり前だ。おまえにはこの混乱の責任を取ってもらう。
いいか?ちゃんと説明しろよ?」
「えっとでも、演習で日本に行くのは、」
「時間をつくれ、ローズ。こちらは瀬戸際の状況なんだぞ?
それでこうして提督にも話しにきたんだろうが!」
「いやそうだけど、…提督には状況説明と、…休暇の申請もしろって?」
「してもらおう。…家庭の危機なんだ。いいか?エイリアンを倒しても、家庭の危機が解決できるとは限らないんだぞ?」
真剣に眉間にしわを寄せていう本多の迫力に押されてアレックスが頷く。
「うん、わかった、ホンダ。ホンダの為にホンダの両親に会いに日本へいく」
「そうしてくれ、両親と妻に説明するんだ。おまえにはその責任があるんだからな?」
「…わかったって、ホンダ。ちゃんと説明するから、な?
ホンダの為なら何でもするって、ホンダ!」
「何でもしてもらわなくていいから、説明してくれ。それだけでいい」
必死の形相で迫る本多に、アレックスがその肩を押さえながら落ち着かせようという。
「お願いだから、な?ホンダ、落ち着い、…」
「提督がお呼びです」
重厚な扉の向こうから掛った声に。
「行くぞ、ローズ。まずは提督に事情を説明するんだ」
「うん、そうだな。…大体、おれが結婚するのはジェシカなのに」
「俺だって既婚者だ!なんでおまえと結婚しなくちゃならないんだ!」
「おれだってだから結婚するんだって!まだジェシカは婚約者だけど!」
「…わかってるって!大体なんでこんな誤解が広まるんだ!おまえのせいだろ!」
「おれのせいじゃない!だから」
「で、いつになったら諸君らは入室するのかね?」
手を後ろに組んで座った眸で静かに迫力のある声の提督がいうのに気がついて。
前に立つ提督に二人して直立不動の姿勢になる。
「サー、これはその、」
「君達に結婚の許可を出した憶えはないのだが。それに重婚は犯罪だ」
「誰もそんなことはしません…!」
思わず必死にいう本多に、無言で首を振るアレックス。
「だから、…!おれたち、結婚なんてしません、…!」
「当たり前だろ?大体なんでそんなことになるんだよ!おまえがいけないだろ!」
「だから!責任は取るっていってるだろ!ホンダ!」
「責任をとればいいってもんじゃない!大体どう責任を取るつもりなんだ!…あそこでおまえが愛してるなんていわなきゃな!」
「仕方ないだろ!もういったんだから!…それに本当のことなんだから仕方ないだろ!」
「本、…どうしてそうなるんだ…!」
「だって愛してるから仕方ないだろ!ホンダ!大事だし、大切だし、愛してるんだから仕方ないだろ!」
「…あのな?そりゃ俺だっておまえのことは大事だし、一緒に戦えたのを誇りにも思うし、おまえは凄い奴だとおもうがな?それとこれとは別だろ!ローズ!」
「だって愛してるから仕方ないだろ!兄さんだって、…だから、家族には愛してるっていうだろ!ホンダ!
ホンダとは一緒に戦ったし、だから、」
「わかったから、泣くな!おまえはこどもか!だから、…ほら、ローズ、俺も愛してるから、な?落ち着け、おい!」
目尻に涙を浮かべたローズに、思わずその髪を撫ぜてやりながら困惑して本多がいう。
「いいか?日本じゃあんまりそういう習慣はないんだよ。おまえな?だから落ち着け、な?ほら、俺もあいしてるから」
子供にするように髪を撫ぜて、何とか落ち着かせようという本多に。アレックスが座りこんだままホンダを見あげて、くちを結んで。
「うん、…だからさ、愛してるっていってもいいだろ?ホンダ」
「わかった、おまえたちアメリカ人の感情過多な愛情表現はよくわかったから落ち着け。しかしだな、俺は日本人なんだ。俺の妻と家族も、」
説明を始める本多と、それを涙目で見上げいてるアレックス。
その二人を一歩というよりかなり引いて壁際から眇めた目で眺めて、提督が隣に立つジェシカにいう。
「本当にいいのか?あれで」
「…ちょっと考えようかしら、…」
腕組みをしていうジェシカと。
複雑な表情でかれらを見つめるアドミラル・ホーンレイ。
すっかり、そして何処にいるかを忘れて説明を聞いているアレックス。真剣にそれに説明している本多。
本多の本来所属する航空自衛隊から預かっている海上自衛隊の海将補から、問い合わせがきたとき、思わず何と説明すべきかこめかみに拳をおいて眸を眇めた提督と。
何かすでに周囲にいろいろな意味のあきらめムードが漂っていることについては。
「いいか、ローズ。ちゃんと説明してくれよ?」
「うん、あいしてる、ホンダ」
「わかった、俺もあいしてるから、ちゃんと、その辺りをわかるように、責任もって説明してくれ、な?」
提督達をおいて、真剣に互いに向き合って。
極真剣に互いだけをみている二人、本多とアレックス。
二人だけは気付いていないようなのだった。―――
後日、そして。
本多がアレックス・ローズを伴って日本に帰国したことが。
”ビッグカップル!ホンダ、ローズを両親に紹介”とか書かれてビッグニュースになることは。
まだ全然、知らない二人がいるのだった。
かくして、地球規模の誤解が広まっていくことも。
しみじみと、そして見守るホーンレイ親子に。
まだ気付かず、極真剣に誤解を解く為の対応策を話し合っている本多とアレックス。
誤解が解けず、さらに雪だるま式に誤解がさらにふくらんでいくことは。まったく気付きも考えつきもしないでいる二人がいるのだった。―――
何はともあれ、ハワイの明るい日の下で。
平穏な時が刻まれている。
「インターナショナル・デイリー・ニュース・ハワイ・トゥデイ」
Fin