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第6話




    最終兵器メカ・ジャイアントヘッド



 俺の名前は吉田一政(よしだかずまさ)、ある朝目覚めると世の中から人類が消え去っていた。


 それだけでも理解しがたい現実なのにもかかわらず、俺の頭の中には、今までの人生で経験しうるはずのない記憶が支配していた。


 世の中が終わったような情景を目の当たりにして、きっと脳が自然と、荒唐無稽な妄想を作り出して防御反応を起こしているのだ、最初はそう思っていた。


 あの男と出会うまでは。


 泉谷清司朗(いずみやきよしろう)と出会ったのは、俺が人の気配を求め、横須賀中央駅近くを彷徨っていたときだった。

 清司朗はトランペット吹きの銅像が座るベンチで、トランペット吹きの親父に肩車されるように座り、項垂れていた。


 俺は恐る恐る「アンタ」と、ただそれだの言葉を、振り絞るように投げかけた。


「ん?」

 清司朗は別段驚いた様子もなく、俺を見てただ会釈をした。

 それだけの仕草で俺は、清司朗が「横に座れば」と言ったように感じ、自然と清司朗の横に腰をかけていた。


 それからどちらともなく、自分の中にある違和感しかない記憶の話をし始めた。


 二人の中にある記憶についての話は、まるですり合わせたかのように全てが一致していて、実にリアルな、であるが非現実的な物であった。 


 つまりそれまで何の接点もなかった二人の脳内に、全く同じ記憶が入り込んでいたのだ。




      終末最終兵器

   ジャイアントヘッド



 その記憶とはこういったものだ。



 二人の男が乗った小さなボートは、波飛沫を受けながら大きなタンカーに横付けした。

 ボートから見上げるタンカーは、海面にそびえる巨大な壁のように見えた。



「梯子を下ろせ!」

 ボートから何度か叫ぶと、タンカー壁面にある小さな扉状のハッチが開き、青に緑色のラインが入った軍服に身を包んだ、髭面のアメリカ人と、中国人ふうな女性が現れ、こちらを見ると大きなジェスチャーで、こっちに来るなといった手の振りからをして見せた。


「ナゼココヘキタ!ハヤクニゲルンダ!」

 髭面アメリカ人が叫ぶ。


「中に入れてくれ!今ならGHを止められる!」

 ボートの二人のうちのどちらかがタンカーの二人に叫ぶ、勿論ボートの二人は吉田和政でもなければ泉谷清司朗でもないし、記憶の中では明確に二人のうちのどちらが声を発しているのか分からない。


「もう無理よ!GHはジャイアントヘッドとして目覚めてしまったの!」

 中国人女性は、愁いを帯びた表情をこちらに向け、大きく首を振る。すると軍の帽子が海風に煽られ、宙に舞うと、彼女の束ねられた髪もほどけ、ロングヘアーが絶望の黒い旗のようになびいた。


「今なら間に合う!できるだけ遠くに逃げて、出来れば横須賀の外へ!」


「駄目だ!そんなことは出来ない!俺たちを乗せてくれ!俺たちならジャイアントヘッドを止められるんだお願いだ頼む!」


 男達の声は波音に空しく響いた。


「コレイジョウソコニイルト、コチラカラ撃タネバナラナイ!オネガイダ!ソンナコトヲサセナイデクレ」 髭面アメリカ人が叫ぶと、少し離れたハッチが数カ所開き、軍人達がこちらにライフルを構えているのが見えた。


「くそっ・・・しょうがない、陸に戻るぞ」

 二人のうちのどちらかが、悔しさをにじませてた言葉を吐くと、ボートは猛スピードで陸を目指した。



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