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第7話



   終末兵器・ジャイアントヘッド



 港に戻った二人は、停泊している大型タンカーを見つめた。


 ゴォォォォゥ!


 胸を引き裂くような警報音が、港のスピーカーから響き渡る。


「本当にやるつもりなのか!」

「あれを見ろ!」


 大型タンカーの甲板部分が観音開きになり、巨大な物体がせり上がってくる。


「奴ら、あれを使うのか・・・」

 タンカーからせり上がった物体は、自らの力で宙に浮き上がった。

 全長は30メートルはあろうか、人型の物体はうつ伏せ寝のような姿勢のまま、タンカーの上空で暫く漂うと、ゆっくりと浮遊しながら、仁王立ちのような姿勢になった。


 パーッパララー!


 終末の日に響くという進軍ラッパのごとく、宙に浮かんだ巨人が不気味な音を放つ。


 その異様な光景と音に、周囲の住民達は気づき、逃げ惑うが、二人の男だけは全てを悟ったかのように、宙に浮かぶ巨人を見つめていた。


「全てが終わってしまう・・・」

「全ては、終わりのない始まりに向かうのさ・・・」


 パーッパララパーッ!



 巨人がまた地の底から湧き出すような、不気味なラッパの音を吹き鳴らしながらゆっくりと、恐怖を染み渡らせるように、港に迫って来る。


 巨人は浮遊しつつ港に近づき、それにつれラッパの音はボーッボーッ!という船の汽笛のような音に変化し、海面はその音の波紋を受け止めたのか、まるで鏡のように凪の状態になり、その機体が陸地に達すると、汽笛は激しさを増し、港に停泊していた小型船舶は跡形もなく消え去ってしまった。


 やがて巨人は、男達の真上を通り過ぎ、耳を劈くような汽笛と供に、逃げ惑う住人を消し去ってしまった。


 それが男達の最後の記憶であった。



 吉田一政と泉谷清司朗の二人には、この世界に何故来たのかという記憶はないが、その現実とは思えない記憶がリアルに焼き付いており、それはこの現実離れした世界では、どんな記憶より確かな物に思えてならないのだという。





 確かに言われてみればそうである。

 こんな理不尽で、不可解で、理解不能な世界があろうか。


「俺だって最初は自分の記憶を疑ったよ、それが初めて会った奴と同じ記憶だったとしてもな・・・」

 吉田は段ボールで目張りされた窓の方を見ながら言うと、泉谷がゆっくり立ち上がりアタルを見下ろしながら、この場所にやってきて、港の方を見下ろした時の衝撃を話し始めた。


 共有する記憶を持つ二人は、そこに停泊するタンカーを目の当たりにしたとき、ジャイアントヘッドが搭載されていた船だと確信した。

 それだけではない、このマンション群の全てに電気が通っていて、どの部屋にも潤沢な食料があった。


 二人は、この場所で「アレ」を見守るのが自分たちの使命なのだと、言い合わせる事もなく感じたのだという。


 二人の真っ直ぐに、奇想天外な出来事を信じる目に、アタルは劣等感のような物が芽生えるのを感じていた。

 このふざけた世界に放り込まれる前だって、アタルは真実に向き合わず、自堕落に生きてきた。

 それなのに、ここへ来ても、アタルには与えられた使命らしきものも、解き明かすべき謎もないではないか・・・。


(俺は、もう一つの世界へ落とされても、なんの価値もない人間だっていうのか)

 アタルはじっとフローリングの床を見つめた。

 二人の方を見ることが出来なかった。


 目の前に居る二人は、あるはずもない・・・かもしれない、ジャイアントヘッドという、巨大なロボットと組織に、彼らなりに対峙している。


 それなのに自分はなんだ、ここに居ようと、前の世界だろうと、何も変わらず、惰性で時を過ごしているじゃないか・・・。


 アタルのそういった自問を感じ取ったのか、泉谷はアタルを見下ろしたまま口を開いた。


「アンタ、港まで見に行ってくれないか?」

「えつ?」

 アタルは視線をゆっくり上げ、泉谷に視線を合わせてみた。


「だってあの船には・・・」

「多分ジャイアントヘッドが乗っている・・・でも、アンタにはその記憶が焼き付けられていない、そういった人間が近づいた時、奴らがどういった反応をしめすのか・・・」


「そんな・・・奴らが反応したら、俺たちだってどうなるか分からないんだぞ!」

 吉田は驚いたように立ち上がったが、真っ向から反対の意見でも無さそうであった。


「いいよ、囮になってそのジャイアントヘッドって奴の反応を見せればいいんだろ」



(囮なんて、自分にピッタリな役割じゃないか)



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