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港へ
「アンタ、俺たちの言ってること、まだ信じてないだろ」
エレベーターの中で、吉田はふて腐れたように、視線を階数表示画面を見つめながら言った。
「まあ・・・・」
アタルが、左側に立つ吉田に、薄ぼんやりした返答をすると、右側に立つ泉谷が機嫌悪そうに。
「信じないならそれでいいよ、だけど、港の様子は見てきてくれよな・・・」
アタルは小さく頷くと、エレベーターは一階に到着した。
ロビーからマンション群に囲まれた広場を抜け、車道に出ると、アタルの愛車が無残に倒れている。
アタルは当てつけがましく大きな溜息をつくと、メタリックブルーのスーパーカブ110を起す。
「あーあーっ・・・左のミラーが壊れちゃってるよ」
イヤミにも受け取れるアタルの言葉に、泉谷はふて腐れて答える。
「悪かったな・・・」
泉谷は言った後に、丁寧にバイクの様子を見るアタルの姿を見て、小さく舌打ちをした。
アタルはそんな泉谷の苛立ちを背中で感じつつ、スタンドを立てて、故障箇所を確認し始めた。
「カウルもヒビいっちゃってるしさぁ・・・」
「悪いって言ってるだろ!」
泉谷が何の感情もこもっていない合いの手をかえした。
「オイルも漏れてるし・・・エンジンかかるかなぁ」「悪かったって言ってんだろうが!ったく・・・お前友達いないだろ!」
泉谷は溜まらず止めていた言葉を吐き出した。
「そうさ、俺には友達と呼べる奴はいなかった。だからここに送られたのかもな・・・」
アタルは泉谷の言葉に、脳内で答えた。
アタルは一通りバイクの様子を見ると、キーを回し、スターターを押した。
ギュンギュルルー・・・下痢のような、歯切れの悪い屁のような、そんな音を一端たてて、スーパーカブはエンジンを止めてしまった。
アタルは二三度それを繰り返すと、今度はキックレバーを思いっきり踏み込む。
すると、暫くはエンジンがかかるが、すぐに止まってしまい、三度目のキックでやっとエンジンがかかった。
「じゃあ、長浦港の自衛隊の敷地を見てくればいいんだな」
アタルがスロットルを小刻みに上げて、エンジンを安定させていると、吉田が近づいてきた。
「とりあえず一通り見てきたら、帰ってきていいから、奴ら何人隠れているか分からないし」
「ああ」
それだけ言うと、アタルはバイクを走らせた。
暫く緩い坂を下ると、信号があり、そこを左折すると、安針塚駅に繋がる急な坂道があり、駅前を右折し、道なりに行くと16号に突き当たる。
16号を横断するように突っ切ると、長浦港に繋がる市道に入る。
入るなり、横須賀線の線路をこえ、数十軒の住宅地が道を挟んで左右にあるが、アタルはそこを右折して、突き当たりにある自衛隊の施設に向かった。
当然だが、入り口ゲートには誰も居ないので、アタルはそのまま施設の中へ入っていった。
暫く全身すると、アタルは何かに気づいた。
人だ・・・数十メートル向こうの岸壁に、パイプ椅子に座ってこちらを睨み付けている男がいる。
アタルは恐る恐る徐行しながら、パイプ椅子に座る男に近づいていった。
「ん?」
アタルはこちらを睨み付けたまま、微動だにしない男をまじまじと見つめた。
「人形じゃ・・・ないよね・・・」
暫く近づくと、アタルはバイクを止め、男の方を見て半歩前へ出た。
すると、男は突然立ち上がり、こちらへ何かを向けてきた。
「銃だ!・・・・・」