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第8話




      GH


      港へ 



「アンタ、俺たちの言ってること、まだ信じてないだろ」

 エレベーターの中で、吉田はふて腐れたように、視線を階数表示画面を見つめながら言った。

「まあ・・・・」

 アタルが、左側に立つ吉田に、薄ぼんやりした返答をすると、右側に立つ泉谷が機嫌悪そうに。


「信じないならそれでいいよ、だけど、港の様子は見てきてくれよな・・・」


 アタルは小さく頷くと、エレベーターは一階に到着した。



 ロビーからマンション群に囲まれた広場を抜け、車道に出ると、アタルの愛車が無残に倒れている。

 アタルは当てつけがましく大きな溜息をつくと、メタリックブルーのスーパーカブ110を起す。


「あーあーっ・・・左のミラーが壊れちゃってるよ」


 イヤミにも受け取れるアタルの言葉に、泉谷はふて腐れて答える。

「悪かったな・・・」

 泉谷は言った後に、丁寧にバイクの様子を見るアタルの姿を見て、小さく舌打ちをした。

 アタルはそんな泉谷の苛立ちを背中で感じつつ、スタンドを立てて、故障箇所を確認し始めた。


「カウルもヒビいっちゃってるしさぁ・・・」

「悪いって言ってるだろ!」

 泉谷が何の感情もこもっていない合いの手をかえした。


「オイルも漏れてるし・・・エンジンかかるかなぁ」「悪かったって言ってんだろうが!ったく・・・お前友達いないだろ!」


 泉谷は溜まらず止めていた言葉を吐き出した。


「そうさ、俺には友達と呼べる奴はいなかった。だからここに送られたのかもな・・・」

 アタルは泉谷の言葉に、脳内で答えた。


 アタルは一通りバイクの様子を見ると、キーを回し、スターターを押した。


 ギュンギュルルー・・・下痢のような、歯切れの悪い屁のような、そんな音を一端たてて、スーパーカブはエンジンを止めてしまった。

 アタルは二三度それを繰り返すと、今度はキックレバーを思いっきり踏み込む。


 すると、暫くはエンジンがかかるが、すぐに止まってしまい、三度目のキックでやっとエンジンがかかった。


「じゃあ、長浦港の自衛隊の敷地を見てくればいいんだな」


 アタルがスロットルを小刻みに上げて、エンジンを安定させていると、吉田が近づいてきた。


「とりあえず一通り見てきたら、帰ってきていいから、奴ら何人隠れているか分からないし」

「ああ」

 それだけ言うと、アタルはバイクを走らせた。

 暫く緩い坂を下ると、信号があり、そこを左折すると、安針塚駅に繋がる急な坂道があり、駅前を右折し、道なりに行くと16号に突き当たる。

 16号を横断するように突っ切ると、長浦港に繋がる市道に入る。

 入るなり、横須賀線の線路をこえ、数十軒の住宅地が道を挟んで左右にあるが、アタルはそこを右折して、突き当たりにある自衛隊の施設に向かった。


 当然だが、入り口ゲートには誰も居ないので、アタルはそのまま施設の中へ入っていった。


 暫く全身すると、アタルは何かに気づいた。

 人だ・・・数十メートル向こうの岸壁に、パイプ椅子に座ってこちらを睨み付けている男がいる。


 アタルは恐る恐る徐行しながら、パイプ椅子に座る男に近づいていった。


「ん?」

 アタルはこちらを睨み付けたまま、微動だにしない男をまじまじと見つめた。

「人形じゃ・・・ないよね・・・」

 暫く近づくと、アタルはバイクを止め、男の方を見て半歩前へ出た。


 すると、男は突然立ち上がり、こちらへ何かを向けてきた。


「銃だ!・・・・・」






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