目が覚めれば穴だらけの天井。
床はミシミシ異音をたて、異臭も漂うとても寝心地がいいとは言えない家。
そんな家でアストロは目が覚める。
「くっっっせ! なんだこの、うんこ見てぇな匂いは!」
「くせぇ豚部屋ってそういうことじゃないだろ!」
これでは刑務所となんら変わらないじゃないかと雄叫びをあげる。
しかしすぐに冷静になって考えた。
「とは言ったものの、家があるだけマシだよな……」
雨風を凌げるかは別として、少なくとも野宿よりはマシだろうと考え、ベッドを出る。
それにご飯も一応は提供されるようだ。
周りを見渡せばボロボロでカビが生えてるが木箱のようなものも置いてある。
装備などはこの中にあるのだろう。
「あの箱……開けるのにまた金取られるのか……?」
もうここまで来ると疑心暗鬼になってくる。
まだまだ序の口だと言うことに気づかないまま、一歩ずつ箱に近づいて、よく見てみると箱に置き手紙が置いてあった。
現実的な紙じゃなく、動物の皮膚のようなデザインをした変わった紙だ。
そういえば会員登録の時もこんな紙だったような?
ともかく内容を読んでみることに。
「えーっとなになに?」
ーーアストロさんへ。
この世界は確かに何をするにもお金が必要ですが、それではまともに生活も出来ないので冒険に必要な物資や生活の保証はあります。
あとアストロさんが気絶してて聞き損ねてると思いますが、今月から月額1000カンずつの支払いがあります。
この箱の中にはそのお金を稼ぐための初期支給があります。
有効活用してくださいね。
開けるのにお金はとりませんから。
ギルド受付嬢。
「警戒し過ぎもダメだってことか……。ていうか俺気絶してたの? そうか……」
「そしてなんで普通に異世界の言語が理解できるんだ俺。ご都合はないと聞いたが……」
紙に書いてある事は明らかに見たことも習ったこともない言語なのは確か。
でもそれをスラスラ読んで理解できてる自分が怖くて仕方ないようだ。
ーーあっごめんなさいね。言い忘れてたけど、クリアを円滑にするために日常生活や戦闘などでの最低限に必要な部分だけは都合よくなるようにしてるわ。そうしないと話進まないし……。
「メタいなお前! というか普通に干渉してきたし……」
ーー言い忘れてたんだもん許して☆
「まぁいいけども……」
あの時の女……そう認識するアストロは、もはや怒りを通り越してまともであることを期待するのを辞めた。
何かにつけて頭のネジが外れてるのが普通だと思うことにした。
そして同時に、神話的存在は嘘つきだとも思うことに。
「俺は遊ばれてるだけなのかもな。ゲームだけに」
「……まっいっか。とにかく開けよう」
ここまで都合良かった出来事もあの女の仕業ということにしておいて大人しく箱を開けることに。
そうすれば、確かに置き手紙の通りお金をせびられることもなければ中には冒険スターターセットと呼ぶべき代物が沢山でてくる。
「初期装備って感じのよくある貧相な防具と武器、それにアイテムポーチと……これはなんだ?」
身につける大方の装備は今の服と着替える形で付けつつ軽く手足を動かしながら品質を確かめる。
武器に至っては木でできた剣であり盾はないようだ。
初期だけあって状態は最悪でゴワゴワするのだが、それとは別に本が2冊用意されていた。
「『世界を歩く』と『冒険者の基本』か……。いわゆるチュートリアルか」
両方とも厚さはそれほどないようで、世界を歩くについては中をどれだけめくっても空白だった。
なのでもうひとつの本である冒険者の基本を読んでみることに。
「……。冒険者とは、金を稼ぎ金を使って過ごし、金を使って己を鍛える職業のこと……? まてまてまて、冒険者ってそういうもんじゃねぇだろ!」
「もっとこう……国を守るためーとかじゃないのかよ!」
これではまるで自己満足のための職ではないか!と頭を抱えるが……よーーく見て余計にアストロは絶望した。
「なお冒険者になると死ぬまで二度と解約できません……? だったらもうサブスクでもなんでもねーじゃねーか!」
よーーく目を凝らして説明文を読まないと分からないくらい小さい文字で隅っこに書いてあったのを見落とさなくて良かったとほっとする。
けど、結局解約できないんじゃ意味ないじゃないかとやっぱりため息を吐く。
「付属の『世界を歩く』は最初は空白ですが、依頼をこなし貯めたお金で、本のページ1枚ずつに500カン納品すると地図が埋まって行く仕組みですって……。そこは金取るんかよ」
要は手数料という解釈なのだろうか?ここまで来ると現実的な解釈が難解になる。
そして、世界を知ろうと思えば思うほどやっぱり金がいるようだ。
ーー※ここからは有料です。100カン納品してください。
「待ってくれよ!基礎は??基本は?? チュートリアルですらやっぱりとるんかよ!!」
「支給どうした! まだどうやって戦えとか世界の情勢がーとか分からんぞ!」
「だぁもうわーた! 勘で全部解決してやる!」
ここまで前世の記憶を引き継ぐのは転生あるあるとしてたものの、それ以降は本当に金ないと融通効かねー世界だなぁ??ともうやけになっている。
一体何をさせたいのかあの女の狙いがわからんと内心思いつつも、怒りで本を投げそうになったその手を下ろし箱に戻す。
「まぁ……マップもどきが手に入っただけマシとしようかな……」
とりあえず気絶から目を覚ましたアストロは、生活環境が劣悪であることを早く改善しようと動くことに。
あとしれっとスマホも持ち越せていたのを利用してこれを売……らずに試しに電源を入れてみることに。
「あ……ステータス表記そこからかよ!! 空を切るように指を動かすとかじゃないんかよ!」
そう、自身のステータスはスマホ画面に表記されていたのだ。
事細かくしっかり書かれており、今の自分はとりあえずレベル1であることはわかった。
「体力は10でそれ以外のMP・攻撃・防御・すばやさは5しかないと……で、ログを見れるわけだけど……。あのどうみてもスライムに倒された時も乗ってるのね……と思ったが名前はやっぱり分からずか」
「で、図鑑もあるけどこれは見ようとしても課金制と……もう慣れ始めてる自分がこわい」
図鑑が課金制というだけでなんで名前が不明だったのかはおおよそ察しつつ、ステータスも貧弱なことも理解しつつ、家をとにかく出るかと思い立ち支度をすることに。
「ふう……。とにかく生活環境だけでも何とかなるように頑張りますか!」
ここから大きくて小さいアストロのゲームプレイが始まる!