目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第14話 きれい事

死にかかっている若者がいる。

「悲しい」と私は思う。

この若者は元気だったころ、とてもきれいな絵を描いていた。

遠近法的というよりはむしろ平面的であるけれども、色彩豊かで目に焼きつく、みんなの印象に残る絵を得意としていた。

23作目を発表した後、ガンがわかった。末期だった。

闘病生活は大変だった。美しかった容貌は醜く変わってしまった。

25作目を描いているとき、ベッドから起き上がれなくなった。

私はこの若者の人生がいいものだったと思いたい。

しかし、そうなってしまうと、誰の人生もいいものになってしまって、私の人生の肯定にもなってしまう。

24作目の「祈り」という絵を、私はきれいだと思う。世間もかなり注目している。

これはもしガンにかかっていなかったら描けなかったものだろう。

しかしこの絵はとても悲しい絵だ。

というのも、そこに描かれた顔は昔のこの若者にそっくりだからだ。

要するに、現在の肯定では決してなかったから。若者は生きたかったに違いない。

私は絶望した気分で病室を後にする。

とはいえ、作品の権利をすべてもらえる契約書にサインをもらったから、懐は暖かい。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?