セムラの10日間が始まった。
かのこはさっさとあんこの井村家に電話をして、あんこを預かる話をする。
「お客様が来ていて、あんこちゃんと雲ちゃんと、お夕飯を食べさせたいからいいわよね」
さすが下町というべきか、あんこの家族も「あらすいません」と言うだけで終わり、かのこは腕を振るって夕飯を作る。
箸文化も米文化も無かったが、かのこの夕飯を食べたセムラは、とても美味しいと言い、それだけでかのこの機嫌は良くなった。
食後にかのこは普通の顔でとんでもない事を言った。
「まだ私の家には風邪菌が居ますから、雲ちゃんのお家にお泊まりしなさいね」
「え!?ばあちゃん?俺とセムラさん?」
雲平は、若い男女が同じ部屋にいる事は良くないと言ったが、「2人がキチンとすれば平気です」で押し切られてしまう。
「俺まだ明日学校…終業式」
「朝早く起きて、ここにセムラちゃんを連れてくれば良いんですよ」
こうなるとかのこには何も通じない。
諦めた雲平は、あんこを見て助けを求める。
「あんこ、あんこも明日終業式だよね?ウチに荷物持ってきて、ウチから行かない?」
あんこは雲平とかのことセムラを見て、「仕方ない。やりましょう」と言ってくれた。
こうしてあんこの家に寄り、事情を説明するとあんこの家族は、「へぇ、面白いね。通い妻でもしておいで」と言って、嫁入り前の娘を笑って送り出す。
あんこは呆れながらも顔を赤くして否定する。
「ちょっとやめてよお母さん!私は別に」
そんなあんこを見てあんこの家族は笑い飛ばす。
「シェルガイ美少女が居るから、ウチの娘は箸休め程度だね」
横で聞いている雲平は、こういうガサツな冗談があんこを育ててきたんだと思っていた。
・・・
あんこは中学生の時はよくきていたこともあり、雲平の家を熟知しているので、「雲平は部屋に荷物置いてきなよ、私がお風呂の用意しておくよ」と言い、雲平も「助かる」と言って、「セムラさん、着替えてきたりします」と言って部屋に行く。
あんこが用意したお茶を飲みながら風呂を待つ間、あんこはセムラに質問をする。
「ねえ、お婆ちゃんが居ないから聞くんだけど、シェルガイってどんな所?」
「どんな所?ですか?昔は土地は広く、建物も大体は平屋か二階建てで、空が高く広い世界です」
セムラは話しながらシェルガイの景色を思い出す。
「いっぱい地球人が行っちゃって迷惑してない?」
「いえ、それよりもお婆様がいないから聞けるとは?」
ここに戻ってきた雲平を交えてあんこが、雲平の父親の金太郎と母親の瓜子がシェルガイに行って7年経つ事と、生死不明な事を伝えた。
セムラは姿勢を正して、「お婆様のお怒りはごもっとも、雲平さんはそれなのに私をお助けくださいました」と言って頭を下げる。
「いいですよ。あれは父さん達が勝手に行った事です。それよりもばあちゃんの前ではシェルガイの話はやめてください」
「わかりました」
ここで聞こえてくる風呂が沸いた音。
あんこが先に立ちあがってセムラに向かって、「さ、お風呂入ろうよ」と声をかけると、セムラは少し困惑気味に「あんこさん?」と聞き返す。
「ほら、初めてのお家だから勝手わからないでしょ?」
「え?でも?」
あんこはセムラが何を言っても「いいから」と言って連れていってしまうと、浴室からは「何度見ても細い!大きい!柔らかい!すべすべふにふにしてる!」と聞こえてきて、雲平はリビングで「あんこぉぉっ」と言って唸ってしまう。
お風呂から出てきたセムラは、あんこ母の下着を着ているらしく、あんこが「いやぁ、念の為に持ってきて良かったよ」と言うが、雲平は聞くたびに目がバストやウエストに向かってしまい、それを意地になって我慢するばかりだった。
そうでなくても、あんこ母の言葉を借りれば、湯上り薄着シェルガイ美少女の破壊力はヤバい。
あんこで言えば、あんこもモテの部類には居るがこの性格なのでモテない。
そのあんこのTシャツandスパッツは別になんとも思わない。
「雲平もお風呂入っておいでよ。お布団敷いておくからさ」
「よろしく」
雲平は油断していた。
そもそもこの家であんこの部屋になりかけていたのは客間で、その客間も金太郎が家を建てる際に、かのこと同居する場合を考えて用意していたかのこの部屋で、てっきりそこに布団を敷くと思っていた。
だが現実は全く違っていて、あんこは雲平が風呂に入った数分の間に、雲平の部屋を掃除して布団を無理矢理2組敷いてしまう。
「…なにこれ?」
「えぇ?3人一緒が良くない?」
「俺男、セムラさんとあんこは女の子だろ?」
「シェルガイがベッド文化だと、床で寝るのは私と雲平だし、この部屋にセムラさん1人は失礼じゃない?」
「父さん達の部屋があるよ」
「あー!確かに!でも3人一緒がいいって、ね?セムラさん」
「はい。旅先で1人で眠る経験は少ないので、出来ましたらご一緒したいです」
そんな話をしたわけだが、結局セムラは床で寝る事に問題なく、床はあんことセムラ、ベッドは雲平になる。
いつまでもキャイキャイと喋り続けるあんこに、雲平が「あんこ、明日早いから寝るよ」と言うと、あんこはむすくれた顔で「もう、仕方ないか…。明日もここだろうから私も泊まる!」と言って布団をかぶる。
「別に良いけど、洗濯は?」
「私がやるよ」
「わかった、じゃあ明日は学校終わったらセムラさんの服とか買ってあげてよ」
「うん。そうするよ」
この中でも静かなセムラが気になって、雲平が声をかける。
「この電気と呼ばれる光が凄いなと思いました。シェルガイでは星あかりと月明かりが眩しいですが、それ以上です」
そう言ってセムラは蛍光灯を見ていた。
「それは蛍光灯です。あまり見続けると目に良くないので、気をつけてくださいね。消しますね」
こうして眠るわけだが、雲平からすれば慣れない匂いは感じるし、寝息なんかも感じて緊張してしまう。
必死に眠る事を考えて眠りにつく。
翌朝、部屋は寒かったのか、あんことセムラは同じ布団で抱きしめあって寝ていた。
それはまだ若い雲平に刺激が強すぎて、朝の反応を見られる前にリビングに降りて着替えると朝食を用意した。