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翠玉の令嬢は異国の地で愛を知る
翠玉の令嬢は異国の地で愛を知る
吉華
異世界恋愛ロマファン
2025年08月22日
公開日
4,488字
連載中
マリガーネット・ランウェイは、青緑色の髪に黄緑色の瞳を持つエスメラルダ王国の公爵家二女である。 国内でもいっとう好まれる色彩を持つ彼女を父親は溺愛しており、使用人や領民からも評判の、正に世界中から愛され慕われているような少女だ。 彼女がそこまで慕われているのは、幼い頃に誘拐された自分を助けてくれた異母姉スピネルを慕い、スピネルのようになりたいと願ってたゆまぬ努力を続けてきたから。幼い頃から王子の婚約者として内定しており、文武両道を地で行く美しくて聡明な姉のようになりたいと、一生懸命だったから。 しかし、エスメラルダでは珍しい赤い髪を持っているスピネルは実家で冷遇されており、あろうことかマリガーネットが原因で王子との婚約が解消されかけるという事態にも陥ってしまった。自分がこの国にいては姉の迷惑になるのでは――思い悩むマリガーネットだが、結局無責任な事は出来ないからと、姉の幸せを祈りながら毎日を過ごしていた。 そんな折、王子が王となり、スピネルは王妃となる事が決まった。新王の戴冠式に出席し、その日の晩餐会にも出席したマリガーネットは、来賓として戴冠式に出席していた月晶帝国の皇太子・劉蒼玉に出逢った。 ※この話は他サイトに投稿している同タイトルの長編を加筆・修正して書き上げた話となります。 【主要登場人物紹介】 マリガーネット・ランウェイ(16) 今作ヒロイン。周りの人々から愛されて育ったが、環境に甘えず自己研鑽に努め使用人や領民を大切に思う一本芯のある令嬢。異母姉のスピネルが大好き。乗馬が趣味で、愛馬のマロン(栗毛の牝馬)を可愛がっている。 劉蒼玉(21) 東大陸の大国月晶帝国の皇太子。青い髪に紺碧の瞳を持っている。生真面目な性格で人込みが苦手なインドア派。この年まで浮いた話が全くなかったので、母である皇后・藍玉を心配させていた。 エメラルド・キング・エスメラルダ(25) エスメラルダ王国の新王。緑髪金眼。見た目は将軍かと間違われるレベルに鍛えていて実際腕も立つが、趣味は毒草研究である。幼い頃からの婚約者だったスピネルにベタ惚れしている。 スピネル・クイーン・エスメラルダ(22) マリガーネットの異母姉。赤髪栗眼。緑系が主流のエスメラルダでは珍しい髪色をしているので、幼少期から実父を始めとして周りに冷遇されてきた。

プロローグ

「おねえさま!」

 脇目も振らず、追い掛けた。学院の勉強だってそれ以外の勉強だって乗馬だって、何だって必死に取り組んだ。

 だって、あの日助けに来てくれた貴女みたいになりたかったから。貴女は私の憧れと理想そのものだった。

「そんな色のドレスよりも、こちらの方がお前に良く似合っている。こちらにしなさい」

「そうですわ! そんな気味が悪……んん、派手な色なんてお嬢様に不釣り合いです!」

「お父さまの言う通りよ。聞き分けなさい」

「……」

 青緑色の長い髪に、黄緑色の瞳。この国ではいっとう好まれる自分の色彩は、貴女を象徴する色と相性が悪かった。ならば小物、靴、髪飾りとドレスとは別の物に取り入れるようにしたけれど、皆の視線は冷ややかだった。

「全く、どうしてあんな薄気味悪い娘と息子が産まれたんだか。私の希望はお前だけだ」

「……でも、お姉さまは学院でも優秀な成績を残してらっしゃるし乗馬大会では何度も優勝なさっているわ。お兄さまだって、公爵家きっての天才と言われて領地内のトラブルを次々解決してらっしゃる。だから私は、お二人みたいになりたいって思って毎日頑張っているの。だから」

「ああ、お前は何て良い子なんだ! お前こそが世界に愛された我がランウェイの愛娘! お前の事は、必ずお父さまが幸せにしてやるからな! 愛する娘のためならば!」

「……」 

 だから、二人をそんな風に言わないで。その言葉は、いつもいつも言う前に閉ざされた。私がどんなに頑張っても、努力しても、周りが二人を見る目は全然変わらなかった。私を愛していると言うくせに、お父さまはいつだって私の言葉は聞いてくれなかった。

「もう一度お考え直し下さい! あんな娘よりも、あの子の方が王家には相応しい筈です!」

「まだ言うか。どちらもお前の娘だろうに……今更決まった事を蒸し返すな。もう決定から何年経つと思っている」

「王子! どうか、どうか……!」

「くどい! 我が妃は彼女以外にあり得ないと言っている!」

 王子はそう言ってくれていた。他ならぬお姉さまが良いってずっと言ってくれていた。けれども、自分の要求を聞き入れられず暴走したお父さまは、あろうことか……お姉さまを亡き者にして、代わりに私を王子に嫁がせようとした。

 結局それは未遂で終わり、王子がお姉さまを王宮に呼んで守ってくれたから事なきを得たが……私は、とてもとても落ち込んだ。しかし、お父さまは自分のやった事で私が落ち込んだなんて思わなかったらしく、次こそは成功させてお前を嫁がせるからな、世界から愛されているお前の方が王家には相応しいのだからと言って意気込んでいた。

(私は……もうこの国にいない方が良いんだろうか)

 王子がお姉さまを王宮に呼んだ翌日、二人は正式な式を挙げて夫婦となった。これでひとまずは安心だと思ったのだが、お父さまには未練があったようで……だからもう、いっそ、とそう思ってしまったのだ。

 とは言え、外国に当てがある訳でもない。公爵令嬢として生きてきて自分にも領地がある立場上、身勝手に逃げる事は許されない。不慣れな事をしたところで結局連れ戻されるだろうし、自分の我儘で領民を困らせる訳にはいかないのだから。貴族のご令嬢だからこそ、自由なんて許されない。

「大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」

 自分に折り合い付けて、諦めて。お姉さまの幸せを祈りながら、毎日を生きていた最中。


 貴方に、出逢った。

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