「おねえさま!」
脇目も振らず、追い掛けた。学院の勉強だってそれ以外の勉強だって乗馬だって、何だって必死に取り組んだ。
だって、あの日助けに来てくれた貴女みたいになりたかったから。貴女は私の憧れと理想そのものだった。
「そんな色のドレスよりも、こちらの方がお前に良く似合っている。こちらにしなさい」
「そうですわ! そんな気味が悪……んん、派手な色なんてお嬢様に不釣り合いです!」
「お父さまの言う通りよ。聞き分けなさい」
「……」
青緑色の長い髪に、黄緑色の瞳。この国ではいっとう好まれる自分の色彩は、貴女を象徴する色と相性が悪かった。ならば小物、靴、髪飾りとドレスとは別の物に取り入れるようにしたけれど、皆の視線は冷ややかだった。
「全く、どうしてあんな薄気味悪い娘と息子が産まれたんだか。私の希望はお前だけだ」
「……でも、お姉さまは学院でも優秀な成績を残してらっしゃるし乗馬大会では何度も優勝なさっているわ。お兄さまだって、公爵家きっての天才と言われて領地内のトラブルを次々解決してらっしゃる。だから私は、お二人みたいになりたいって思って毎日頑張っているの。だから」
「ああ、お前は何て良い子なんだ! お前こそが世界に愛された我がランウェイの愛娘! お前の事は、必ずお父さまが幸せにしてやるからな! 愛する娘のためならば!」
「……」
だから、二人をそんな風に言わないで。その言葉は、いつもいつも言う前に閉ざされた。私がどんなに頑張っても、努力しても、周りが二人を見る目は全然変わらなかった。私を愛していると言うくせに、お父さまはいつだって私の言葉は聞いてくれなかった。
「もう一度お考え直し下さい! あんな娘よりも、あの子の方が王家には相応しい筈です!」
「まだ言うか。どちらもお前の娘だろうに……今更決まった事を蒸し返すな。もう決定から何年経つと思っている」
「王子! どうか、どうか……!」
「くどい! 我が妃は彼女以外にあり得ないと言っている!」
王子はそう言ってくれていた。他ならぬお姉さまが良いってずっと言ってくれていた。けれども、自分の要求を聞き入れられず暴走したお父さまは、あろうことか……お姉さまを亡き者にして、代わりに私を王子に嫁がせようとした。
結局それは未遂で終わり、王子がお姉さまを王宮に呼んで守ってくれたから事なきを得たが……私は、とてもとても落ち込んだ。しかし、お父さまは自分のやった事で私が落ち込んだなんて思わなかったらしく、次こそは成功させてお前を嫁がせるからな、世界から愛されているお前の方が王家には相応しいのだからと言って意気込んでいた。
(私は……もうこの国にいない方が良いんだろうか)
王子がお姉さまを王宮に呼んだ翌日、二人は正式な式を挙げて夫婦となった。これでひとまずは安心だと思ったのだが、お父さまには未練があったようで……だからもう、いっそ、とそう思ってしまったのだ。
とは言え、外国に当てがある訳でもない。公爵令嬢として生きてきて自分にも領地がある立場上、身勝手に逃げる事は許されない。不慣れな事をしたところで結局連れ戻されるだろうし、自分の我儘で領民を困らせる訳にはいかないのだから。貴族のご令嬢だからこそ、自由なんて許されない。
「大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」
自分に折り合い付けて、諦めて。お姉さまの幸せを祈りながら、毎日を生きていた最中。
貴方に、出逢った。