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ブレーメン
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もちっぱち
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年08月22日
公開日
8,456字
連載中
都会の夜、進化したデジタル技術が交錯する中、俳優志望の青年アシェルは【赤ずきん】の狼役のオーディションを見つけます。 彼は過去の失敗と孤独を抱えながら、新たな舞台への挑戦を決意します。デジタルな情報の中で、人々の冷たい現実や表裏一体の世界に直面しながら、アシェルは自らの存在意義を見つけるために奮闘します。夢と現実、デジタルとアナログの対比が織りなす、都会の闇に翳りを落とすファンタジードラマ。 表紙絵:MOブ様 他サイトにて好評公開中 〇エブリスタ 〇カクヨム 〇小説家になろう 〇ノベルアップ+ 〇アルフポリス

第1話 混沌とした世界

雑踏な夜の街に、パトカーのサイレンが鳴り響いていた。



ビルが立ち並ぶ都会はいつもサイレンの響き方が違う。

四方八方に音が反射する。


デジタル化が進んだ看板も透明なディスプレイに映し出され、プロジェクションマッピングのように派手に表示される会社もある。


 未だにレトロに木の板に書く会社も健在していた。乗用車やトラック、配送車が行き交う交差点。



 かなりのデジタル化が進む現在も信号機は昔と変わらず、赤・青・黄で表示されている。


 ビルとビルの隙間から覗き見る月は煌々と輝く満月だった。


 路地裏を進むとアスファルトに落ちた空き缶がコロコロと風に吹かれて、転がっていく。



 ある男の足が見えるとチューチューと数匹のネズミが逃げていく。


 野良猫が餌を求めて、ゴミ箱付近をうろうろしていた。

 世の中は、偽善の塊だ。優しくしないとダメですよと幼少期の先生から教わっているのにも関わらず、夜道に道端に居座って困っている人には目も入れず、 ただただ、通り過ぎていく。


 ボロボロになったシャツを着て、ボロボロになった靴を履いても、誰も見向きもしない。



 キラキラと小綺麗に飾られたお水商売をしている猫の女性に体がぶつかっても、嫌な顔をされて去っていく。

満月の夜だからって取って食うわけじゃない。


 細長い耳に鋭い牙があったって、襲いはしないんだ。お腹の空き具合もとうに過ぎて食べる気を失っている。


 草食動物へと変化したかもしれない。

 いや、完全にそれはない。


 よだれが止まらないのはわかってる。


 建前上、猫の女性に失礼だと思って考えた。

 ちょこまかと動く1匹のネズミをガシッと掴んで食べようとした。



 ふと、足元を見下ろすと、一枚の茶色い紙が風で流されていた。

 デジタルの世界になりつつと言うのに、紙で求人広告?

 いや、指名手配か? 


 近くには透明ディスプレイに描かれた指名手配のポスターと周辺のマップ

 最近のニュース、ファッション誌広告のポスターなど変わる変わる表示される。

 近くにこんな便利なデジタルのチラシがあるのにと、男は、茶色い紙を拾った。


「これって……」


 【赤ずきん】の舞台俳優を募集したチラシだった。

 配役は赤ずきんの女の子、おばあさんに変装する狼、おばあさん、猟師の募集のうち、狼だけがまだ決まっていないようだった。


 田んぼと山々に広がる田舎から都会に出向いてきた理由は、俳優になること。


 何度もオーディションを重ねても何か違うんだよねと面接官のプロデューサーにため息をつかれる。



 上京して下積み生活が3年は過ぎていた。コンビニアルバイトをし続けながら幾度となく、さまざまなオーディションを受けてきたが、世に出ることはなかった。


 流行りの動画配信や、つぶやき、ブログにも手をつけてみるが、誰も無名なやつには見向きもしない。


 そもそも、俳優は一人で何を動画配信しろというのかわからない。


 むしろ、歌手を目指した方がいいのかと路線変更して歌を軽くあげてみたりしたがめざすものじゃないからと多少の再生数が伸びていても見向きもしなかった。



 これもきっとダメな作品だと落ち込んで上げるだけ上げて放置していた。

 歌だけは再生回数が伸びていたが、チャンネル登録をする人数は増えなかった。


 数字を見て一喜一憂するのが辛かった。


 ただ、ただ、目で見たチラシに応募して俳優を目指すことだった。


****


 電気をつけずに透明なディスプレイ画面の明かりだけ頼りに今回募集した赤ずきんの狼俳優のエントリーシートを一人一人確認した。


 右スワイプして、見たと思えば、左に2回スワイプして何度も写真と履歴書を確認する。吸っていたタバコの煙が上に舞い上がる。


 灰皿には数十本の吸い殻が溜まっていた。


 彼は舞台【赤ずきん】のプロデューサー。犬種はクーンハウンド。黄色のカーディガンを首に巻き付けて、腕を組む。


 履歴書はデジタルの画面により、把握する。募集先のメールで送られてくる。

 よく見えるように大きな写真を添付するよう指示していた。

 何度も見返す数は全部で5枚。

 白い狼のそこそこのイケメン経験と実績がある人当たりも良い 

【ロック】


 薄茶色のそばかすが目立ち、耳が大きめのちょっと恥ずかしがり屋

【スマッシュ】


薄青色でメガネをつけて知的、おしゃれにパーマをあてる気の強い。

【アレックス】


 黒でもさもさの髪をしている人間でいうところのオタク気質自信がなさげ。

【ウル】


 この物語の主人公鼻は高めで、耳小さめ声が通る声だが相手と話すとおどおどしてしまうのがいつも落とされる原因。コミニュケーションも好きではない。

【アシェル】


 この5人が何度も写真を見てはイメージが違う、これまでの出演映像など動画配信まで確認していた。


「時々、見るんだけど、こいつはやる気感じられないんだよなぁ。今回も見送るな、きっと。1番の候補はやっぱり実績のあるロックが候補になるか。オーディションが楽しみだなぁ」


 タバコを灰皿に押し付けて、ディスプレイの電源を手首につけていた時計のボタンを押して消した。


 その時計はBluetoothで接続されていて何かの家電の電源を切る時に使われる。デジタルな世界には必須な道具となっているようだ。


 クーンハウンドのプロデューサーのジェマンドは頭を掻きむしって、シャワー室へ向かった。

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