今の私は、千梅ちゃんと一緒に道の駅に来ていた。
千梅ちゃんの運転でドライブをしていて、お腹が空いたということで道の駅に寄ったのだ。
「地元にこんな良い所ができてたなんてねえ」
「近くだと、あんまり行かないよね、道の駅なんて」
地元の野菜や海鮮など、色んな食品を売っている隣には、フードコートみたいな、食堂というか、ご飯が食べられる場所がある。
そこで注文して、こうしてテーブルに座って待っているのだ。
「結構人が来ているんだね」
「ほんとに。やっぱり野菜とか安いのかな?」
「どうなんだろうね」
「おい一人暮らし……」
スっと細められた千梅ちゃんの視線から逃れるように、私は呼び出し用のベル? を見る。まだかまだかと、これから私の胃の中に入るどんぶりを想像して、涎を飲み込む。
山海天ちらし丼という、山と海の幸の天ぷらが詰め込まれたどんぶりを一目見た時、それを頼む選択肢以外残されていなかった。他にも生シラス丼やマグロ丼、カレーやラーメンとか、どれも美味しそうで目移りしそうなラインナップだったけど、山海天ちらし丼は似たような物を食べたことの無い分想像がつかない。
私が千梅ちゃんからの視線をやり過ごしていると、ようやく救助がやってきた。
ぴー、ぴー、と呼び出しの音が鳴って、私は逃げるように立ち上がる。
「じゃあ受け取ってくるね!」
そう千梅ちゃんに言って席を立ったけど――。
「なんでついてくるの⁉」
「いや、一緒に頼んだじゃん」
「そうだった……」
思わず頭を抱えてしまう。千梅ちゃんからは逃げられないんだ……!
「早く行くよ」
「ああぅ、待ってよぅ」
席に戻ってきた私と千梅ちゃん。私は山海天ちらし丼で、千梅ちゃんは山海天ちらしうどんだ。
ご飯とうどんの違いと、千梅ちゃんのには温玉が乗っている。
「千梅ちゃん、私もう我慢できないよ」
「食べればいいじゃん」
「いただきます!」
「いただきます」
ご飯の上にこれでもかと乗せられた天ぷら、赤、緑、紫、白、色とりどりの天ぷら!
ご飯に辿り着くには、天ぷらを少し減らさなくてはならない。
最初に狙うのは……このゴロっとしたやつ!
赤色が見えるごろっとした天ぷらを口に入れ、嚙んだ瞬間、目を見開いてしまった。
ぷりっぷりの肉厚のタコの天ぷらだ!
「……千梅ちゃん! 凄いよ! タコの天ぷらが凄い‼」
「うん、すっごい肉厚……‼」
千梅ちゃんもタコを食べて驚いている。こんなに分厚いタコの天ぷらを初めて食べた。
その流れで同じ赤色の、薄い天ぷらを食べる。
「わっ、これって紅しょうが? 美味しい……こんなに美味しいんだ」
サクッと衣に、シャキッとした紅生姜。よくお惣菜売り場で見るけど食べたことがないけど、もっと早く知っておけばよかったとちょっと後悔しちゃうぐらいに美味しい。
「ナスも美味しいよ、みずみずしくて」
そう言ってくれる千梅ちゃんの言葉に従って、濃い紫の天ぷらを食べる。
「ああ~、口の中でとろける~」
「ほんっと、美味しそうに食べるね」
千梅ちゃんはうどんをすすって笑う。
そこで思い出した。これは丼なんだと。
「美味しいもん」
天つゆのかかったご飯を口に入れていく。
ご飯と一緒に、天ぷらも食べるのも忘れない。
しめじは嚙めば嚙む程旨味が溢れるし、山菜はしんなりとしていて、香りがあっていいアクセント、そしてイカも歯ごたえ十分。たまにあるサツマイモは甘くて口の中を変えてくれる。
美味しすぎてお箸が止まらない……‼
あっという間に食べ終えて、温かいお茶で残った油を流し込む。
「ふぅ……ごちそうさまでした」
手を合わせて一息、千梅ちゃんももう少しで食べ終わりそうだ。
美味しそうに食べる千梅ちゃんを見ているのも幸せだ。でも、たまに千梅ちゃんは少しだけ悔しそうな表情を浮かべる。
どうしたのかな? って思ったけど、聞くのは食べ終わってからでいいかな。
そして千梅ちゃんが「ごちそうさま」と手を合わせたから、聞こうとすると――。
「先に紗衣花が食べ終わったから、美味しさが何割か減ったわ」
「まさかの理由⁉ たまに悔しそうな顔するなって思ってたけど!」
「嘘⁉ 顔出てた?」
「うん! 出てたよ」
私がそう返すと千梅ちゃんは恥ずかしそうに顔を伏せる。
でもそれだけじゃダメだったみたいで、お盆を持って返却口に向かうのだった。