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第7話……鉄道完成!!

 晴れ渡る空の下、私が操縦する魔動機であるタイタンは初めての任務に出撃した。

 蒸気機関の音が響き渡り、もうもうと蒸気が上がる。魔導兵器の巨体がゆっくりと動き始めた。今回の目的地は戦地ではなく、鉄道用の橋の建設現場だった。


 ちなみに、魔導兵器におけるオーバーテクノロジーは探知や操縦系だけであり、原動力たる蒸気機関はこの世界のものだった。

 そして、この蒸気機関を動かす燃料は魔炎石と呼ばれた。魔動機の運用は、この魔炎石の燃費が恐ろしく悪いため、使用するのは難関である橋の工事だけに絞っていたのだ。


 現場に到着すると、周囲には工事のために集まった多くの作業員たちが忙しなく動き回っていた。


「なんじゃあれは?」


 彼らの意識がこちらに向けられているのを感じ、緊張が走る。

 私は魔動機タイタンの強大な力をうまく制御し、橋の部材を正確に配置しなければならなかった。


 私は各種計器を見ながらレバーを操作し、慎重に作業を進めた。

 巨大なアームが動き、重い鉄骨が持ち上がると、作業員たちの歓声が響き渡った。


「おおー!」

「でかいの、がんばれ!」


 魔動機タイタンの人知を超えたパワーは絶大だった。だがその分、事故が起これば大惨事となる可能性があった。

 しかし、なんとか事故は起こらず、難関と思われた橋の工事は急速に進んだのだった。そして、太陽が沈みかけるころには、早くも橋の基礎部分が概ね完成した。


「……ふう」


 初めての出撃を無事に終えた私は、タイタンの操縦席で深く息を吸い込んだ。刹那、緊張の糸が解け、夕食も食べずにぐったりと眠りこけたのだった。


 タイタンと私は都合、七日間ほど出動。天気にも恵まれ、橋はあっという間に完成したのであった。



 さらに二か月後。

 老男爵の念願だった鉄道敷設は、一部の例外を除き、すべての工事を完了したのであった。




◇◇◇◇◇


 橋の工事以後は、私は経理主任として工事全般に携わったため、喜びもひとしおであった。


 残暑が残る夜、男爵の邸宅の広大な庭園は、鉄道完成を祝うパーティーの光と歓声に包まれていた。

 色とりどりのランタンが木々に飾られ、庭全体を柔らかな光で照らしていた。鉄道完成を記念するために、地元の有力者たちも一堂に会していたのだった。


 男性たちは黒いタキシードに身を包み、女性たちは豪華なドレスを纏っていた。場内には笑い声と歓談の音が響き渡り、皆がこの成功を称え合っていた。


 今日だけはお嬢様も洋装だ。

 白いドレス姿で、忙しく有力者にあいさつ回りをしている。

 大きなテーブルには豪華な料理が並び、シャンパンのグラスが次々と交わされる。


「男爵、おめでとうございます!」

「ありがとう、皆様のおかげですよ」


「乾杯!!」


 中央のステージでは、鉄道完成の功労者たちが紹介され、拍手が鳴り止まない。司会者に紹介された有力者により、次々とスピーチが行われたのだ。


 異口同音に「この鉄道が地域にもたらす経済効果を期待しています」と語る声に、参加者たちは共感の意を示していた。

 その後、音楽が流れ始め、夜空の下で男女がペアになって踊り始める。庭園の隅には子供たちが楽しげに遊び、笑顔が溢れていたのであった。


「男爵、このダイモス村は大きく発展しますぞ!」

「左様、左様」


 男爵は踊る男女を眺めながら、村長と酒を酌み交わしていた。彼は微笑みながら、庭園を見渡し、その成功に胸を張った。


 まるで夢のようなこの夜、鉄道完成を祝うパーティーは、皆の心に深く刻まれたのであった。




◇◇◇◇◇


 秋の収穫が終わるころ。

 突然、西のジラール共和国が一方的に休戦協定を破りガーランド帝国領に侵攻。

 再び戦火が燃え上がった。帝国と共和国はすぐに激しい交戦状態に移行。戦地の情景を映す新聞の紙面は、どれも緊張感で満ちていた。


 私は予備役から現役に戻り、再び前線で戦うことができるのではないかという希望を胸に抱いた。なぜなら予備役という地位は給料が貰えないからだ。

 しかし、その願いはかなわなかった。軍の決定は私を前線に戻すことはせず、心の中に残念な気持ちが広がったのだった。



 ある日の夕暮れ、邸宅の庭園に老男爵から呼び出された。


「君が再び軍に戻ることができないのは残念だ。しかし、今の君に我が国のためにできることがまだある」


 私はその言葉に耳を傾け、彼の次の言葉を待った。


「例えば、傭兵団に入るという手もある。君の魔導士としての力と経験が、きっと役立つはずだ」


 と、彼は提案してきた。何を隠そうこの老男爵こそが、昔に傭兵で名を挙げた人物だったのだ。

 だが、傭兵とは一般的に正規軍が担当したくない危険な地域を担当する。そのぶんお金はいいのだが、一瞬戸惑いを感じずにはいられなかった。


 だが、戦争の影が再び世界を覆う中で、若い兵士たちが多数出征していく。私だけが平和な地で燻っていては、非常にもどかしい思いだったのだ。



「分かりました、男爵。傭兵団に入ることを考えます」


 と、私は彼に力強く答えた。

 善は急げと、その日のうちに傭兵団への加入申請の書類を作成。急ぎの便で送付したのであった。

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