裃左右
ホラー怪談
2025年10月22日
公開日
6,231字
完結済
大学で最近、やたらと纏わりついてくる男がいた。
ひどく、煙たい男だった。
褒めてくるのだ。頭の良さ、言葉選び、服のセンス。あらゆるものを、過剰なまでに。
そして、必ず最後にこう続けて来る。
「あ~、あなたに嫌われたくないなあ、でも言っていいですか?」
「それって、もっとこうしたほうがいいですよ」
「それは良いことなのだから、喜んだほうがいいですよ」
善意の顔をして、彼は俺の思考を、感性を、行動を、一つ一つ決めつけ、がんじがらめにしていく。
「あなたは、どうせボクの意見なんて『勝手にお前がいったことだ』というのかもしれませんが」
「人の好意は受け取らないとダメですよ」
「おや、あなた。……実は、具合が悪いんじゃないですか? 疲れてます?」
ぬるり、ぬるり。
友人たちに相談しても、「考えすぎだ」と笑われるだけ。
どうにも、息苦しい。不思議と、彼に関わり始めてから、俺が一生懸命やっていたことは、何一つうまくいかなくなっていく。