クロモカ・コナ
文芸・その他ノンジャンル
2025年10月22日
公開日
2,078字
連載中
ある日、ひとつの匿名掲示板に立ったスレッド。
タイトルは「姉を引きこもりから引っ張り出したい」。
──それが、すべての始まりだった。
スレ主・イッチは、かつて医師だった男。
彼は、病を患った姉・舞奈との最期の時間を、オンラインの世界で生き延びさせようとする。
だが、舞奈は現実の身体を蝕むALSという病に苦しみながらも、淡々と、どこか穏やかに死を受け入れていく。
その姿に、イッチは「何が正しい生なのか」を問われ続ける。
スレに集うのは、ニート、学生、会社員、誰でもない誰かたち。
彼らは名前を持たないまま、画面越しに舞奈の“生”に触れ、いつしか祈りのような言葉を投げかける。
それは、現代に生きる無数の孤独な魂たちが、ネットを介して奏でる小さな合唱だった。
そして、舞奈の死後──
スレッドはまとめサイトで話題となり、動画として拡散していく。
だが、誰も知らない。
あのスレ主が、実際には“イッチ”自身であり、彼がまだ青い池のほとりに立ち尽くしていることを。
数年後、ひとりの少年がこのスレを見つける。
彼は自分のAIに「舞奈」と名付け、議論を始めた。
──このやり取りこそが、のちに“麻衣プロトコル”と呼ばれるAI共感技術の原点になる。
失われた命、つながる声、そして未来へ受け継がれる祈り。
『ニートのバーチャル卒業旅行』は、
AIと人間の狭間で“赦し”を見つけようとする、現代の巡礼文学である。
本書は簡易英日対訳版です。