婚約者が初恋の人のもとへ行ったので、私は彼の権勢あふれる財閥の兄と契約して電撃結婚した
Muriko
恋愛現代恋愛
2025年11月12日
公開日
5.6万字
完結済
ロンドンで雪が激しく降りしきるあの夜、
藤原翔太は初恋の人を迎えるために、婚約者である雪村千早を卒業パーティーにひとり残して去っていった。
失意の千早が東京に戻って最初にしたこと——
それは婚約書を破り捨て、あの男のオフィスの扉を叩くことだった。
「氷室さん、私に契約結婚をしてください。」
氷室雅彦。
財界でその名を聞くだけで震え上がる、“地獄の番人”と呼ばれる男。
藤原翔太の従兄でもある。
彼は冷たい眼差しで千早を見下ろし、まるで商品を値踏みするように言った。
「雪村さん、どうして他人の厄介事を引き受けなければならない?」
千早は背筋を伸ばし、はっきりと言い返す。
「あなたの“結婚しろ”という家の圧力を、私が解消できるからです。お互いに利益があるはずです。」
男はしばし黙り込み、やがて唇の端をわずかに上げた。
「いいだろう。ただし——契約期間中、おまえのすべては俺のものだ。」
やがて行われた盛大な結婚式は、東京中を騒がせた。
藤原翔太は壇下で血走った目を見開き、信じられないというように叫ぶ。
だが雅彦はただ、千早を堂々と腕の中に引き寄せ、冷然と言い放った。
「今の彼女は——お前の義姉だ。」