兄に5年間「恩知らず」と罵られた私――死ぬ前に残した日記を彼が開いたとき、読んだ者は皆、涙した
Patapata
現実世界現代ドラマ
2026年02月11日
公開日
1.8万字
連載中
彼女が胃がん末期と告げられたのは、17歳の春だった。
家族もいないまま診察室に一人で座り、「緊急連絡先」の欄の空白を、ただじっと見つめていた。
やがてその用紙を静かに折りたたみ、ポケットにしまい、病院を出た。
兄には、何も告げなかった。
彼女は、兄に憎まれることを選んだ。
兄が自分を憎めば、失ったときに壊れずに済むと、そう思ったから。
けれど彼女は知らなかった――
彼女が去ったあとの五年間、兄がたった一人で会社を立て直し、瓦礫の中から這い上がり、深夜には一人きりで手首に刃を当てていたことを。
彼女は守ったつもりだった。
だがその「守り」は、彼女が何より望まなかった形で、彼をいちばん深い闇へと突き落としていた。
五年後。
角の欠けた黒い日記帳が、彼の前に置かれた。
彼はそれを二本の指でつまみ上げ、そのままゴミ箱に投げ捨てた。
「今さら何の芝居だ。」
――彼が彼女を“許す”までに、五年かかった。
そしてその日記を開いたとき、ようやく気づく。
許すも何もなかったのだ。
彼は最初から、彼女を責めてなどいなかったのだから。