Sino
文芸・その他ノンフィクション
2026年02月13日
公開日
2,031字
連載中
結婚し、穏やかな日々を送っている「私」は、いまを幸せだと思っている。
特別な出来事はなく、毎日は淡々と過ぎていく。
けれど、「愛している」という言葉を、私はうまく口にすることができない。
愛とは何なのか、はっきりとはわからないまま生きている。
私の家族は、かつて一つの出来事をきっかけに壊れ始めた。
父の母が倒れ、母と姉妹だけで田舎へ引っ越したことから、
両親の間に少しずつ溝が生まれていった。
やがて激しい口論が繰り返され、
母が入水自殺を図ったあの日を境に、家族は元には戻らなくなった。
母は心の弱い人だった。
優しくされた記憶はほとんどなく、
「悪い子は施設に預ける」「そんな子はいらない」という言葉が、
私の日常には当たり前のようにあった。
私は生きていることを許されるために、
良い子でい続けなければならなかった。
この物語は、壊れた家族の記録であると同時に、
愛を知らずに育った一人の人間が、
それでも静かな幸せの中に立っている「いま」を見つめ直す物語だ。
何も起きない日々を、幸せだと思えるようになるまでの、
長い回り道の記憶である。