夫は息子を使って私を公開処刑し、十年待った初恋に求愛した。だが彼女はこう言った――「でも私、君のママのほうが好きなの」
みょん
恋愛結婚生活
2026年04月09日
公開日
6.2万字
連載中
結婚して七年。
夫は一度たりとも、私を愛したことがなかった。
家事をするのは「当たり前」、料理をすれば「まずい」と言われ、体調が悪いと「仮病だ」と決めつけられる。
七年間、この家での私は空気のような存在――
いや、空気以下だった。
空気ならまだ、自分の存在を証明できる。
私はそれすら許されなかった。
息子の航太が生まれてから、状況はさらに悪くなった。
夫は毎日のように、航太に言い聞かせる。
「ママは役立たずだ」
「ママには近づくな」
「ママみたいになるな」
その言葉は、幼い耳に、日々刻み込まれていった。
そして、今日――。
夫は航太を連れて空港へ向かった。
心の中で十年間も生き続けていた「初恋の人」を迎えに行くために。
そのことを、私は知っていた。
知っていても、止めることはできなかった。
ただ、見届けるしかなかった。
私は人混みに紛れ、柱の影に身を潜めて、その光景を見ていた。
花束を抱えた夫。
きれいに着飾られた息子。
そして――夫が十年も待ち続けた女。
航太が駆け寄る。
まるで練習してきたかのように、完璧な笑顔で、こう言った。
「おばさん、僕のママになってよ! 今のママより百倍いい!」
その瞬間、心の中で何かが音を立てて砕け散った。
夫でも、姑でも、世間でもない。
――私の息子が、私を捨てたのだ。
すべてが終わったと思った。
けれど――。
その女性は、夫を見なかった。
息子も見なかった。
花束も、歓声も、カメラも、
ひとつ見なかった。
ただ、人混みの奥、柱の影で立ち尽くす私を見つめていた。
秋月涼葉。
冷たい眼差しを持ち、誰にも媚びず、誰が用意した筋書きも受け入れない女。
彼女が私の前に立ったその瞬間、初めて思った。
この世界に、私を「人」として見てくれる人がいるのだと。
なぜ彼女は私を選んだのか。
なぜ、たった一言で夫の用意した舞台を踏み砕いたのか。
なぜ、私の手を握ったのか。
――その答えを探していく中で、私は気づいた。
七年間、私はずっと、他人が書いた台本の中で生きていたのだ。
今度は――私が書く番だ。