離婚後、金継ぎ作家として有名になった私を、元夫が泣いて追いかけてきます
蜜茶ωうさぎ
恋愛現代恋愛
2026年06月03日
公開日
4.3万字
連載中
結婚三周年の記念日。
藤原葵は深夜まで夫の帰りを待ち続けた。
だが、ようやく届いたのは神崎蓮からの短いメッセージだけだった。
「遥の気分が落ち込んでる。今日はそばにいてやる」
その直後、芸能ニュースに流れてきたのは、彼と“義妹”の神崎遥が車内で寄り添う親密なスクープ写真。
撮影された時間は、まさに彼が電話を切った直後だった。
三年間の結婚生活。
葵は彼にとって、家族を納得させるための完璧な妻役。
そして神崎遥にとっては、好きなように見下し、傷つけても反撃しない都合のいい義姉だった。
茶会では、遥にわざと大切な着物を汚されても、蓮は軽く言った。
「また新しいのを仕立てればいいだろ」
三十八度五分の熱を出した夜も、彼が持ち帰ったのはコンビニ弁当だけ。
――だから葵は決めた。
神崎家の花見の席で、誰よりも優雅な笑みを浮かべながら告げる。
「離婚届には、もう署名済みです」
蓮は、それをただの拗ねた態度だと思った。
宝石を贈り、高級レストランへ連れて行けば、いつものように戻ってくると。
しかし彼は知らなかった。
葵がすでに“フェニックス計画”を始動させ、心が死んでいったすべての瞬間を記録していたことを。
やがて彼女は、金継ぎの技術で注目を集める。
「星野七瀬」――その名は芸術界を駆け巡り、名匠たちからも絶賛された。
そして火災が起きた日。
蓮は正気を失ったように炎の中へ飛び込んだ。
ただ一つ。
彼女の亡き母が残した道具箱を救い出すために。
焼け焦げた手のまま、彼は葵の前で深く頭を下げた。
「……ごめん。
それから――ありがとう」
その時、葵は視線を落とした。
そこには、ようやく重なり合った二人の手。
彼女は小さく微笑み、静かに言葉を訂正する。
「違うわ」
「私の隣に“座らせてあげた”んじゃない」
そして少しだけ柔らかく続けた。
「――一緒に座るのよ」