「秘書と寝ていないから浮気じゃない」と言う夫を置いて、私は私を大切にしてくれる男を選んだ
電脳海月
恋愛結婚生活
2026年07月16日
公開日
2万字
連載中
結婚七年目の誕生日。
白石澪が待っていたのは、夫・神谷慎司からの祝いの言葉でも、二人だけの時間でもなかった。
届いたのは、一本の電話だった。
「誕生日おめでとう。それと……佐伯に謝ってくれ」
佐伯葵は、神谷慎司の女性秘書だった。
彼女はただ、仕事のできる部下だった。
慎司の体調管理を気遣い、胃に優しい飲み物を用意する。
入社祝いに贈ったスーツを大切に着て、教えられたことを一つずつ吸収する。
彼女は努力家で、素直で、仕事熱心だった。
慎司はそんな彼女を評価していた。
「葵は金目当てじゃない」
「ただ、一生懸命なだけだ」
その言葉を聞くたびに、澪の心には小さな傷が積み重なっていった。
彼は浮気なんてしていない。
葵を恋愛対象として見ているわけでもない。
ただ――。
妻がどう感じるのかを、考えようとしなかった。
ついに澪が、距離を越え始めた秘書を辞めさせた時。
慎司は葵を責めることもなく、澪に理解を求めた。
「君なら分かってくれると思っていた」
そして彼は、澪が謝るまで少し距離を置くことを選んだ。
その瞬間。
澪はようやく気づいた。
自分は愛されていないわけではない。
けれど、愛されているからといって、大切にされているとは限らないのだと。
澪は謝らなかった。
七年目の誕生日。
彼女は静かに離婚を告げ、家を出た。
それから後。
妻を失ったことで初めて、慎司は理解する。
自分が守るべきだったのは、「何もしていない」という証明ではなく、傷ついた妻の気持ちだったのだと。
そして澪はもう、誰かと比べられる人生を選ばない。
自分を一番に考え、惜しみなく愛してくれる男の隣へ歩き出す。