夫を庇って刃を受け、子宮を失った私――それでも彼は裏切った。死を偽った妻を前に、彼は後悔に狂った
巻口
恋愛現代恋愛
2026年07月17日
公開日
3.5万字
連載中
白川葵が人生で一番愚かな選択をしたのは、二十三歳の時だった。
西園寺誠の前に飛び出し、彼の代わりに刃を受けたあの日。
右下腹部を斜めに切り裂いた傷は、彼女の子宮を傷つけた。
一ヶ月間、病院のベッドで過ごした彼女が手に入れたものは、一本の銀のネックレスと、たった一言。
「一生、俺が君を守る」
その言葉を、彼女は信じた。
七年間。
彼のために家を守り、家族との付き合いをこなし、義母の冷たい視線にも耐えた。
彼が連れてきた女性の前でさえ、妻としての笑顔を崩さなかった。
――自分が妊娠したと知るまでは。
彼は病院にも付き添わなかった。
彼女は一人で手術台に横になり、三つ数えたところで意識を失った。
手術の翌日、退院した葵が家の扉を開けた瞬間。
そこにあったのは、夫とあの女がソファで抱き合う姿だった。
思わず吐き気が込み上げる。
すると誠は顔を上げ、冷たく言った。
「もうすぐ三十だろ。俺から離れて、お前を欲しがる男なんていると思うか?」
その後、葵は身に覚えのない罪を着せられ、倉庫に閉じ込められた。
あの女は外から灯油をまき、火をつけた。
炎がすべてを飲み込む中、葵は思った。
――私の人生は、ここで終わるんだ。
けれど、彼女は死ななかった。
誰かが炎の中から彼女を救い出した。
そして彼女に、新しい名前と、新しい人生を与えた。
五年後。
彼女は国家表彰式の壇上に立っていた。
その姿は新聞の一面を飾った。
数百キロ離れた拘置所で、かつて自分のために彼女を傷つけた男は、新聞に映る彼女の笑顔を指先でそっとなぞっていた。
そして静かに目を閉じる。
二度と、開くことはなかった。