記憶を失った夫は「離婚しよう」と言った。なのに18歳の自分が現れた途端、私を巡って嫉妬し始めました
Suisu Rōru
恋愛現代恋愛
2026年07月31日
公開日
2.4万字
連載中
結婚して十年。
水無月琴美は、自分と京也は誰もが羨む理想の夫婦だと思っていた。
――あの交通事故が起きるまでは。
目を覚ました彼は、琴美を見るなり、まるで知らない人を見るような目をした。
「水無月さん……僕たち、離婚しましょう」
冷たい声。
まるで仕事の話をしているかのような口調だった。
琴美が夫の記憶喪失という現実を受け止めきれないうちに――
今度は、彼とまったく同じ顔をした少年が家の前に現れた。
若い頃の京也と同じ顔。
記憶を失った夫と、時を越えてやって来た少年。
琴美は、二人の間で翻弄されることになった。
食卓では、夫は礼儀正しく琴美を「あなた」と呼ぶ。
けれど少年は、深夜になると彼女の部屋の扉を叩く。
夫は離婚届を差し出す。
その一方で少年は琴美の前に立ち、真っ直ぐ言った。
「彼女は、僕の大切な人です」
琴美は思っていた。
これが、すべての地獄なのだと。
――そう思っていた。
すべての嘘が明らかになる、その瞬間までは。
琴美は思った。
彼はきっと、自分を憎むだろうと。
けれど彼は、彼女を強く抱きしめた。
震える声で囁く。
「君は……ずっと一人で全部背負ってきたんだね」
「辛かったよね」
「本当に、よく頑張った」
彼は言った。
「離婚なんてしない」
「絶対に、君を手放さない」
でも――
琴美には、もう分からなかった。
自分が信じるべきなのは、一体どちらの京也なのか。