雪の夜に拾った記憶喪失の冷酷な財閥御曹司と婚約した私――三千万円で婚約を手放し姿を消した二年後、彼は私を探し出した
傀儡
恋愛現代恋愛
2026年08月03日
公開日
3.5万字
連載中
北海道が猛吹雪に包まれた夜。
十七歳の藤原雪乃は、廃バス停で記憶を失った一人の男を拾った。
彼は自分の名前すら思い出せないのに、なぜか彼女だけを「ユキユキ」と呼び続けた。
雪乃は彼に「隼」という名前を与え、雪が漏れる古い家で共に暮らした。
一緒に農場で働き、周囲の噂を避けるため、彼を自分の婚約者だと名乗った。
しかしある日。
三台の黒い車が古い家の前に止まった。
そこで雪乃は知る。
彼の本当の姓は神代。
東京財閥の後継者だったのだ。
そして記憶を取り戻した彼は――。
一言の別れも残さず、雪乃の前から消えた。
さらに三十七日後。
病気を抱えていた母親が亡くなった。
雪乃は大学の合格通知書と死亡証明書を手に、病院の支払い窓口へ立つ。
泣く時間すらなかった。
彼女は姓を変え、三千万円の補償金だけを持って東京へ向かった。
もう二度と、誰にも頼らないと決めて。
そして二年後。
図書館の寄贈式典で、彼は大勢の人の前で袖口をほどいた。
そこにあったのは、手首に残された小さな「雪」の文字。
「婚約は……まだ有効か?」
彼は静かに続ける。
「俺にとっては、今も有効だ」