苦しかった彼が泣きながら抱きしめた――「半分の飴が、俺の人生の始まり」
キューブ
恋愛現代恋愛
2026年09月02日
公開日
2.2万字
連載中
早川小春には、誰にも知られてはいけない特殊な体質があった。
善人からは石鹸のような清らかな香りがする。
悪人からは、腐ったような嫌な臭いがする。
けれど、常磐家の現当主・常磐厄だけは違った。
彼の全身から漂っていたのは――苦しさそのものだった。
あの夜のパーティー。
小春は彼の手に金平糖を半分だけ握らせた。
それから三日後。
早川商会へ一通の婚約書が届いた。
父が署名する手は震え、ペン先は紙を破るほど強く押しつけられていた。
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常磐家の本邸へ入って初めて、小春は自分の立場を知った。
末席。
入り口に最も近い場所。
主座から最も遠く離れた席。
この家で、彼女はその程度の存在だった。
茶会の席で邦子は微笑みながら尋ねる。
「あなたのお母様、お元気かしら?」
廊下では黒瀧佑礼が彼女を見下ろしながら言った。
「君の父親が署名したもの、本当に読んだのか?」
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北棟にある使われなくなった和室。
その床下の隠し場所から、古い病歴を見つけた時。
小春の指先は冷たくなった。
そこに書かれていた一文。
「七歳男児」
「母親からもらった菓子を食べたと本人が証言。胃洗浄処置」
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あの男は。
二十七年間、自分自身を闇の中に閉じ込めて生きてきた。
そしてこの屋敷の人間たちは今また、同じ手で彼を押し戻そうとしている。
小春にあるのは、たった一粒の金平糖だけだった。
彼女は、それを半分に割った。
第1話 未来の旦那との偶然の出会い——彼は女に絡まれていた