マウス
恋愛現代恋愛
2026年09月14日
公開日
3.2万字
連載中
聴力を取り戻したその日、篠宮寧々は婚約者の裏切りを知った。
最低な男とその女に平手打ちを浴びせた彼女は、その足で、逃げ出した姉の身代わりとして、冷酷非情と噂される九条蓮司に嫁ぐことを決める。
誰もが言った。
九条蓮司は重い病を抱え、性格も残忍で気性が荒い。そんな男に嫁げば、生きながら未亡人になるようなものだ、と。
ところが新婚初夜――
男は寧々の細い腰をつかみ、彼女を窓ガラスに押しつけた。
「俺が男として使い物にならないと思っているそうだな?」
それから三日間、足が震え、身体が蕩けてしまうほど抱き尽くされて、寧々はようやく悟った。
――噂ほど当てにならないものはないのだと。
その後、あるパーティーで、元婚約者が目を赤くして復縁を迫ってきた。
九条蓮司は数錠の薬をゆっくりと口に放り込み、歯の間でガリガリと噛み砕く。
「誰か、刃物を持ってこい。今から発作を起こす。人を殺しても罪には問われないだろう?」
誰もが彼の狂気を恐れる。
けれど、寧々だけは知っていた。
その凄まじいまでの激情の奥にあるのは、ただ彼女一人のために燃え上がる、灼けつくような愛なのだと――