記憶喪失の私を「知らない人」のふりした彼氏――なら私はこの機会に、ずっと私を想っていた隣人のイケメンと恋を始めます
バルーン
恋愛現代恋愛
2026年09月10日
公開日
2.1万字
連載中
記憶を失った私は、恋人と過ごした三年間の記憶を忘れてしまった。
けれど、忘れなかったものが一つだけある。
――私は、銀髪の男の人が好きだということ。
退院の日。
元恋人は黒髪に戻し、私のことを知らないふりをした。
そして友人たちと賭けをしていた。
「彼女は絶対に、もう一度俺を好きになる」
でも彼は知らなかった。
私は病院を出たその日に、銀髪の隣人と出会い、一瞬で恋に落ちたことを。
その人の名前は、御堂怜徹。
十五階に住む、無愛想で口数の少ない男性。
でも、料理だけは驚くほど上手だった。
彼が作ってくれる味噌汁も、親子丼も、すべて私の好きな味だった。
「偶然だよ」
そう言う彼を、私は信じていた。
けれど、スマホを修理した日。
LINEグループに残されていた賭けの記録を見てしまった。
「彼女は記憶を失っても、絶対にまた俺を好きになる」
「スマホの履歴を見れば、きっと俺のところへ戻ってくる」
その瞬間、私は倒れた。
目を覚ますと、御堂がベッドのそばに座っていた。
彼は何も聞かなかった。
ただ一言だけ言った。
「……君は、どうするつもり?」
私は別れのメッセージを送った。
相谷くん。
もう、あなたは自由です。
その夜。
御堂は味噌汁を持って、私の家の前に立っていた。
そして、静かに言った。
「まだご飯を食べてない気がしたから」
後になって、私は知った。
三年前の新歓コンパの日。
私は、低血糖で倒れそうになっていた一人の男の子に、何気なく一粒の飴を渡した。
彼はその飴を三年間ずっと大切にしていた。
私が好きだと言った銀髪に染めた。
一度手放した家を買い戻した。
コンビニの窓際に座って、私が来るのを二十一日間待ち続けた。
あの時の飴は、三年前に賞味期限が切れていた。
それでも彼は――
ちゃんと受け取ってくれた。