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プリマの練習場を婚約者に秘書の客室にされた私――パリ三年の舞台契約を掴み、ハーフの彼氏と恋した
プリマの練習場を婚約者に秘書の客室にされた私――パリ三年の舞台契約を掴み、ハーフの彼氏と恋した
キューブ
恋愛現代恋愛
2026年09月10日
公開日
2.7万字
連載中
冴島雪乃は、彼の新居で半月以上かけて床の色見本を選んだ。 鏡張りの壁の角度は三度も調整した。 バーの高さも、自分の昔の怪我に合わせて、すべて特注仕様に変えた。 南向きのその練習部屋は、彼女が思い描いていた「これから」の場所だった。 けれど彼が秘書を連れて内見に来た日。 彼は図面を一瞥しただけで言った。 「ここ、客室に変えよう」 「彼女は仕事で遅くなることが多いから、帰るのが大変だろ」 雪乃は何も言わなかった。 ただ静かに答えた。 「……じゃあ、そうしましょう」 その部屋を出た後、彼女は一通のメッセージを送った。 パリでの研修契約。 今日が、最終締切日だった。 彼は、雪乃がただ拗ねているだけだと思っていた。 けれど後になって、彼は劇場の楽屋裏まで駆けつけた。 一年も前から用意していた指輪を取り出し、跪いて言った。 「今すぐ結婚しよう」 雪乃は、その指輪を長い間見つめた。 そして静かに告げた。 「私が東京に残った二十数日間」 「あなたが私と結婚してくれるのを待っていたんじゃない」 「私自身が、この舞台を最後まで踊り切るのを待っていただけ」 彼女は踊り切った。 彼は楽屋の床に跪いたまま。 開いた指輪ケースから、指輪だけが転がり落ちた。 廊下を遠ざかっていく彼女の足音。 それは少しずつ小さくなり―― もう二度と、振り返ることはなかった。 その後。 セーヌ川のほとり。 冬野塁は街灯の下で足を止め、振り返った。 そして彼女を見つめて言った。 「ずっと順番待ちしてきたんだ」 「そろそろ、俺が割り込んでもいい?」 雪乃は「いい」とも言わなかった。 「だめ」とも言わなかった。 ただ、風で乱れた彼のコートの襟を整えて。 小さく笑った。 「行こう」 「風が強すぎるから」 ――ある人は「いつか」を「また今度」に変えた。 ある人は「順番待ち」を、「一緒に前へ進むこと」に変えた。

第1話 変わるのは、設計図だけ?

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