「彼氏は記憶喪失のふりで幼なじみと婚約。私を彼の兄の彼女と騙し、本当に恋したのはその兄」
バルーン
恋愛現代恋愛
2026年09月14日
公開日
2.7万字
連載中
汐見雨音と九条燎は、三年間付き合っていた。
その三年間、九条燎は毎年一度「記憶喪失」になった。
そして毎回、彼女にもう一度自分を追いかけさせた。
雨音は、それに付き合った。
手作りの弁当を作った。
何通ものラブレターを書いた。
ライブハウスの前で、彼の仕事が終わるまで待った。
彼女は、それが愛なのだと思っていた。
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三年目。
九条燎は、更科茜という女性を連れて帰ってきた。
雨音の目の前で、彼はその女性に優しく口づけた。
そして振り返る。
まるで初対面の人を見るような目で、雨音に尋ねた。
「君は誰?」
「どうして俺の家にいるの?」
「まさか……俺のあの口のきけない兄の彼女なのか?」
雨音は、一瞬だけ呆然とした。
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彼女は九条燎の、整った綺麗な顔を見た。
更科茜の手首に輝く、本来なら自分のものだったはずのダイヤの指輪を見た。
二人が絡めた指を見た。
心の中に浮かんだ言葉は、ただ一つ。
――汚れた。
男にとって一番大切なものは、純潔と美しさ。
美しい姿だけなら、彼女は何度でも許せた。
彼の演技にも付き合えた。
けれど――
汚れたものを引き取るつもりはなかった。
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だから雨音は、静かに頷いた。
「そうです」
「お義姉さんって呼んで」
九条燎の顔から、一瞬で血の気が引いた。
そして彼は、無理やりその呼び方を口にした。
「……兄嫁」
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その夜。
雨音は雨の中、九条家を出た。
途中で車はパンクした。
スマホの電池も切れた。
途方に暮れていた時。
誰かが車の窓を叩いた。
そこに立っていたのは――
九条燎とそっくりな顔。
けれど、もっと冷たく。
もっと高貴で。
もっと近寄りがたい雰囲気を持つ男だった。
彼はスマホの画面を窓に向けた。
そこに表示されていた四文字。
「助けが必要ですか?」
雨音がずっと探していた相手。
それは――
最初から、彼だった。