麦狼
ホラー怪談
2026年10月08日
公開日
5,945字
連載中
大正十二年九月一日。凌雲閣の展望台から箱庭のような帝都を眺めていた曲芸師・鳥海冬馬は、関東大震災で一瞬にして全てを失う。夢幻奇術団の仲間も、空中ブランコの相棒であり恋人でもあったお初も、行方さえ分からないまま。
焼け跡を彷徨う夜、冬馬の前に現れたのは、銃も効かぬ異形「幻魔」だった。怪力芸、軟体芸、火吹き。舞台で磨いた芸を武器に化け物を灰に変えた彼は、陸軍少尉兼軍事探偵に任ぜられ、白銀の仮面で顔を隠して帝都の夜を駆ける。
それから三年。冬馬は浅草の蕎麦屋「鶺庵」の二階で暮らしていた。階下には、お初と瓜二つの娘・澄がいる。似ているだけで、お初ではない。そう分かっていても、笑顔を向けられるたび、胸が軋む。
過去を探し続ける男は、いつか「今」を生きられるのか。幻魔の謎、お初の行方、そして澄の秘密。曲芸師の軍事探偵は、頭の中で今日も開演のベルを鳴らす。