橘廉
現実世界仕事・職場
2026年10月12日
公開日
3,768字
連載中
三億二千万円の未回収。その責任を、私は押しつけられた。
水産商社で八年間、与信管理を担当してきた高瀬紗季、三十一歳。
確認できない倉庫の実査を求めたはずなのに、会社に残っていた審査票には「確認済み」と、自分の名前があった。
記録の訂正を求めても聞き入れられず、退職。転職活動にも、審査を怠ったという噂がつきまとう。
そんな紗季が見つけたのは、小さな調査事務所の求人だった。
必要な経験は、たった一行。
「財務諸表が読める方」
婚約者の古い名刺。町工場に舞い込んだ大きすぎる注文。五年間、一度も負けていない投資。
依頼人の話を聞き、数字の根拠を確かめる仕事の中で、紗季は少しずつ自分の経験を取り戻していく。最初は高圧的だった依頼人・榊遼も、彼女の調査に信頼を寄せ始める。
やがて遼が持ち込んだのは、企業買収に伴う調査。
買収対象は、紗季を辞めさせた汐浜水産商事だった。
今度は調査員として、あの会社へ戻る。
私が何を調べ、誰がそれを止めたのか。残された記録から、確かめるために。