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異世界恋愛ロマファン
2026年10月23日
公開日
1.1万字
連載中
没落した子爵家の娘クラリス・ベルネは、父の死後、伯母のデュヴァル侯爵家に引き取られた。だが与えられたのは屋根裏部屋と使用人同然の暮らしで、伯母からは「ベルネの娘」と呼ばれ、名を呼ばれることすらない。唯一の取り柄は、宮廷書記官だった父に習った美しい字だった。
三年前から、クラリスは従姉イザベラの代わりに、国境の砦を守る王太子レオンハルトへ恋文を書き続けていた。署名は「L」。青い星や折れ耳の犬の話を綴る殿下の返事に、いつしか彼女は恋をしていた。百通の手紙の封蝋の下には、誰にも見えない勿忘草の絵を描き続けた。
王都へ戻った王太子は、手紙の真心を理由にイザベラを妃に選ぶ。だが手紙を一通も読んでいないイザベラは、殿下の話にまったく答えられない。舞踏会の露台で、クラリスが殿下と言葉を交わしたことに気づいたイザベラは、彼女に首飾り盗みの濡れ衣を着せ、雨の夜に屋敷から追い出す。三年分の手紙の下書きも、すべて暖炉に投げ込まれた。
行き倒れたクラリスを拾ったのは、下町の代筆屋の老人ギデオンだった。父のかつての同僚だった彼のもとで、クラリスは字の読めない人々の手紙を書き始め、「書いた人の声が聞こえる」と評判になる。そこへ現れた頭巾の客こそ、封蝋の下の勿忘草に気づき、本当の書き手を探していたレオンハルトだった。
婚約披露の宴で、クラリスは殿下とともに、かつて自分を嘲った貴族たちの前に立つ。百通の手紙の封蝋が溶かされ、すべてに勿忘草が現れる。イザベラは手紙に書かれた青い星や灯台守の話を問われて答えに窮し、首飾りを隠した侍女の証言で濡れ衣も晴れる。ギデオンの持ち込んだ記録によって、借金を残して死んだと蔑まれてきた父の名誉も取り戻された。
父と同じ王宮書記官に迎えられたクラリスに、殿下はあらためて求婚する。彼女はその返事を、初めて自分の名で手紙に書いた。封蝋の下には、もう隠す必要のない勿忘草を添えて。