【第1回】編集部の本棚~「無双」「悪役令嬢」「イチャラブ」作品をピックアップ!! ~ネオページ編集部

ネオページ編集部のスタッフがオススメする作品をピックアップしてご紹介するこのコーナー。
今回、紹介するスタッフはエリュシオンです。

【自己紹介】

こんにちは、ネオページ編集部のエリュシオンです。

2025年も様々な作品を楽しみつつ、日々を過ごしています。最近のトレンドはライトなミステリー、悪役令嬢系などに注目していますが、やはりハッピーエンドの作品が一番好きです。今年はどんな作品が誕生するのでしょうか……?

今回は最近読んだ作品の中からオススメの作品をご紹介します。作家の皆さんの創作の参考にもなると思いますので、ぜひ興味がある方はご覧いただければ幸いです。

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【紹介作品】

『サムライ転移~お侍さんは異世界でもあんまり変わらない~』

四辻 いそら /著 天野 英 /イラスト(KADOKAWA)


作品で根強い人気がある「無双」系作品

異世界転生・転移系の作品で根強い人気を誇るのは、やはり「無双」系

主人公が縦横無尽に暴れ回り、敵を倒していく様子は爽快感があります。頭に空っぽでも楽しく読めるのが魅力でもありますね。

ただ一方で書くとなると、面白さを演出するには工夫が必要になってきます。何せ、主人公が「最強」なので苦戦させるのが難しいです。また戦って勝つだけでは物語が平坦になってしまい、意外性もなくなってしまいます。ちなみに何故、主人公が最強に至ったのか、それに至る背景も地味に重要です。

今回紹介する『サムライ転移』は無双系作品のお手本にもなる、面白い作品です。タイトルから察せられるように、主人公であるサムライ、黒須元親が異世界に転移して暴れ回るわけですが、この男、まさにサムライ。

己の価値観、死生観、人物観、あらゆる視点を揺るがせず、武芸を極めるという目的でとことん暴れ回ります。こんな生き方していればこれだけ強くなるのも納得です。

気に入らず筋が通らない者がいれば、お偉方でも斬ることを厭いません。己がした約束を守るためであれば、異種族であっても命を懸けて守ります。下らないことであっても、己の価値観に従って命のやり取りに踏み切ります。これぞまさにサムライ。なんというか、薩摩や鍋島の武士を彷彿させます。

その異端な生き方は異世界の人々にも驚かれます。だけど同時に、その清々しいほど武芸を極まる生き様は他のいろんな人に影響していきます。その描写が巧みであり、ついつい引き込まれてしまいます。気づけば、サムライの虜になる――そんな作品の魅力に満ち溢れた作品です。

もちろん、無双系ですのでバトルの爽快感も抜群です。無双系の作品に興味がある方はぜひご覧いただきたい作品です。




『回帰した悪逆皇女は黒歴史を塗り替える』

緋色の雨 /著 鍋島 テツヒロ /イラスト(KADOKAWA)


きちんと悪役している「悪役令嬢」作品

昨今、隆盛を誇る悪役令嬢系の作品――これらは自らの行動、あるいは運命によって悲惨な運命を辿るはずの主人公が何らかの手段でそれに抗うストーリーになっています。決められた破滅に向かう運命を打破していく様子は読んでいて爽快感があり、作品によっては自身を陥れようとした人物たちを逆に陥れる、「ざまぁ」的な魅力もあるのが特徴でしょう。

一方で、悪役令嬢作品は「決められた運命」を打破する、という強い目的があるため、物語の流れが分かりやすいという魅力がありますが、それだけに「決められた運命」とそれに対して抗う主人公の行動に対して、「実際訪れた結果」がどれだけ意外性があるかが物語の大きな肝になってきます。

また悪役令嬢の性質も非常に大きな要素です。令嬢が悪役たるためにはそれなりの家庭事情などの背景が必要ですし、その事情が育んだ性格もそれ相応でなければなりません。

また、仮に主人公が悪役令嬢に転生したのならば、主人公はどういう人物で、どういった行動理念を持っているのか。それ次第で物語の魅力が大きく左右されることになります。無個性な主人公は読んでいて張り合いがないというか、つまらなく思えてきますからね……。

さて、そんな悪役令嬢系の作品ですが、最近読んでいて面白かった作品が『回帰した悪逆皇女は黒歴史を塗り替える』――緋色の雨先生の作品です。

緋色の雨先生はライトノベル、新文芸で恋愛作品を多く手掛けておりますが、個人的にはヤンデレ系の魅力が非常に優れていると感じ、愛読させていただいております。

余談ですが、先生が書かれた『悪役令嬢の執事様 破滅フラグは俺が潰させていただきます』(KADOKAWA)では悪役令嬢の描写が可愛らしく、特に病んでいるヒロインの様子が愛らしいので、とてもお勧めです。

閑話休題。

 『回帰した悪逆皇女は黒歴史を塗り替える』はあらゆる悪逆に手を染めた皇女が処刑される瞬間、時間を巻き戻って回帰。1度目の人生での己の行いを後悔し、その運命に導いた義兄たちに復讐するべく、策謀を巡らせるというものです。

1度目の人生はあらゆる悪逆を実行するために様々な策謀を巡らせていた彼女は、2度目の人生でそれを活かします。義兄たちの思惑も読み切り、謀略渦巻く王宮で暗躍していく様子は非常に読み応えがあります。

何よりこの作品の魅力は主人公が「悪逆皇女」であること。己の行いに責務を感じており、必要であれば手を汚すことも厭いませんまさに清濁併せ呑むといった感じでしょうか。目的のために揺るがないスタンスは非常に好感が持てます。

一人称視点の文章の端々からは一度目の人生の後悔、怒り、復讐の炎が渦巻いており、人物としての魅力は抜群。相手の動向を読み切った采配にすかっとします。それでいて、1度目の人生で殺してしまった第1王子の好意だけは読み切れず困惑する一面もまた愛らしく魅力的です。

昨今の作品では、悪役令嬢が「悪役」でなくなる作品も少なくなく、物足りなく思っていましたが、この皇女は悪逆であることを厭いません。少し違った魅力を楽しめる作品です。ぜひご覧になってはいかがでしょうか?




『最強英雄と無表情カワイイ暗殺者のラブラブ新婚生活』

アレセイア /著 motto /イラスト(ホビージャパン)

信頼関係の上に築かれた高品質なイチャラブ

各社レーベルには特徴、いわゆるレーベルカラーというものがあります。

たとえば電撃文庫はジャンルを問わずに挑戦し、SFやミステリー作品なども発刊しており、富士見ファンタジア文庫はファンタジー、ラブコメ、学園ものなど王道作品がメイン。ガガガ文庫は既存にはないぶっ飛んだ作品が時折出てくるのが面白いところ。そういった面も読む作品を選ぶ一助になります。

(新人賞に挑戦する作家さんはそういう部分にも注目されています)

さて、その中でもHJ文庫は甘々な恋愛作品が多い印象があります。もちろんファンタジーやラブコメもリリースしていますが、総じて甘い作品が多いです。

例えば、第4回ノベルジャパン大賞銀賞受賞作である『前略。ねこと天使と同居はじめました。』(緋月薙、ホビージャパン)は甘さが多めのラブコメで当時、面白く読んだ思い出があります。基本的にハッピーエンド作品が多いので、そういった面でも安心です。

(ライトノベルや新文芸の恋愛作品でバッドエンドになる方が珍しいのですが……)

ですので、甘い作品が読みたいときはHJ文庫の中からよく探します。

今回はHJ文庫の中でも『最強英雄と無表情カワイイ暗殺者のラブラブ新婚生活』――HJ小説大賞2021中期受賞作品をご紹介します。あらすじとしては、魔王を討伐した後の英雄と暗殺者が隠居し、ラブラブ生活を送るというものですが。一言で言うと、べた甘です。

三人称で丁寧に書かれた恋愛模様が非常に甘いです。ライトノベルでもトップクラスの甘さでしょう。互いが築き上げた信頼関係、過去からも甘さが匂ってきます。

それもそのはず、受賞コメントでは「辺境の村で紡がれる主役2人のイチャラブっぷりが群を抜いて素晴らしく、審査員からも高い評価を獲得しました」と評されており、それを痛感させるほどの甘い作品です。

こういった甘々な作品を描くのに課題になってくるのは、信頼関係を築き上げるまでの過程です。信頼関係は1日にして培われず、様々な理解やすれ違い、そして時間を経ることによって熟成されていきます。

その過程を読むのも非常に面白いですが、正直すれ違っている部分を見るともどかしく思うところもあるのが難点です。

ですが、この作品はそれを全て前日譚とすることにより、最初から全力で激甘。最初から好感度MAXなので、些細な仕草にも愛情が滲み出ます。恋愛ゲームのファンディスクだけ抜き出した、完全イチャラブ特化作品と言えるでしょう。

一方でこういった作品特有の弱点――物語の起伏が生み出しにくい、という弱点もあります。この作品も例外ではなく、多少のイベントが発生してはいるものの、作品としては2人が延々いちゃついているだけです。関係性について変化はなく、2人の目的があるわけではありません。

ですが、裏を返すとその欠点を上回るぐらいの長所があり、それが高く評価されて受賞に至ったわけでもあります。

つまり、イチャラブだけでごり押しで受賞した作品。

その描写については非常に参考になる部分が多いと思われます。特に二人が遊んでいる部分は主人公とヒロインの真剣な駆け引きが伝わってきながらも、その様子があまりにも仲睦まじいので、思わず微笑んでしまったほどです。ぜひ、イチャラブを描きたい作家にはお勧めです。


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