ネオページ編集部のスタッフがオススメする作品をピックアップしてご紹介するこのコーナー。
今回、紹介するスタッフは中野 ナナチです。
初めまして、中野ナナチです。
今まではインドア派で、週末は本読んだり、ドラマや映画、アニメを見たりして過ごすタイプでしたが、
最近はハイキングにはまりました!歩きながら自然を楽しむのはとてもリラックスできます。
ハイキングしていると、風景をきれいに撮りたいって撮影にも興味が湧いてきたところです。もう沼ですね。
さてさて、話を戻します。作品種類を問わず、小説や映画でもいい、普段はミステリとホラーが大好物です~
小説のカテゴリーの中でなら、ラブコメと現代ファンタジーが好みです。
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后選びをめぐる宮中の政と恋。四人の姫君がしのぎを削る中、「偽物の烏太夫が紛れている」という噂が広まり、ついには死者まで──。そう聞くと一見、典型的な和風ファンタジーを思い浮かべるかもしれません。
でもこの物語、そこからが違うんです。阿部智里さんの『烏に単は似合わない』は、ただの宮廷恋愛劇では終わらない。
ラストまで読み切ったとき、「そういうことだったのか!」とページをめくる手が止まらなくなる構成力、これはもう、デビュー作とは思えない完成度です。一度ならず、二度、三度と反転する真相。
読者の予想をいい意味で裏切る緻密な伏線の張り方は、まさにミステリ作家顔負け。ファンタジーの舞台を使ってミステリを語る。その組み合わせが新鮮で、八咫烏シリーズが多くの読者に支持される理由は、まさにここにあると思います。
物語づくりを志す作家さんにも、ぜひ読んでほしい一冊。
「複数視点で物語を転がしつつ、最後に全体像を収束させる」
この難しい技法を、阿部さんは物語のテンポを損なうことなくやってのけています。特に、キャラクターたちの台詞や言動に伏線を巧みに忍ばせる手腕は必見です。
さあ、あなたは誰が妃に選ばれるか、見抜けますか? 物語の裏に隠された「本当の顔」に気づいたとき、この一冊がどれほど巧妙だったか、きっと唸るはずです。
タイトルに惹かれて手に取った一冊。「姫」と「ヒモ」、この異色の組み合わせから、ほんわかコメディを想像した方、油断は禁物です。
開いてみればそこに広がるのは、光なきダークファンタジーの世界。そして主人公と姫の間に築かれるのは、単なる主従でも恋愛でもない、“共犯関係”。
「姫騎士様のヒモ」で描かれるのは、社会の裏側で生きる男と、国家の重責を背負う姫──互いの秘密を握り、命を預け合う二人の危うくも美しい絆です。ヒモである主人公は、ただの「寄生虫」ではありません。
姫のために手を汚し、苦しみを引き受け、その役割に生きがいを見出す。一方の姫もまた、彼だけには素の自分を見せ、命運を委ねていく。その信頼の重みが、読み手の胸を打ちます。
この作品が優れているのは、関係性の描き方の巧みさです。「依存」と「共犯」を美しく魅せるのは簡単ではありませんが、白金透さんはその心理の綾を、セリフや沈黙、行動の中に静かに忍ばせてくる。読者は、いつしか彼らの間に流れる“理解と執着”の気配に取り込まれ、抜け出せなくなるのです。
作家の方にも注目していただきたいのは、感情の描写を一点突破で深掘りする手法。派手な展開ではなく、信頼と裏切りの綱引きで物語を引っ張るその手腕は、多くのジャンルに応用できるはずです。
「こんなに重くて、こんなに刺さる“ヒモ”関係があるなんて」こういう関係性がドストライク!
読み終えたとき、あなたもきっとこの異色のバディから目を離せなくなっているはずです。
「人生に意味なんてあるのか?」そんな虚無を抱えたまま生きる主人公が選んだのは、自らの“人生”を売ること。
『三日間の幸福』は、人生に価値を見出せずにいた青年が、残された“わずかな幸福”の時間を通して、誰かと心を通わせ、そして少しずつ生きる意味に気づいていく物語です。
物語の出発点は極端で、設定も少し不思議。でも、だからこそリアルに刺さる。「自分の人生に値段がつくとしたら?」誰しも一度は頭をよぎるそんな問いに、三秋縋さんは真正面から向き合い、読み手の胸にやさしく問いかけてくるのです。
主人公は、不器用で、こじらせていて、どこか放っておけない存在。けれど彼が誰かと出会い、戸惑いながらも心を動かしていく姿は、きっとあなたの過去や今と重なる瞬間があるはず。とくに「根暗でも、空回りしても、それでも誰かと分かり合いたい」と願ったことのある人なら、この物語は深く、静かに心に染みわたります。
物語のラストに用意されているのは、劇的な展開ではなく、「そばにある小さな幸せ」への気づき。それこそが、この作品が多くの読者に長く愛されてきた理由です。
作家の方にも注目していただきたいのは、共感を呼ぶキャラクター造形と、「生きること」への感情を過不足なく描く筆致。派手さではなく、心の襞に触れる静かな物語にこそ、人は救われることがある。そんな大切なことを、この一冊は教えてくれます。
人生の価値に迷ったとき、今を見失いそうなとき。どうかこの物語が、あなたにもそっと寄り添ってくれますように。
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