初めましての方は初めまして、そうでない方はお久しぶり。
ライトノベル作家、漫画原作者などを生業にしております、三木なずなと申します。
この度はご縁がありまして、ネオページ様の創作の庭にて、連載を持たせて頂くことになりました。
こういったコラムのような連載は初めてのことでして、何かと不手際もあるかと思いますが、その際はどうかご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。
まずは第1回として、この連載で予定されている内容の大筋を述べつつ、なぜそのような内容での連載になったのか、私の自己紹介もかねてのご説明をいたします。
最後までお付き合いをよろしくお願いします。
まず、この連載の内容といたしまして、一言で簡潔にご紹介申し上げます。
前提として、勘違いしてほしくないのは、「書籍化」と「いい作品を作る」ことは、少し違います。
この連載ではあくまで小説のWeb投稿サイトに作品を投稿し、それで「書籍化」をする為のノウハウを語る連載となります。
もちろん、解釈次第では書籍化する作品も「いい作品」ではあるということになりますが、完全にイコールではありません。
詳細は次回以降に譲りますが、この連載の内容のほとんどは、いい作品を作るというよりは、純粋に小説投稿サイトで人気を出すための手法となります。
人気が出る、というのは言い換えれば多くの人に気に入ってもらえている、ということでもあります。
多くの人が気に入った作品であれば、それはそれで「いい作品」と言えるでしょう。
反面、「いい作品」であれば人気が出る、と言われれば、必ずしもそうではなく、また、書籍化するかと言われれば、そういうわけでもありません。
過去には小説サイトに投稿して人気が出なかったのにもかかわらず、取り下げたあと、何かしらの形で商業的に大成功した――いわば「売れた」作品も存在します。
したがって、「いい作品」と同様、最終的に「売れる作品」も、必ずしも小説サイトで人気が出るとは限りません。
ですので「売れる作品」も、「いい作品」と同様、ここではあえて考えません。
あくまで「書籍化出来る作品」の作り方を説明します。
そのため、この連載は、
実現可能、かつ再現可能な
書籍化に特化したテクニックなどを語っていき、大半は、
「Web投稿サイトで人気をとるためには」
という内容になります。
さて、そんな方法を偉そうに語ろうとしているお前は何者かと、これを読んで下さっている皆様には至極当然の疑問が生まれるかと思います。
ここで簡単な自己紹介をさせて頂きます。
私は「三木なずな」というペンネームで、現在はライトノベル作家、およびマンガの原作者を生業としております。
両親ともに台湾人。私自身も台湾で生まれ育ち、大学進学と同時に来日しました。
その後「芸術」というカテゴリーの就労ビザを取得し、作家としてデビューしました。
最初はライトノベル作家としてデビューをしたのですが、デビューの2年目から「小説家になろう」に投稿をさせて頂き、その後同サイトから20作品弱の書籍化をさせて頂きました。
書籍化の「作品数」は小説家になろうトップクラスであろうと思います、またブックマーク合計作家累計1位(※1)となっております。
※1 引用元:小説家になろう「平均点順作者一覧」
売り上げという面では、他の人気作家たちに遠く及ばないのですが、「作品をくり返し書籍化する」ということにかけては、人後に落ちないと主張できる程度の実績を持っていると思います。
また、前述のとおり、外国人で日本に在留しているのは「芸術」という就労ビザを取得しているためで、
継続して日本にいるためには、原則的に日本国より「毎年作家としての実績」を求められます。
したがって、作家としては「一発大きいのを当てる」のではなく、「毎年コツコツと」国に提出できる程度の実績を作ることを余儀なくされ、
コンスタントに書籍化する方向に舵を取ってノウハウを積み上げてきました。
少し余談、かつ極論に近い話ですが、就労ビザを取得しての日本在留ですので、
原則論で言えば「売れないから食いつなぐためのアルバイト」は不法就労になりますし、
作家として本を出せない年があると、実績なしとみなされてビザの更新ができずに国外退去となります。
さらに、これまた原則論ですが、売れっ子作家であっても、作品づくりに難産し、
ある年に新刊を刊行できなければ、行政から「活動の実績なし」とみなされ、
これまたビザの更新ができずに国外退去を言い渡される可能性があります。
それらのこともあって、より「書籍化を定期的にする」ということにこだわってきて、そのためのスキルを身につけてきました。
これらのことを評価され、この度ここネオページ様で書籍化のためのノウハウを語る連載を持たせて頂くことになりました。
そんな私がまず力説したいこと、書籍化として大前提の心構えとしてお伝えしたいのは、
もちろん、自分が本当に書きたいもの、書きたいネタであればそこに熱がこもります。それが良いものになることも多いでしょう。
いわゆる「不朽の名作」には、そういった熱量が必要不可欠なのは間違いないと思います。
しかしながら、ここではあえて声を大にして主張したい。
良いものなら必ず売れるというのは、幻想であり信仰である、と。
その考え方は悪いことではありません。私もそう思っていらっしゃる方を説き伏せ、考え方を変えてもらおうとは微塵も思っていません。
幻想も信仰も、心の栄養という意味では大事なことです。
ただ、書籍化をするといううえでは、それは一旦横に置いていただきたいと思います。
基本的に売れるものというのは、世間の需要と一致しているものが大半です。
自分のやりたいこと、書きたいものが世間の需要を一致していれば、大爆発が起きて大いに売れることでしょう。
しかし、よく考えてみてください。
作家というのは基本的に変人です。
小説なんて書こうとしている時点で「普通」とは違います。
その変人の、更に一番こだわってやろうとしていることなんて、大衆が求めているものとズレていて当然です。
近年では、ネットを中心に「オタク特有の早口」という表現がされることがあります。
これは、オタクが好きなものになると、途端に饒舌になり、熱が入り、
ディープなことを一方的にを語りすぎて周りの理解が追いつかなくなり、引かれてしまう現象のことを指します。
皆様も一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
自分がさほど詳しくはないジャンルに対して、そのジャンルのマニアやオタクがめちゃくちゃ力説してはくるものの、ディープ過ぎて途中からよくわからないし、
なんならその熱量に引いてしまい内容どころじゃない、なんてことを経験したことはあるのではないでしょうか。
作家が「心の底から書きたいもの」はそれと同じような話です。
それがうまくその時の、世間の需要にはまっていれば大人気作になるのでしょうが、大半の人がそれをやろうとすると、ただ「ハズレ」てしまうものです。
そして、書籍化というのは商業にのるものであり、書籍化をしてくださる出版社は売れるものを求めているものです。
少なくとも、出版社側が「これは売れるかもしれない」と思わなければ、書籍化は難しいでしょう。
ですので、書籍化を目標にするのであれば、自分が書きたいものだけで推し進めるのは難しいと、まず認識してください。
「それでも書きたいものを書くんだ!」とおっしゃる方。それはそれでいいことだと思います。
創作の目的は一つではありません。自分の書きたいものをただ書いていくだけなのも素晴らしいものです。
ただ、この連載はあくまで「書籍化をする」ための方法論を語るものです。
もし「書きたいものだけで書籍化するんだ!」とこだわられるのであれば、申し訳ないのですが、この連載の内容はほぼほぼお役に立てないかと思います。
何かを成し遂げるためには、「目的と手段」という考え方が大事だと思います。
目的が何なのかを決めて、それに合わせて手段を選んでいく、という考え方です。
そして目的がシンプルであればあるほど、手段は簡潔になるか、あるいは選択肢が多くなるものです。
逆も然りで、目標が複数ある、ないしは「高い」方が、手段はどうしても複雑になり、選択肢が狭まっていくものです。
「何でも良いから食べられれば良い」
「お腹が減ったけど、今日は肉の気分」
「牛肉の、しかも良い赤身が食べたい」
どうでしょう。どちらの方が選択肢が多いと思うでしょうか。
下に行けばいくほど選択肢が減るのはおわかりになるかと思います。
これと同じです。
自分の書きたいもので書籍化することはいいことですし、不可能では決してありません。
しかし、この連載では、あえて目的を極限まで、「とにかく書籍化さえすればいい」というレベルまでシンプルに削ぎ落とすことで、
そのための方法を提示し、実現の可能性を上げていくことを目指しています。
自分のやりたいことを曲げずに、世間と一致するのを試し続けることは難しい、と、ここまでお話ししてきました。
これは大きなバクチといっても過言ではないでしょう。
例えるのなら――この場合、サイコロを振って1を出せば成功、とイメージしてください。
2作品目以降もやり方を変えずに、自分のやりたいことをやる、ということであれば、もう一度サイコロを振って1を出せば成功、ということです。
2回連続で1を出せる確率は、この場合、6分の1かける6分の1で、36分の1ですね。
一方で、この連載では、目的をシンプルに「書籍化するのみ」とすることで、イメージ的に1から3出せば成功、というところを目指します。
そうすると、1作品目は2分の1、2作品目も2分の1ですから、4分の1ですね。あえて36分の9と言い換えましょう。
この数字はあくまでイメージで、サイコロを用いたので、適当なものなのですが。
ここで言いたいのは、「難しい×難しい」よりも、「簡単×簡単」のほうがいいのではないか、ということです。
簡単と言うと語弊があるかもしれませんが、より確率の高い方法で、ということです。
さて。それで書籍化ができるのなら、それでいいじゃん、と思われるかもしれません。
しかし、一概にそうとも言えないと思います。
この第1回で何度も繰り返してきましたとおり、前提としてやりたいことを捨てる――とまではいかないとしても、
ひとまず置いておいて、書籍化に向けたことをやろうということです。
それは、言い換えればやりたくないこと、書きたくないものを書こう、という話になりやすいです。
もちろん、人によっては一番書きたいものじゃなくて、2番目3番目のものだった、ということもあれば、
本当に死ぬほど書きたくないもの、そういう方法だった、という可能性もあります。
それらの書き手の気持ちをかなりの割合で無視するのがこの連載です。
繰り返し申し上げますが、この連載は「書籍化すること」のみを目的としています。
「楽しく書籍化」や、「書きたいもので書籍化」などについてはカバーしていません。
何なら、「良いものを作って書籍化」や「書籍化して売れる」ということも無視します。
あくまで「書籍化すること」のみの内容です。
ですので、人によってはかなりつらいと思うでしょう。
さらには、敵を作ってしまうかもしれません。
そんなのは作家ではない! 作家とはもっとクリエイティブで、己が持つ熱い血潮を原稿にぶつけるもの!
と、言われ、毛嫌いされるかもしれません。
それらも諸々無視して、とにかく「書籍化すること」だけの内容です。
一応、一通りのテクニックを話し終えた後半で、少しだけそのあたりのフォローも、可能な限りするつもりですが、
この連載そのものが、人によってはつらかったり、納得しにくい内容であろうことは、最初にお詫び申し上げます。
ですが、高確率で書籍化できます。
自分の作品が、自分の名前とともに流通に乗って、全国の書店に並ぶ――書籍化が高確率でできます。
それでもいい、興味があるという方は、ぜひ最後までお付き合いください。
前置きが少し長くなりましたので、第1回はここまで。
第2回から具体的に、Web小説を書籍化するにはどうすればいいのか、それを順番に語っていきたいと思います。
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