【第1回】進行諸島のヒット作量産法!!ネオページ編集部

この企画をやるにあたって、私は考えました。

私の記事に、何が求められているのかと。

そして、結論にたどり着きました。


結局、どうやれば売れるの?

それが一番聞きたいですよね?

というか、それが知りたい人のためにこの記事を書いています。


したがって、一つ前提として宣言しておきたいことがあります。

今後の記事において、『〇〇すべきです』『〇〇しましょう』などという言葉には、すべて『売上だけを考えるなら』『私の書いている狭いジャンルでは』という前提がつきます。

書きたいものがどうとか、文化的意義がどうとか多様性がどうとか、

他ジャンルがどうとか、そういった内容は一切考慮していません。(※補足1)

基本的にはプロ、あるいはプロを目指す人向けの内容になります。

というのも、私は創作が趣味というわけではないので、

趣味として楽しむ創作のやり方は知りません。


この記事では、まずシリーズの商業的成功に必要な要素を列挙し、そこに関わる技術を挙げ、それらについての簡単な解説をつけていきましょう。

これらの要素を一つずつ磨き上げていくことによって、トータルでは10倍、100倍といった売上を出すことができるかもしれません

(誇張表現ではありません。1巻打ち切り1万部とシリーズ100万部の間には、シリーズ部数で見て100倍の差が存在します)。

各技術の掘り下げは、今後の記事で行います。


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【その1】いい環境で売ってもらうこと


このように思ったことはありませんか?

  • 宣伝もせずに出版されて、当然のように打ち切られた。同時期に出た〇〇(出版社に宣伝された作品)と同じくらい宣伝されていれば、俺の作品だって売れたはずだ。

  • あの原作がコミカライズで売れたのは漫画家さんの力だ。

  • 売れている作家には出版社が力を入れるから売れる。売れない作家が宣伝もなく出版されて売れるわけがない。


はい、誰もが一度は思ったことがあるでしょう。私だってあります。

でも反発の声が聞こえてきそうですね。最初の作品から売れて、出版社からの援護を受け続けているお前に何がわかるのかと。

でも私はそれを維持してきました。

単にデビュー作品が私と同じくらい売れただけの作家は沢山いるでしょうが、そこから私と同じくらい高打率を維持しながらヒットを量産した作家はあまりいないでしょう。

間違いなくそれは私の力だけではなく、協力してくださった関係者様のおかげです。


謙遜ではありません。

作家1人の力でこれだけの打率を出せるほど、この業界は甘くありません。私が名前を知っている関係者の方々はもちろん、私と会ったこともなければ名前も知らない方々の協力が得られて初めて出せる数字です。

一方で、数字的にはもっと大事にされそうな作家なのに、あまり厚遇されない作家もいます。逆に、数字が高くないのに仕事があり続ける作家さんも何人か見たことがあります(その後ヒットした人もいます)。


その中で、私なりに違いとして見えてきたことがあるのも事実です。

もちろん締め切りを守ることや、編集さんとの接し方なども大切です。しかし、そういったよく聞く情報以外にも、推されるかどうかの違いが生まれることがあります。

私自身、企画書の内容を見てから編集さんのやる気が露骨に変わったことを体感したことがあります。

編集さんの意見を聞いたうえで企画書の内容を変更(ほとんど全部作り直しに近いものでした)した後で急に反応が変わり、

おそらく当初予定されていた以上のプッシュが決まったのです。


恐らく企画書の内容が多少先方の意向と違っても、企画が通ること自体は決まっていたのでしょうが、その制作や販売に投入される人手や資金の量は大きく変わったと思います。

商業案件の内部事情を勝手に明かすわけにはいかないので、特定可能な情報は一切出せませんが、私の中では『力を入れてもらうように頑張るのって大事だな』と感じる出来事の一つでした。

それをもとに、私はある程度の対策を立て、企画を通すだけでなく、よりプッシュしてもらえる作り方を自分なりに考えています。

もちろん今も試行錯誤を続けている中なので、おそらく完璧とは程遠い対策なのでしょうが、それでも多少は役に立つ情報をご提供できるかもしれません。



【その2】1巻が売れること


皆さんご存知の通り、1巻は非常に特別な巻です。

1巻が売れなければ、最悪は1巻打ち切り、そうでなくとも宣伝や部数が大幅に削られることも多く、そこから持ち直すケースはまれです。

たとえ2巻の原稿がどんなに素晴らしいものであろうが、

2巻が出なければどうしようもないのです。


また素晴らしい内容の2巻を出せたとして、それを読む方が極めて少なければ、その内容が商業的成功を生むケースは少ないでしょう。

一部口コミなどから持ち直したケースはあるとはいえ、

基本的には例外と考えていいはずです。

そもそも1巻を読んだ人しか2巻を読むことはないのですから、

1巻を読む人数が少なければ、もうゲームオーバーなのです。


……というのが、少し前までの状況でした。


最近は必ずしもそうとは言い切れない部分もあります。そのあたりは後述します。

今は1巻の売上だけで勝負はつかないにせよ、1巻の売上が非常に重要であることは言うまでもありません。

それを伸ばすため、タイトルや表紙、帯、販促施策などの要素が存在します。


ところで、これらを運だと思っている方はいませんか?


例えば表紙で考えてみましょうか。

たまに『絵師ガチャ』『イラストガチャ』などという言葉を聞くことがあります。

私の嫌いな言葉です。


上手なイラストレーターさんがついてくださるかどうかは、確かに運もあるかもしれません。

しかし編集部の方々は誰にイラストをオファーするかを考えているはずですし、イラストレーターさんもそのオファーを受けるかどうか、自分の意思で決めているはずです。

決してくじ引きで決めたり、サイコロを振って決めたりしているわけではないでしょう。

そして誰が描くか決まった後、どんな絵を描いていただけるかは、作品の内容が影響する部分が大きいです。


ケース①

編集さんがどのシーンにイラスト発注を出すべきか迷い、どれもしっくりこない中で、なんとか必要点数の発注を出した。

イラストレーターさんはそれを見て、該当部分を読み「よくわからないけど……こんな感じ?」と思いながら絵を仕上げた。

ケース②

編集さんは作品を読んで「ここしかない! 絶対にここの絵がほしい!」という場所に指定を出したが、素晴らしいシーンがあまりに多いので泣く泣く一部のシーンをカットし、なんとか指定箇所を規定の点数に収めた。

イラストレーターさんはそのシーンを読んで「このシーン、絶対にいい絵にできる!」と直感し、テンション高く絵を仕上げた。


両者は同じ絵になるでしょうか?

なるわけがありませんね。


であるならば、作品の表紙がどうなったかは、決してガチャの結果ではありません。

その作品を見て、多くの人が意思を持って決めた選択の積み重ねが、結果としてその表紙として現れたのです。自分が書いた作品によって、その選択が左右されたのです。

つまり打率を上げるために我々がすべきことは、いい絵をつけてもらえるのを祈るのではなく、どういった作品を書き、どのように出版すればばいい絵をつけていただけるのかを考え抜くことです。


同様のことが、帯や販促施策にも言えます。

タイトルはほぼ唯一と言っていいくらい、作家が単独でやったことが1巻の売上に現れる部分ですね。まあその部分にしても、私は編集さんと相談して決めることも多いのですが。

もちろん、表紙の他にも売れ線の傾向分析から販売戦略まで、1巻の売上に影響を及ぼす項目は多岐にわたり、それぞれ対策方法が違います。

具体的にどういった要素があり、どういった対策が取れるのかは本編で扱います。



【その3】2巻以降が売れる=継続率が高いこと


なんとか1巻が生き残り、2巻以降を出せたとしましょう。

2巻以降の売上というのは、最も強く作家の責任が求められる部分です。


ちゃんと『次巻を読みたい』と思ってもらえる1巻を書けていれば、1巻の読者さんは2巻を買ってくれることが多いはずです。

一方で、1巻がつまらないものをいくら必死に宣伝しても、2巻が売れることはないでしょう。宣伝を見て1巻を読んだ読者さんは1巻で脱落し、2巻にたどり着くことは永遠にないからです。


また2巻以降の内容も非常に重要です。

前巻を読んだ読者さんが次の巻を読む確率(継続率)が8割、9割、9割5分、9割6分だった場合、それぞれ11巻の売上は1巻の何%になるでしょうか。


答えはこうです。

  • 継続率8割  → 11巻売上は1巻の10.7%

  • 継続率9割  → 11巻売上は1巻の34.9%

  • 継続率9割5分  → 11巻売上は1巻の59.9%

  • 継続率9割6分  → 11巻売上は1巻の66.5%


これだけの差がついてしまうのです。

ですから1巻が売れ、長期シリーズ化が見込める作品になればなるほど、継続率1%の差がシリーズ累計としては致命的なまでの差を生むことになります。

そのため、いくら1巻を売る方法に自信があろうとも、作品の内容を極める努力を欠かすわけにはいきません。

いや、むしろマーケティングに自信があればあるほど、

内容にはこだわらねばならないのです。(※補足2)


さらに言えば、2巻以降の継続率がいい場合、1巻の売上も後から伸びることがあります。

というのも、『このシリーズは1巻さえ売れば2巻も読んでもらえる』となれば、関係者の方々が頑張って2巻を売ろうとしてくれる可能性は高まります。

逆に、2巻以降の継続率がいまいちだと、その1巻を頑張って売るくらいなら、他のシリーズの宣伝に力を入れたほうがいいという判断もあるでしょう。

特に、今のなろう系漫画のように電子比率が高いジャンルだと、電子書店からのデータでかなり早い段階から継続率を出せたりします。

つまり、それだけ早く、継続率がシリーズの販促に影響を及ぼすということです。

先述した『最近は1巻売上だけで勝負が決まらない』と言ったのは、これが主因です。

漫画の場合、継続率がいいシリーズであれば、1巻の売上がそこまででなくとも、粘り強く売り伸ばすといったケースが最近は出てきています。


小説がどうなのかは、私にはわかりません。

こんな連載をする人間としてあるまじき発言ですが、わかりもしないことを知ったように言うよりはマシだと思いたいところです。

というのも、最近の私は主に漫画市場に主眼を置いており、小説に関して持っている情報や知見はけっこう古いものが多いのです。そのため、この連載も、主にコミカライズを主軸とした作品に関しての知見が多くなると思います。

ただ個人の印象としては、小説市場も(紙の版面出版という形に限らず、文字媒体での小説市場という意味で見ると)

少し前に比べて少し見通しが明るくなっている部分もありますね。

10年後に小説の市場規模が今の2倍になっていたとしても、私は驚きはしないと思います。そのあたりはもしかしたら、今後少しだけ書くかもしれません。

さて、次からの記事ではこれらの要素を一つずつ分解し、どのように磨くべきかについて、私なりの考えを書いていきます。


内容の話に関しては、かなりなろう系に特化した技術となることでしょう。

ただ、マーケティングや企画作りに関しては、

他のジャンルでも応用がきく内容になるかもしれません。

また、企画の作り方などの部分は、まだ本を出せていない、あるいは企画を通すのに苦労している人にも役に立つかもしれません。

なぜなら『この作品に力を入れたい』と思ってもらえる企画であることは、企画を通すうえでも非常に役に立つからです。


頭から読んでくださっても、読みたいところだけを目次からクリックしていただいても構いません。

私が作品を売るために考えてきたことが、誰かの役に立てば幸いです。


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補足1

なお、書きたいものと売れるものの両立に関しても、この連載は少し役に立つかもしれません。

純度100%の『売るための方法』をわかっていれば、それを書きたいものに効果的に混ぜることも可能でしょう。売りたい理由は人それぞれです。

単にお金をたくさん稼いでいい生活をしたい人もいれば、書きたいものに売れる要素を入れてなんとかバランスを取りたい人もいれば、本当に書きたいシリーズをいい形で出してもらうために『売れる作家』になりたいという人もいるかもしれません。

あるいは、専業として生き残るために売らなければならないという人もいるでしょう。ご自身の目的に合わせて、使えそうな部分だけを採用していただければと思います。

補足2

ただし、継続率は『続きを読みたいな』と思った読者さんの割合であり、その読者さんが『一応続き読んどくか』くらいのモチベーションで続きを読んだのか、熱烈なファンのような形で読んだのかは反映されない数字です。

読者さんの熱量やグッズなどを通した客単価を重視する人には合わない指標かもしれません。しかし部数を追求する場合、有効な数字であることは確かです。

補足3

私が急にこんな連載を始めたことに驚いた方もいらっしゃるでしょう。

始めた理由はシンプルで、『失格紋の最強賢者』を立ち上げた当時の担当編集さんの依頼だったからです。


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