初めましての方は初めまして、そうでない方はお久しぶり。
ライトノベル作家、漫画原作者などを生業にしております、三木なずなと申します。
この連載は私三木なずなが、小説投稿サイトにおいて、
書籍化のために特化したテクニックを語るための連載、その第3回です。
続けて読んでくださっている皆様、ありがとうございます。
初めていらっしゃった方は、第1回および第2回で事前説明のようなことをしておりまして、
今回から具体的な手法に入っていきますので、
前提として、前の2回を読んでいただけると引っかかる点が少なくてよいかもしれません。
第2回の最後で「ランキング上位に入るための方法と対策」と予告させていただきましたので、
今回はその点を掘り下げていきたいと思います。
この連載ではこれまでに「書籍化する方法」として、
「小説サイトで人気を得る」、という方法を採ると説明してきました。
そして、多くの場合、小説投稿サイトにおいて人気作品になるということはランキング上位作品になるのと同義、ともお話ししました。
サイトのシステムにもよりますが、よほど運営側が何かしらの意図をもって恣意的にランキング操作しようと設計されているのでなければ、
だいたいはPVが多かったり、ブックマーク数や評価数が多かったりといった、
読者の方が支持している作品がストレートにランキングの上位に来るシステムになっています。
なぜこのようなシステムになっているのかということについては、第2回でもご説明させて頂いたように、
多くの小説投稿サイトでサイト内に広告を掲出していることに関係していると思われます。
広告収入は、サイトにおける大きな収入源で、細かいルールや事情は割愛しますが、
サイトにとって広告収入を増やすには、サイトの総PVを増やすことが一番の正攻法です。
したがって、通常はPVやブックマークなど、
読者が「繰り返しサイトを利用してくれる」ような、
人気が出る可能性の高い作品がランキングの上位に来ることで、
連鎖的に他の読者にも作品を読んでもらい、
更に全体の利用頻度を上げていく――という考えのもと設計されている、
と考えるとわかりやすいでしょうか。
ですので、小説投稿サイトのランキングというのは、
原則的に「流行に即したものが上位」という結果が出るようになっていることが多いです。
サイトとしての事情に加え、私自身の体感もそうですので、
ここでは「ランキング上位」というのは、
純粋に「より多くの読者に支持されている」ものであると仮定します。
つまり、書籍化をするためには、
より多くの読者に支持してもらえる作品を作っていかなければいけないというわけです。
当然のように聞こえますが、これは大事なことですので、あえてはっきりと言葉にさせて頂きました。
では、多くの読者に支持されるものとは、どんなものなのでしょうか。
それが「数」という意味であれば、ほとんどの場合、
「数」はその時の流行と同義であることが多いです。
そうして、流行であるがゆえに、似ている作品が複数生み出され、公開されるのです。
パッと見て「似ている」と感じる作品があることも珍しくありません。
ですので、シンプルに人気を得るには、
「流行」に乗っかるのがいちばん手っ取り早いと思います。
ここでほんのり脱線します。
皆様は、このような嘆きを耳にしたり、あるいは、自身も思ったりされたことはないでしょうか。
と。
流行しているものを見て。
そして、それが目につく場所を大量に占めているという光景を見て嫌になった、
という経験は、誰でも多少なりともあるのではないか、と思います。
それが自分が好まないものであればなおさらでしょう。
感情としてはわかります。
ただ、「○○ばかり」というのは、端的に言うと、それが人気があるということです。
だって、それが「流行」なのですから。
そして、ほとんどの場合。
「流行」は、多くのお客さまがそれに対して「お金を出しても良い」と思い、
実際にお金を払っているから生まれているということでもあります。
これは極めて大事なことです。
もう一度申し上げます。
もちろん、Web小説や、それを書籍化した小説作品も例外ではありません。
例えばいま、Web小説やライトノベル、コミックやアニメで異世界転生ものが多いのは、
それが他のジャンルよりも読者がつきやすく、
加えて、書籍化したときに売上の予測がしやすく、
アニメになったときにも全世界で安定した収益を見込めるからです。
会社というものは、お金儲けができなければ潰れてしまうものです。
同じような小説を、ずっと刊行し続けている。
同じようなアニメを、ずっと作り続けている。
それでも会社が存在し続けているのであれば、それは会社を維持できる売上が立っているからです。
そのような状況を見て、不満を覚えたり、面白くないと感じる気持ちも分かります。
わかります…が!
最初に宣言した通り、この連載では、そのような「気持ち」は完全に無視します。
ここでは「○○ばかりなのはおかしい」ということを、「○○に需要がある」とシンプルに捉えます。
脱線した話を元に戻しましょう。
Web小説の投稿サイトというものは、実に素晴らしいです。
これほど人気が可視化され、「流行」が誰にでもわかりやすく見られるようになっているのは、なかなかに珍しいことです。
「流行」がはっきりとわかりやすく見えているのなら、
その「流行」に乗っかってしまいましょう、というのが、この連載が勧めるやり方です。
このように話をすると、多くの場合にこういった質問をされます。
「それって、人気の作品を「パクる」ってこと?」
いいえ。
いくら「流行」に乗っかろうといっても、当然のことながらパクり――つまり盗作を推奨することはありえませんし、
そもそも安直にパクりをしただけで人気が出るはずもない、とも断言します。
いわゆる「パクり」では、上っ面しかまねられないことがほとんどです。
上っ面のみをパクるのは、倫理的にも法的にももとる行為であり、実務的にも意味がありません。
そんなことではなく。
この連載でお話ししたいのは、ランキング上位の個別の作品を真似ることではなく。
いわゆる作品「群」に通じるコンセプトを見つけて、それをもとに、自身で新規の作品を作っていくべき、ということです。
とある「ジャンル」が流行っているからと、同じ「ジャンル」のものを書くだけであれば、まったく盗作にはなりません。
もしそれがだめだと言い出したら、ひとたび野球漫画が流行りだしたときに、新しい野球漫画はまったく描けなくなってしまいますし、
恋愛漫画が流行ってしまったら、永遠に漫画から新しいカップルが生まれなくなってしまいます。
それならなぜ、最初から「作品」ではなく「ジャンル」を例に出さなかったのかというと、
「ジャンル」という言葉を使ってしまうと、逆に「広すぎる」ことになりかねないからです。
そもそも原点に立ち返りますと、小説投稿サイトで「異世界転生」というジャンルが流行っているから、「異世界転生」を書こう。
それじゃどういう「異世界転生」を書けばいいの?というお話だったはずです。
ですので、ここでは「ジャンル」と同じように、パクりにならない。
そのうえ、もう少し範囲を絞り込める「コンセプト」の話をさせて頂きました。
ではその「コンセプト」というものはどういうものなのか。
「コンセプト」という言葉を辞書でひくと、いくつか説明が出てきますが、その中にピンポイントに
と、創作や作品の説明になっているものがありました。
今回ご紹介する「コンセプト」という言葉は、まさに「作品の骨格」を指すものです。
上っ面の皮の部分ではなく、もっと本質的な「骨格」のことです。
その場合、作品の骨格とは、具体的にどういうものなのでしょうか。
まず、実例として、とある作品の概要を見ていただきましょう。
「ある目的で旅する一行がおり、道中新たな街に立ち寄ったら、その街の統治者が実は悪人だと判明。悪行を暴いて白日の下にさらし、住民から感謝される」 |
この概要、なんという作品のものだと思うでしょうか。
こんなの簡単。『水戸黄門』だ!
そう思われた方。はい正解です。
いやいやそんな安直な訳がない。これはきっと『ONE PIECE』のことだ!
そう思われた方。はい正解です。
これって、よく考えたら昔話の『金太郎』もそうなんじゃないの?
と疑問に感じられた方。はい正解です。
え? 全部正解ってことなの? と困惑される方もいるでしょう。
あるいは、2つ目の正解が出る前に、「いやいや『○○』って作品のことだろ?」と
別の解答を弾き出された方もいるでしょう。
それらはきっと、全部正解です。
『水戸黄門』も『ONE PIECE』も、それ以外の数多の作品も、そのような話の展開をしています。
上の文章は、物語を限界まで削ぎ落とした骨組みのようなもので、世の中の作品をこのレベルまで簡略化したら、似通っているものはとても多いです。
ここでいう作品のコンセプト――「骨格」とは、こういったものを指します。
つまり、どんな人気作品であろうとも、骨組みまで行けば同じようなものなのです。
そして、考えてみてください。
後発である数多の作品が、『水戸黄門』のパクりだと主張する方をご覧になったことはありますでしょうか。
あるいは、もし実際に見かけられた方がいるとして、その主張に同意されるでしょうか。
もちろん、以前にもお話ししたとおり、この世のことは常に100と0ではないですし、白いカラスも存在します。
ですので、どこかでそう主張する人もいるでしょう。
ただ、そんな方がいたとして、大半の人はそれに同意することはないのではないかと思います。
ですので、「骨格」であれば、似ていても問題になることはないと判断します。
「ジャンル」という広い視点から見れば、パクりにならないことと同じように、
「骨格」という深く掘り進めた先にあるものもまた、パクりにはならないはずです。
『ONE PIECE』で例えると、
「旅先で悪人を成敗して感謝される」という「骨格」を似せてもパクりにはなりませんが、「○○王に俺はなる!」はパクりです。
ここで拾いたいのは、あくまで「骨格」です。
そして、この「骨格」というのは、「限界まで削ぎ落とした無駄のないもの」という言い方もできます。
ここまで来ると、なんとなく「ああ、こういうものを書けばいいのか」と見えてくる方もいるでしょう。
翻って、書籍化で人気を出すためには、
その小説サイトでの人気作品を限界まで削ぎ落した「骨格」にして、
それらの複数の「骨格」の中から共通点を見出します。
いわば、複数の「骨格」の中から「最大公約数」を作るということです。
その「骨格」の「最大公約数」を自身で作り出すことができ、それを取り入れた作品を書くことができれば。
「需要」と「流行」を満たし、ランキングを目指すこともできると思われます。
そして。
「骨格」の「最大公約数」を作り出すことができると、デビューした後にできることがひとつ増えます。
皆さん『ドラえもん』という作品は――もちろんご存じかと思います。
また、『キテレツ大百科』という作品はご存じでしょうか。
この2つの作品を、限界まで削ぎ落して、「骨格」――最大公約数でまとめますと。
「日常の中で発生したトラブルを、摩訶不思議な機械や道具で解決する」
というものになるのではないか、と思います。
この2つの作品において「骨格」が共通していることについては、まったく問題ありません。
このパターンの「骨格」を持つ作品は、この2作品に限らず、けっこう多いからです。
あの『名探偵コナン』にも、似たような要素があるといえるでしょう。
そして――重要なのはここからです。
この2作品は「骨格」以外も似通っています。
キャラクターは「ロボット」「メガネの少年」「紅一点のヒロイン」「変な名前のガキ大将」「ちょっとイヤミなお金持ち」と、配役もかなり似通っています。
もちろんこれはパクりなどではなく、「セルフパロティ」ないしは「セルフリメイク」と言った方が正しいと思います。
なぜなら、この2つの作品は、どちらも藤子・F・不二雄先生の作品だからです。
自分の作品と似たような新作を作っても、騒がれることはありません。
もちろん、倫理的にも法的にも、問題はありません。
冨樫義博先生の『幽☆遊☆白書』と『HUNTER×HUNTER』の2作品も、
主人公サイドの4人のキャラクターの造形はとても似通っています。
これも、本人がしていることであれば、少なくともパクりにはなりません。
こういったことは、様々な作家さんの様々な作品でありますから、何らかの作品に思い至る方もいることでしょう。
そこに重大なヒントがあります。
世間には「2匹目のどじょう」という言葉があります。
ご存じの通り、これは成功した人物や事柄の後追いをして成果を狙うする行動を指す言葉です。
本来の意味は、「もう1匹目を獲ったあとだから、2匹目のどじょうなんて残っていない」ということで、
成果が得られないことをわざわざやるなんて馬鹿らしい、というものですが、
実際の使われ方を見ると、「2匹目のどじょう」までであれば、まあまあ成功するものとされています。
これは先人が切り開いた道を、2人目はすいすいと通っていくことができるからですね。
ちなみに3人目以降は、手垢がつきすぎて――あるいは道が踏み荒らされてしまって、却って歩きにくくなるという考え方もあります。
だから、狙うのは「2匹目のどじょう」です。
一般的に、2匹目のどじょうという言葉は、他人の成功を自分も狙うことだ思われていますが。
あらかじめ「まあまあ成功する」と分かっているのであれば(もちろん自分に余力があるという前提ではありますが)、
最終的に2匹目のどじょうを狙うとしても、1匹目のどじょうから自分で狙った方が効率がいいのではないでしょうか。
例えば、自分で複数の「骨格」の中から「最大公約数」を作り、ランキング上位入りし、
書籍化して人気が出た作品を、同じような「骨格」で再構成できれば、比較的楽に再び書籍化できるのではないでしょうか。
同じ骨格に、違う肉付けをし、違う皮を被せて作り直すというかたちですね。
様々な先生方と同じ、セルフリメイクです。
創作ではありませんが、アイドルグループなどでもそういう手法は見受けられますね。
ヒットした「骨格=コンセプト」の2匹目のどじょうを、自身で狙っていくスタイル。
結果は――ご存じの通りです。
上の成功例を見てもわかりますように、この方法をマスターすれば、
ただ一作品が書籍化するだけでなく、その後の作品のさらなる書籍化にも役立つと思います。
実際に、世の中にはこういったかたちで成功しているクリエイターの方が、少なからず存在しています。
「またあいつ似たようなもの作ってるよ…」と思う方もいらっしゃるでしょうが、
私は好きな作家が作った同じコンセプトの作品なら、安心して見られますし、購入したいと考えます。
つまり、同じ作家が同じコンセプトの作品を書いたなら、
とりあえず1巻は買ってみようかと、前作のファンを引き継ぐことができる可能性は大きいです。
ですので、ぜひ、書籍化の第一歩として、今回紹介した方法をマスターしてみませんか。
ランキングの上位作品を複数見て。
「骨格=コンセプト」を抜き出して、共通しているものを見つけて、それを書く。
さらには、セルフリメイクも行う。
書籍化もできるし、書籍化した後の作家寿命も延ばしやすくなりますし、いいことづくめです。
ぜひやってみましょう。
第3回の最後に、ひとつ例題をお出しします。
『シティハンター』
『ルパン三世』
『コブラ』
この3つの作品の要素を削りだし、「骨格化=コンセプト化」してみましょう。
この流れでリストアップしていますから、私から見ると、当然骨格にした場合に共通点があると考えている作品です。
ぜひやってみてください。
これができれば、あとは実際にランキング上位の作品を見て、同じことをしていけばいいだけです。
そして。
「骨格」にするという話はわかった。
でも、ランキングを見るといっても、じゃあランキングのどこまで見ればいいの?
100位まであれば100作品全部? といった疑問もあるでしょう。
次回の第4回では、ランキングから骨格にする前の、
範囲の絞り込み方についてお話ししたいと思います。
お楽しみに。