初めましての方は初めまして、そうでない方はお久しぶり。
ライトノベル作家、漫画原作者などを生業にしております、三木なずなと申します。
この連載は私三木なずなが、小説投稿サイトにおいて、
書籍化のために特化したテクニックを語るための連載、その第4回です。
前回の第3回では、作品の「骨格」とも言うべき「コンセプトレベル」まで要約すれば、
異なる時代の異なるジャンルであっても、人気作品は大いに共通する点がある。
それは流行においても同じことであるため、ランキングに表れている流行の最大公約数を見つけることで、
書籍化のための「新規作品コンセプト」を作り出すと書籍化しやすくなる、というお話しをしました。
それを踏まえて、今回の第4回では、実際にランキングをどのように見るのか、ということを話したいと思います。
前回の予告でも少し触れましたが、「ランキング」と聞いておそらく真っ先に浮かぶ疑問として
「ランキングのどこまで見るの?」というものがあるでしょう。
例えば、ランキングが5位とか10位までしかないのなら、大して問題はないでしょう。
いっぽうで、TOP50まで見せているサイトもあるでしょうし、
TOP100も、キリがいいから採用しているサイトも多いでしょう。
界隈でもっとも有名で、異世界転生の代名詞にまでなっている
「小説家になろう」さんなんて、ランキングは300位まで掲載しています。
ただ、さすがに300位まで全部見るなんて、実際には不可能でしょう。
それに、300位まで行かずとも、100位まで下っていくと、
いわゆる流行のものではない可能性が高くなります。
流行を拾うやり方として考えるのなら、そこまで下っていくと目的から外れてしまう可能性が増えてしまうので、しなくてもいいです。
――では、どこまで見ればいいのか。
大抵の小説投稿サイトの構成として、ランキング一覧のページがあり、
そこからさらに細分化された各ランキングのページに入っていきます。
その場合、ランキング一覧、もしくはトップページには、
上位5位、ないしは10位くらいまでが表示されていることでしょう。
そのあたりが目安です。
一覧やトップページに、上位5位までの作品が表示されていたら、5位までを参考にする。
10位までだったら、10位までを参考にする。
なぜそうするのかと言いますと、一覧ページもトップページも、
サイトの構造上「表」というべきか、「玄関」というべきか。
そういった形の言葉で形容されるイメージになります。
つまり、目立つわけです。
さらに、読者も「これが人気作品ですよー」と、
サイトに行って初っ端からのわかりやすい導線に従ったところにあるそれらの作品を見て、
そこから読んでみようか、という方も多いです。
そうすると、ランキング上位を狙う方は、積極的に人気ジャンルや流行りのネタを駆使して、そこに入っていこうと試みます。
結果的に、そういったところに自然に流行のネタが出現しやすくなるということです。
従って、作品数としては「ランキング一覧で表示されている順位まで」を参考にされることをオススメします。
だいたいの場合、小説投稿サイトでは、複数のランキングが存在します。
大別すると、「ジャンル別のランキング」と、「期間別のランキング」の場合がほとんどです。
他にも細かくありますが、大体はこの二パターンです。
「ジャンル別のランキング」を見るのは簡単です。
今であれば、もっとも書籍化の可能性が高い「異世界ジャンル」を集めたランキングか。
あるいは、シンプルに全作品を対象にした総合ランキングなどを見ればいいと思います。
問題は「期間別のランキング」の方です。
この「期間別のランキング」には、通常「日間ランキング」と「週間ランキング」があり、
「月間ランキング」もまだあることが多く、「年間」「四半期」はあったりなかったりします。
また、時間別にならない普通のランキングは「全期間ランキング」だという見方もできます。
この「期間別ランキング」について、どういう優先順位で見るべきなのでしょうか。
あくまで私見ではありますが、私はこのような順番がいいと思っています。
月間
週間
日間
四半期、年間
全期間
なぜこの順番で見るべきか、という前に、まずこの連載の大前提を思い出してみてください。
この連載で目指すことは、書籍化を実現するために「流行のゲタを履いて人気が出やすい作品を作る」ことです。
そのためには新鮮で、今リアルタイムで流行っているものを見つけることが大事です。
ですが、「四半期」「年間」「全期間」ランキングが示すのは、いま現在流行っているものではなく、
人気作だが流行っていたのは過去、という可能性も高くなります。
「全期間ランキング」の上位になると、そのサイトやジャンルにとって「古典」である可能性もあります。
ですので、「四半期以降のランキング」は、今回のような目的の場合、ほとんど見る必要はありません。
では、前半はなぜ順番が「月間」が先で、「週間」「日間」が逆になっているのかといいますと。
これは、イレギュラーの可能性を考慮したためです。
「日間ランキング」というのは、文字通りその日、
あるいは、過去24時間で人気が高かった作品のランキングです。
ただ、一日あるいは24時間では測定期間が短すぎて、私たちが探している「流行」ではない、
何かしらのイレギュラーな作品がランクインして来ることがあります。
わかりやすいように極端な例でたとえましょう。
もし、かの村上春樹先生が、仮にweb小説をそこそこ小さいサイトに投稿したとすると。
すぐさま大量のファンが押し寄せて、その日のランキングトップを獲得する可能性は大いにあります。
そういうものがイレギュラーです。
もっとも、村上春樹先生が投稿されるのであれば、それは素晴らしい作品であるはずで、
多くの方を楽しませることができる作品でもあるでしょう。
いっぽう、それは高い確率で私たちが求める「流行」ではないはずです。
したがって、その日の「日間ランキング」にはイレギュラーな例外、ノイズが生じることになります。
また、過去の名作がアニメ化されて放送された際に、放送初日は旧来のファンや、
アニメから入ってきた新規のファンが一気にその原作小説を読みます。
その結果、この作品もまた「日間ランキング」上位に来ることがあります。
アニメ化されていることからもわかるとおり、その作品もいいものであることに間違いないですが、現在の「流行」ではない場合が多いです。
一般的に、小説投稿サイト発のアニメ化には、最高レベルに順調に進んでも、Webの初投稿からアニメ放送まで3年はかかります。
3年も経てば、いまの「流行」と異なるのは当然です。
当然に、これも例外な結果で、ノイズになります。
このように、1日分のみを期間とする「日間ランキング」は、簡単にイレギュラーな要素に影響されます。
そして、「週間ランキング」も、「日間ランキング」のトップ作品がそのまま
「週間ランキング」のトップになる、ということがままあります。
それが「月間ランキング」までいきますと、さすがに様々な影響が薄れてきて、「流行」が大半を占めるようになります。
「四半期」「年間」「全期間」と、下るにつれて影響が少なくなりますが、
それらはそもそも前述の通り「流行」を表しにくいということでもありますので、無視します。
従って。
「流行」という観点と、なかでもイレギュラーによる影響の受けにくさのバランスを取って、参考にするランキングの順番を
月間
週間
日間
にした方がいいと、私は考えます。
また、もうひとつ別の側面として「一瞬だけ流行る」というものを避ける、というのもあります。
小説投稿サイトに限らず、世の中には本当に「一瞬だけ」流行るようなものも多くあります。
これは「流行った」という意味では、同様に多くの読者が支持したことになるのですが、すぐに飽きられたということですので、
それに手を出して「骨格=コンセプト」化して作品を書いた頃には、もう遅い、ということになります。
ですので、ごく短期流行ったものを避け、ある程度長く流行しているものを狙うという意味でも、
やはりランキングは「月間>週間>日間」という順番で参考になると考えます。
さらに、同じようなコンセプトの作品でも「日間上位のみ」「週間でも上位になった」「月間までも上位になった」のそれぞれの作品を比べると、
そこにはコンセプトの理解度の深さが大きく関わっていることがわかります。
例えば、表面だけをなぞって読者が求めるもののコンセプトが深くまで理解できなかった作品は、
入口で一瞬だけ読者を吸い寄せることができても、少し読んだだけで読者の失望を招いてしまい、後伸びしなくなるものです。
したがって、全く同じように見えるコンセプトの作品でも、週間、月間と、ランクインしているランキングが変化していくにつれ、
コンセプトをより深く理解し、再現し、こだわっている作品になっている場合が多いです。
そのため、実際に私がジャンルを研究する際は、「月間ランキング」をベースにして、
月間で読み解いたコンセプトを「週間と日間ランキングで答え合わせする」という形でやってきました。
「ランキングで見る作品数は、小説投稿サイトのトップページか、ランキング一覧で表示されている順位(上位5位、ないしは10位くらい)まで」
「ジャンル別ランキングでは、現在もっとも書籍化の可能性が高い「異世界ジャンル」か、全作品を対象にした総合ランキングを見る」
「期間別のランキングについては、「月間ランキング」の上位作品をベースに、共通したコンセプトを見つけて、「週間や日間ランキング」で答え合わせする」
という感じです。
これができると、高確率で「人気が出続けている」「書籍化しやすい作品」のコンセプトやネタが見つかると思います。
次回の第5回では、今までとは逆に、ここまでご紹介した「後追い」ではなく「流行の一番手になれる」可能性のある方法について語っていきます。
お楽しみに。