【第5回】三木なずなの書籍化道場!!ネオページ編集部

人は小説を書く、小説が描くのは人。

 

初めましての方は初めまして。そうでない方はお久しぶり。

ライトノベル作家、漫画原作者などを生業にしております、三木なずなと申します。

 

この連載は私三木なずなが、小説投稿サイトにおいて、

書籍化のために特化したテクニックを語るための連載、その第5回です。

 

前回の第4回では、小説投稿サイトのランキングの見方、

そこから流行している旬のネタを見つけだす方法をお話ししました。

 

しかしながら、web小説に限らず、世の中には「特にこれといって流行しているものはない」

もしくは「流行しているものがバラバラ」といった、

いわゆる「谷間の時期」も、そこそこの割合で存在します。

 

そのような、特に流行しているもののない「谷間の時期」に、以前お話ししたような

「ランキングの上位から最大公約数を見つける」やり方をすると、

作品の中に共通点があまり見つからず、困惑することもあるでしょう。

 

今回は、そういった場合の対処方法についてお話ししたいと思います。

 

ちなみにこのやり方は一冊目の書籍化のみならず、プロになった後も長く使える方法だと思いますので、今回もぜひ最後までお付き合いください。

 


さて。

 

今回のお話ことをお話する前に、キーワードとして「不満」を挙げておきたいと思います。

 

まず、現在も長く人気が続く「異世界転生」作品が日本で大いに流行した理由は、

良くも悪くも、日本の社会システムが持つ「堅牢さ」にありました。

 

日本では社会制度などのシステムが固定されていて、

不満を持つ人が、現実世界で背負う不満を解消できません。

「異世界転生」作品が流行りだした当時、

ちょうど社会に入って一通り揉まれて、現実の厳しさを知った人も多かったのでしょう。

 

ガチガチに硬直した「日本」がダメなら、

社会システムがゆるゆるな「異世界」なら、

抱えているこの「不満」も解消されるのではないか。


そんな理由から、「不満」が解消できる「異世界転生もの」が流行り出したように思います。

 

また、皆様は「追放系」と呼ばれるジャンルをご存じでしょうか。

 

これは

「とある団体から主人公が(多くの場合不条理な理由で)追い出されるものの、

その主人公が実は実力者で、新天地で改めて実力を発揮し、

かつ主人公を失った元の団体が落ちぶれていく」

という内容のものになります。

 

今では誰もが一度は目にしたことがあると思えるこの「追放系」ですが、

異世界ものの中で、サブジャンルとして一時期大いに流行しました。

 

ちなみに「追放系」は現代に生まれたわけではなく、

『巌窟王』など、古典でも人気を博していたジャンルですし、

現在世界でもたびたび起きている現象でもあります。

 

たとえば、近年大いに人気を博している『ウマ娘』――には登場していませんが、

かつて「サンデーサイレンス」という競走馬がいました。

 

この馬は海外で生まれた競走馬で、現役時代はめっぽう強かったのですが、

引退後に繁殖馬になったあとは、いろいろとケチをつけられて、

価値がグングン下がったところで、払い下げに近いかたちで日本に輸入されました。

 

その際にも「あんな馬を買うなんて、日本人はバカじゃないの?」といった嘲笑があったそうです。

そんな扱いを受けていた馬です。

 

しかしながら。

 

日本に輸入された「サンデーサイレンス」は、繁殖馬として大いに活躍し、かの一世を風靡した「ディープインパクト」をはじめ、

数多くの強い馬を輩出し、最後には日本競馬界の血統を塗り替えるほどの馬になりました。

 

「サンデーサイレンス」本人は、未だ『ウマ娘』には登場していませんが、

「サンデーサイレンス」の子供が、『ウマ娘』になんと30頭以上登場しているほど――

 

それほどものすごい馬です。

この「サンデーサイレンス」の物語も、一種の「追放系」といえるでしょう。

 

そして、そんな「追放系」が流行したきっかけのひとつにも、先に挙げた「不満」があると私は思っています。

 




「小説家になろう」さんにおいて、かつて「異世界転生」の作品は全体のランキングの中にありました。

それが2018年前後に、「異世界転生」ジャンルは全体のランキングから個別のランキングに切り出されました。

 

それによって、ふたつのできごとが起きました。

 

ひとつは、主にランキング対策として、「異世界転生」ではなく「もともと現地で生まれた主人公による異世界もの」が作られました。

 

当時、「異世界転生もの」の需要は変わらず旺盛で、読者が求めていましたし、作者も書きたがっていました。

ただ、「異世界転生もの」の作品を書いたとしても、ランキングが分離されたことから、今までほどPVを得られなくなってしまいました。

 

そのような状況への対応として、「転生」要素を取り払い、「異世界」部分だけを残した「現地主人公もの」なる作品が作られた印象があります。

 

これは、主人公が「現実世界から転生」するのではなく、「最初から異世界で生まれた育った」という設定であれば、

異世界転生ジャンルではなく、より読者に見つけてもらいやすい、通常のランキングに入ることができたためです。

 

また、この流れのあおりを受けて、異世界転生の古典的設定ともいえる「トラックにはねられて転生する」作品が、このあたりから急激に姿を消しました。

おそらく「異世界転生」ジャンルでは、PVを得ることが難しくなったことも、理由のひとつではないかと思います。

 

※この点は第4回にお話ししたことに少し絡むのですが、たとえばこのタイミングで「全期間のランキング」の上位に「トラック転生」の作品が多いからと、

それに合わせて「トラック転生」の新作を書こうとすると、分離されたほうのランキングにいってしまい、結果的にPVが伸びなくなってしまいます。

ここからも、やはり「全期間ランキング」より、「日間」から「月間」のランキングから作品を探すほうがいいという実例になります。

 

少し話が脱線しましたが、ここからもうひとつのできごとをお話しします。

 

当時既に「異世界もの」ジャンルは大いに流行し、コミックやアニメなどが数多く作られ始め、実際の市場でもかなりの経済規模になっていました。

 

そのような状況でランキングから分離されたことで、作者の間には自分たちが

「これまでのランキング」から「追放」されたと受け取った人もいたようです。

ある日突然、主戦場から僻地に追放されたようなニュアンスでしょうか。

 

それは一部のファンの方でもあったようで、「異世界転生」ジャンルを「俺たちが育てた」と思っていたファンにとって、

築き上げてきたものがひっくり返ってしまった(=追放された)と感じた方もいたようです。

 

そうして。

 

私見ではありますが、追放されたと感じた作者と読者の間で、どこか「不満」を覚えた方が、

揃って感情を昇華すべく作り出したのが、いわゆる「現地主人公もの」である「追放系」の作品であったのではないかと思います。

 

結果的に、それらの作品は大量に生み出され、かなりのブームになりました。

 

「追放系」ができるまでのストーリーは、見方を変えると「水を差されて流行が途切れかけたところに、

皆が根性で別の流行を作り出した」という言い方ができるかもしれません。

 

そして、その新しい流行を作ったのは「不満」でした。

「不満」を解消するために新しい作品を作り、それが流行になったということです。

 


 翻って。

 

今回は「谷間の時期」に「ランキングの中にこれといった流行がなかったら?」というお話しでした。

そういう時にはどうすればいいのでしょうか。

 

そうです。

なければ、作ればいいのです。

 

ここに改めて「不満」というキーワードを挙げます。

 

創作における「流行」は、実はいつも潜在的に存在していて、その種になるのは「不満」であることが多いです。

 

現実世界で多くの人が抱えている不満を見つけ、その不満の「最大公約数」を見つけだし、それを創作物の中で解消してあげるのです。

たとえば、いつの時代も権力者に対する不満はありますから、水戸黄門からONEPIECEまで、

長い間、悪の権力者を成敗する物語に需要があり続けるのです。

 

つまり目立った流行がなく、ランキングが迷走しているように見える時期には。

 

「ファンたちが抱えている新たな不満を汲み取って、それを解消するというネタで書く」ことをすれば、

人気作になりやすい=書籍化しやすくなる、ということです。

 

いっぽう、もしそのタイミングで既に自身の作品が書籍化していて、

いわゆるデビュー済みの状態で直接出版社と打ち合わせできるのならば、

市場の読者に残り続けている従来の不満を解消するものか、市場でもしかしたら生まれているかもしれない、

新しい不満を見つけ出し、解消する「何か」を書くことを提案すればいいのです。

 


――と、いうわけで。

 

どんな時も、書籍化の種を探す方法のひとつとして。

そして、書籍化後に、次に書く種を探す手段として。

 

狙っているファンたちの多くが抱えている不満を、創作の中で見つけて解消してあげる。

そうすれば、流行りのない谷間の時に「1匹目のドジョウ」を狙うことができますし、

書籍化した後の新作執筆の際にもきっと役に立ちます。

 

「不満」を見つけるのが難しい、と思われる方もいるかもしれませんが…。

 

ランキングから需要の最大公約数を見つけるのと。

現実世界から不満の最大公約数を見つけるのとで。

 

結局のところ、やることは同じ、という話です。

 

以上。

 


これまで3回ほどにわたって、そうした「読者が期待するであろう」ネタを見つけていくお話をさせて頂きました。

これでさらにいろいろと書くべきネタを見つけやすくなったのではないか、と思います。

 

では、次回から、実際にそのネタを使って本編を書いていく話をさせて頂きたいと思います。

お楽しみに。


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