初めましての方は初めまして、そうでない方はお久しぶり。
ライトノベル作家、漫画原作者などを生業にしております、三木なずなと申します。
この連載は私三木なずなが、小説投稿サイトにおいて、書籍化のために特化したテクニックを語るための連載、その第6回です。
前回の第5回までは人気が出ている、あるいは人気が出そうなネタの探し方の話を一通りさせて頂きました。
今回から見つけたネタを元に、実際の物語の作り方の話をしていきたいと思います。
今回のキーワードは「ログライン」です。
ログラインを作り、物語の全てをログラインに沿って作れ。となずなは駆け出しの時に教わり、今でもこのやり方を守り続けているつもりです。
またその時教えて下さった方は
「物語の全てをログラインに奉仕するべし」
という強めの表現を使っておられたほどでした。
このログラインというのは他の媒体でも重要な考え方ですが、web小説ではより重要で、毎回の連載できちんと守っていなければならない、と今でも強く思っています。
さて、このログラインという言葉。
ここ数回における冒頭のまとめやキーワードに比べて、今回のはどうも単語自体なじみがないな、と思う方も多いかと思います。
ですので、まずは一番引っかかっているであろう、このログラインとはなんぞやについてご説明をいたします。
ログラインというのは、限界まで雑に言うと
「物語の見所や要点を1~3行くらいにまとめたもの」です。
こう聞くとあらすじとも似ているように思われるかと思います。しかし商業出版されている書籍のあらすじとは違って、ログラインは引っ張ることとかせずに、むしろ面白いポイントや、場合によっては結末の最後まで書ききる事が必須となります。
つまり「結末やいかに――」はNGで、「――メデダシメデダシ」までを、3行くらいで書き切らなければならない、作りきらなければならないということです。
さて、これを聞いて、こう思われる方がいるでしょう。
「俺が温めている or 考えついた大作はそんな短い言葉で語れるようなものじゃない」
と。
創作者は一人一人が神のような存在であり、その頭の中には宇宙のごとき広大な世界が広がっていることでしょう。
そこに愛着があれば、なおさら短くまとめることは難しいでしょう。
事実、私も頭の中に3行どころか3万行でも語りきれないような作品を温めています。老後のライフワークにしたい、と思っているような作品です。
ですのでその気持ちはよくわかります。
そんな作品を3行なんて短くまとめろといわれたら腹がたってしょうがないという気持ちは痛いほどよく分かります。
でも。
これまでも何度も書いてますし、これからも何度でも書きますが、この連載では書籍化のみを目標にし、そういう書き手の気持ちを一切無視して進めていきます。
どんなに広大な構想であっても、どれだけシンプルにまとめるのがいやでも。
書籍化のために、是非とも割り切って短くまとめてほしいです。
では、何故そんなに短くまとめる必要があるのか、まとめて何がよくなるのか、と今度は技術面や性能面で疑問を持たれるかと思います。
まずこのログラインというのは、ご存じの方にとっては「映画産業の中心地であるハリウッドで使われている」というのがもっともポピュラーな認識であると思います。
ハリウッドでは作品を売り込んだり、スポンサーに出資してもらうために、これから作ろうとしている話を、企画書として三行ほどのログラインでまとめていると聞きます。
それをもってスポンサーを説得し、納得させて出資させるわけですね。
なぜそうまでして短くまとめる必要があるのか。
それは、スポンサーの人が忙しく、かつ専門家ではないというのがもっとも大きな理由です。
スポンサーの人間は9割9分、創作の専門家であるわけではありません。
むしろ創作においては素人と言ってもいいでしょう。
言い換えればスポンサーの人たちは「決定権をもつ素人」ということになります。
そんな決定権をもつ人たちを相手に、企画を理解し、かつ興味をもって決裁してもらうには――会社勤めをしてらっしゃる方や、なんやかんやで会議をたくさん経験してこられた方には何となくピンとくるのではないかと思います。
相手にわかりやすくするために、シンプルにするのが大事になってきます。
また大手のスポンサーの、その決裁権をもつ人間というのは超高確率で多忙を極めています。
真っ当な会社であれば、社長が一番忙しくて、その忙しさは順にくだっていって、現場の労働者が一番暇をしている――そんなものです。
そのような忙しい人間が、まだ山のものとも海のものともつかない企画にいちいち長い時間を割けるわけではありません。
更に、ちょっとだけ企画に付き合ってくれる時間を取ってくれたところで、今度は気分と体調の問題があります。
少しご機嫌斜めの時に当ったりしたら、「こんな長い企画書を読んでられるか!」と思うかもしれません。
体調がちょっと悪い瞬間にだったら一瞬目を通すか聞いただけでもう興味ない! となることもあります。
相手も人間なのですから。
だからこそ、スポンサーから頂いた数少ないチャンスを生かして、一瞬でその心を撃ち抜くための短くわかりやすいコンセプト――として使われたのがログラインです。
さて、そのハリウッドだけではなく、日本でもあらゆる創作において、実際に使われる用語こそ違えど、ログライン同様にいい作品はコンセプトがシンプルにまとめられるものが多いです。
ここまで聞いて、そしてここまで読んで下さった皆様ならピンとくるものがあるのでは無いか、と思います。
そう、第3回で話した骨格、コンセプトのはなしです。
そのとき私は『水戸黄門』シリーズや『ONE PIECE』などを、3行ほどの短いコンセプトにまとめました。
実はあれこそがログラインというつもりでやっていたものです。
もちろん各作者サイトが実際に定めているものとは違うでしょう。
ですが、「短い時間で初見の方にも興味をもってもらえるようにプレゼンする」という意味では、ハリウッドがログラインを重用している理由と一緒です。
さて、このログライン。
この回の冒頭では「web小説は毎回の連載でしっかりログラインを守って作る」とお話しました。
ここで考えてみて下さい。
『水戸黄門』はどうでしょう? 毎回悪人を成敗しているはずです。なんだったらテンプレートがあると言われるくらい毎回同じことをしているはずです。
『ONE PIECE』はどうでしょう? 新しい島にいったら正体を隠している悪人か、純粋に悪い権力者を倒しているはずです。
『ドラえもん』は毎回泣きつくのび太のためにひみつ道具を出してあげるし、『名探偵コナン』を始めとする探偵ものは必ず犯人の正体を暴いています。
『水戸黄門』や『ドラえもん』は短期的に、探偵ものは中期的に、そして『ONE PIECE』は長期的に必ずログラインを守って作られています。
余談ですが、『ドラえもん』は歌までそうなっていますね。
使用料が発生してしまうかもしれませんので直接には書きませんが、「ドラえもんのうた」の歌詞、その4行目までを確認してみて下さい。
しっかりと『ドラえもん』のログラインになっているのがとても素晴らしいと実感出来ると思います。
ちなみに、歌詞カードとしては4行ですが、歌う「間」的には二行くらいの感覚であると、実際に歌ってみれば実感できると思います。
ですのでバッチリとログラインの定義に沿っています。
そして、ここからが今回の本題。
web小説はこの「短期的」なのを強く守って作るべきです、と冒頭にお伝えしていました。
以前の回でPVとブックマークのお話を書いたと思います。
まずはものすごく雑に考えてみましょう。
同じ「100話構成のお話」が2つあるとして。
片やログライン=コンセプトがブレブレで、読者は途中から「なんか違う」としてさわり程度で読むのをやめてしまうような作品。
片やログライン=コンセプトがはっきりしていて、読者は安心して最後まで、ないしは中盤くらいまではまで読み進められる作品。
この二つの作品があったとして、どっちがよりPVが取れるでしょうか。
同じような露出があり、同じくらいの人が手に取ったと仮定して。
つまりは一人あたりからどれだけのPVをとれるのかと考えてみます。
ブレブレだと序盤でやめてしまうだろうから、5とか10とか、そういうレベルでしょう。
一方はっきりしてて読み進んでくれる作品なら、数十とか100に近い数字が出るかもしれません。
つまり、ログラインがはっきりしていて、それにそって作り続けた作品のほうが読者一人あたりのPVが稼げるのです。
前にランキングを上げるにはPVを上げるといいとこちらで書きました。
つまりランキング攻略として、ログラインをはっきりとさせて、短期的にかつ継続的に――つまり全話ログラインにそって作るのがオススメしたい攻略法なのです。
もっといえば、これは第1回あたりでもお話しましたことですが、web小説は毎日山ほどの新しい作品がつくられ、公開されます。
読者には山ほど選択肢があるわけです。
仮にタイトルやあらすじにでちょっと興味をもってはいってきたとして、でも偶然その回に、あるいは2回3回(100回のうちのわずか)「期待した」面白さがなかったとして。
読者はその作品を読み続けることはしないでしょう。
なぜならほかに山ほど作品があるからです。
他の、期待した面白さをちゃんとだしてくれる作品を読めばいいのです。
さて、ここからまた少し、定番の余談を挟みます。
数年前の話ですが、当時のTwitter(現「X」)でバズったツイートがありました。
当時上映していた『劇場版シティハンター』を見に行ったファンの方が
「ラーメン屋でラーメンを注文したらラーメンが出てきた」
と嬉しさを表現するツイートをして、これが大いにバズりました。
ラーメン屋でラーメンを注文して……? 何を当たり前の事を――とお思いかもしれません。
しかし想像してみましょう。
ですが想像してみてください。世の中には数多のラーメン屋さんがあります。
偶然入ったラーメン屋にラーメンがなくて、それ以外の――例えば生野菜サラダしかありませんでした。
客はどう思うでしょうか、どう動くでしょうか。
理由はきっと色々あるでしょう。
売り切れかもしれませんし、その日のスープの出来が悪かったかも知れません。
火がそもそも使えないかもしれないから、なんとか工夫して、生野菜サラダだけ出せるようにしたかもしれません。
作り手側としては工夫したり頑張ったりしたのかもしれません。
でもどんな理由があっても、その時入ってきたお客さまには「ラーメン屋に入ったらサラダしか出てこなかった店」でしかないのです。
それでは客はもう二度と来てくれません、その日来た新規の客を全部逃しても不思議はないです。
だから、こちらの例えで言うならば「ラーメンこそがログラインである」と言えるのです。
ラーメン屋を開くと思ったら、ちゃんとラーメンをきらさないようにするべきです。
ラーメンの看板をみて入ってきた人には、いつでもちゃんとラーメンを出せるようにするべきなのです。
ログラインに毎回沿ってつくるというのはそういうことなのです。
ここまで読んで
「でも同じことをやって飽きられない?」
と思う方もいると思います。
大丈夫です、断言します。
飽きてそこからいなくなる方から頂けるPVの量
VS
期待外れでいなくなる方から頂けるPVの量
一人の読者から頂けるPVは圧倒的に前者です。
そもそも期待外れと思うよりも、飽きるまでのほうが圧倒的に長いです。
期待外れは一瞬、飽きるのはそこそこの時間が必要です。
PVを稼いでランキングを上げるのですから、飽きられるのを畏れずにログラインにそった同じものを続ける。
ラーメンを出し続ける方が絶対に良いです。
これは断言します。
余談ですが、拙作に『貴族転生~恵まれた生まれから最強の力を得る』という作品がありまして、これは当時『バクマン。』というコミック作品の中で「毎話パンツを3カット書くように」と漫画家さんが新作について編集からオーダーされるというシーンがありました。
それを読んで、この『貴族転生』では「毎話3回主人公をすごいと褒める」をログラインにしました。
主人公が「すごい」と褒められるのが見たい読者は、現在200話越えていますがどこを読んでも絶対にスゴイは3回はあります。
そういう風に作りました。
結果として、私が執筆した作品の中で、購読継続率が抜群に高い作品となりました。
そして、この連載でも。
毎回このちょっとした余談が面白いとか、話の理解に役立つとか、そういった声を頂いておりますので、これからもくどくならない程度に余談は挟んでいきたいと思います。
さて、ログラインにこだわるのはわかった。
ラーメン屋としてラーメンを出し続けるのはわかった。
次回は、もそもどうやってラーメンを出している店――そのログラインを求めている読者に届けるのか。
看板――もとい。
タイトルとあらすじの話をしていきたいと思います。