人は小説を書く、小説が描くのは人。
初めましての方は初めまして、そうでない方はお久しぶり。
ライトノベル作家、漫画原作者などを生業にしております、三木なずなと申します。.
この連載は私三木なずなが、小説投稿サイトにおいて、書籍化のために特化したテクニックを語るための連載、その第7回です。
前回まではネタを探して、それをコンセプトとして固める、といういわば「内側」の話をしてきました。
今回はそれを見せる、伝える、届ける――など。
いわば「外側」の話をしたいと思います。
まずは皆様、「隠れた名作」というものについてどう思われますか。
これについては様々な意見、様々な議論があることでしょう。
今回、当コラムでは、そういった議論はしません。そうではなく、もっと根本的な話をします。
まず前提として、この「隠れた名作」を字義どおりに釈します。隠れた名作というのは、知名度こそ低いもののその内容は素晴らしく出色なものである、という意味であろうと考えます。
翻せばそれは、いい作品なのにさほど売れなかった、とも言えるかと思います。
良いもの――名作は必ず売れる、もしくはちゃんと売れるべき。そう思われる方も少なからずいらっしゃるかと思います。作り手側に立てば、なおさらそうであろうと思います。
このことについてはもちろん同意です。一方でそれは「幻想」――よくて「理想」だと思います。
そもそも良いものが必ず売れている世界であれば、「隠れた名作」なんていう言葉は生まれるはずがありません。
今までも、そしてこれからも。
いいものであっても売れなかったし、売れないという状況は悲しいことではあると思うのですが、多々生じるものです。
あの有名な画家のゴッホでさえ、枚数には様々な説はありますが、生前は書いた絵がほとんど売れなかったといいます。
どんなに良いものであろうと、売れる為にはちゃんとしたパッケージングや宣伝が必要不可欠であると考えます。
商業として出版すれば、前述した販促作業などは出版社が請け負うのが一般的でありますが、その前の段階、この連載が目指すWeb小説の投稿の段階では、投稿者本人がどうにかするしかありません。
では、どうすればいいのでしょうか?
よく、SNSで投稿して宣伝する、という手法がポピュラーかと思いますが、これは断言しますが、普通の方であれば、一回の宣伝につき一人くらいがクリックして小説を読みに来てくれる……これでもマシな方だと思います(フォロワーが10数万人いる方は別としての話です)。
多くの場合は効果がゼロです。
なぜならSNSを見ている人は、必ずしも小説に興味があるわけでは無いからです。
まず考えてもみてください。SNSで自分が興味の無いジャンルの情報、しかもそれがアマチュア作家によるものとして、自分のタイムラインにその話題が流れてきたとして見に行くでしょうか。大半の人は、そのままスルーしてしまうのではないかと思います。
それに比べれば、小説サイトの中で掲出情報などを見かけた人がクリックして読みに行く、という確率の方が断然高いです。
つまり小説サイトを開いている時点で、その方たちは、よほどの間違いでもない限りは「Webに投稿された小説」を読むこと目的とした人であるからです。
Web投稿小説に「興味がある」と「興味がない」のとでは、その前提からして埋められないほどの大きな隔たりができてきます。
つまり、パッケージングや宣伝といったものは、その小説サイトの中で、そこで特化しておこなうべきことなのです。
そして通常、サイト内で作品がまず目に触れるのは「タイトル」です。その次に「あらすじ」であると思います。
サイトのデザインに左右されるところもありますが、大抵はそうです。
たまに表紙イメージの画像を表示できるWebサイトもありますが、そこに注力してもリターンはさほどないように思います。
例えばこの連載が掲出されているネオページを例にあげるとしましょう。
なお、これはそのWeb投稿小説サイトのシステムを否定する意図はまったくございません。あらかじめ断っておきます。
まずはスマホで小説を読む、いわゆる「スマートフォン視点」での説明をしましょう。
ネオページのサイトを6インチ程度のスマートフォンで閲覧した場合、ランキングに掲載されている作品の画像サムネイルは、およそ「1平方センチ」程度でした。
もちろん表示を大きくしている方もいらっしゃるかと思いますが、ここではあくまでデフォルトの表示設定であるという前提でお話します。
デフォルトの場合、画像のサムネは1平方センチにやや届かない程度でした。
1平方センチ未満のサムネイルで伝えられる内容には限りがあります。情報量というのは、大体の場合表示される面積に正比例しますし、その面積に相当する上限になります。
現にネオページでも、この原稿を執筆している段階で確認したところ、4つくらいのサムネイルが掲出されていることくらいしか読み取れませんでした。
つまり、サムネイルで伝えられる情報には上限があると思うのです。そして、それらは決して多くない。
より分析したことを述べるのであれば、タイトルの表示の方がサムネイルよりも面積が広かったです。
つまり、「絵」よりも「文字(テキストスペース)」の面積の方が広いのです。
基本的に紙の本で、タイトルなどの「文字」が「絵」よりも面積が広くなることはあり得ますでしょうか。
理論上、「絵がない」というデザインでも無い限り、そのような事はありません。
そもそも紙の本で平積みされたと仮定した場合、本のサイズそのものがサムネに相当するので、タイトルなどの文字要素はその中に入ることになります。
理論上、紙書籍で文字をアピールできる機会は少なくなってしまうのです。
しかし、小説のWeb投稿サイトにおいては、タイトルの面積の方が(仮に表紙・サムネイルの要素があるとしても)広くなるケースは大いにあるかと考えられます。
これらのことから、タイトルをアピールした方が、Web小説を読まれる方へはより効果的である、ということが言えるかと思います。
余談ですが、皆さんは、いわゆる異世界系をはじめとする新文芸のタイトルが長いという事はご存じかと思います。
――が、実はその長くなった過程にも歴史があり、途中である理由が加わってさらに長くなった事をご存じでしょうか。
Web投稿小説サイト発の書籍が売れはじめた2013年頃のお話です。当のWeb投稿小説サイトいおいては、小説家の割合はPCユーザーが多勢でした。
「とあるWeb投稿小説サイト」の当時のアクセス解析では、PCユーザー、スマートフォンユーザー、携帯ユーザー(いわゆる“ガラケーユーザー”)の項目で順に分けられていました。
それらを信用する前提となりますが――当時はPCユーザーが多かったということになります。
その後じわじわとスマホユーザーが増えていき、作品やジャンルによって差はありますが、大体2017年頃にスマホユーザーとPCユーザーの比率が逆転しました。
スマホユーザーの方が多くなったのです。
なおガラケーユーザーは割合としてはものすごく小さく、かつ減少の一途でありますので、この話からは除外します。
PCとスマホのユーザー数、そしてPV数が逆転してからしばらくは特に何もなかったのですが、2018年から2019年頃に、一部の一部のクリエイターが
「スマホで見てもらったときは、タイトルの長い方が面積も広くて有利だ!」
と言い出しました。
今でもそうですが、スマホの「タップ」という行為は、パソコンのマウスやタッチパット(≒カーソル)に比べて、どうしても精度が低くなってしまいます。
スマホをお使いの皆様はおわかりかと思いますが、タップしようとしても微妙にずれてしまったり、何回も押し直したりしてイライラするのは一度や二度ではないはずです。
場合よっては、そこで見るのをやめることもあるのではないかと思います。
私にもそういう経験が何度もあります。
「何となく興味をもった」程度のものでしたら、何回かタップに失敗したらもういいや、となって諦められてしまうことがあるのです。
それはこの連載で何回も書いた話にも通じています。
他にも山ほどの数の作品がWeb投稿小説サイトには存在する。
面白さの保証がされているわけではないので、必ずしも初見の作品にこだわる必要もないのです。
その頃のWeb投稿小説サイトに投稿をしていた作者の間では、このスマホ独特のWeb掲出におけるメカニズム気づいて、限界一杯までタイトルを長くし、「タップが間違いなく反応するほど面積を広げよう」としたのです。
作品のタイトルは長くなる傾向にあったのですが、そこからさらに表記できる限界までタイトルを長くする傾向が強まったというわけです。
上に書いたような作り手サイドの考えや流れもあり、ことメジャーなWeb投稿小説サイト、そしてそこ発の作品においては、「普通のタイトル」、「文章系タイトル」、「極端に長い文章系タイトル」という変遷があったのです。
これはサイトのデザイン、そしてユーザービリティにそった適応進化と言えるのでしょう。
この、限界一杯まで長くする、は極端な例にしても、Web小説投稿サイトにおいて、「表示出来るぎりぎり一杯」を使って、限界までアピールし、他の作品と差別化を図ったりするのは当然のことだと思います。
では、作品タイトルを長くするとして、具体的な内容はどういうものがいいのか。
結論から申し上げますと――ログラインです。
前回話こちらで書かせていただいた「物語のコンセプトを1から3行にまとめる」ログラインをそのままタイトルにすればいいのです。
この1~3行というのが、Web投稿小説サイトにおいて見られた一連のムーブメントが結実した結果と言えると思います。つまり、「普通の長さの作品タイトル」から「極端に長い作品タイトル」への変遷の結果というわけです。
ですので、仮に3行にまとめたものなら、更にシェイプアップして1~2行くらいにして、それをタイトルにしましょう。
そして元の3行のものを、こちらはすこし文章量に余裕があるので、ある程度長くしてメリットこそあるもののデメリットが少ない「あらすじ」にしましょう。
よく、あらすじを長く書く人がいますが、これもログラインの説明をこちらで書いたときと同じことが言えると思います。
スポンサーの人達は多忙なので、作品チェックに割ける時間が少ない。
同じように、読者もあなたの作品に注視してくれる可能性は少ない。
目安としてタイトルの確認に1~3秒、あらすじには10秒くらいしか時間を割いてくれないと思ってください。
そうすると大体の人は作品の冒頭を読んで判断します。
冒頭で興味を持ってもらえない場合は、読み手は他の作品を探しに行くことになります。
であれば、冒頭の大体三行くらいに、作品の面白さをギュッと凝縮したログラインをぶつけたほうがいいのは明白です。
というわけでまとめです。
まず作品のログラインを作る、そしてそのログをあらすじにしつつ、更に1行に凝縮したものをタイトルにする。
こうすれば、この作品がどの作品であるのか、前回で言うところの「この店がラーメン屋かどうか」というのが相手に伝わります。
今回はここまで。次回はもう一段階テーマを掘り下げた、物語の世界観や設定の話をしていきたいと思います。